2005年北京生まれ、
3歳から創作を開始した
18歳のアーティスト

5月末、東京・原宿のギャラリーで個展を開いたというクロエ・チェン(Chloe Chen)氏。フクロウをモチーフにした独創的な作品やフィギュア、グッズなど約20点を展示し、自身初となる展覧会を成功させた。

2005年に北京市の富裕層の家庭に生まれ、幼い頃から絵画の才能を開花させた。5~6歳の頃に絵画教室に通ったことがあるというが、その後はほぼ独学。インタビューに同席した母親によると「幼い頃から何事にも敏感で、物事の捉え方が変わっていた。娘の独特の発想や絵の才能をできるかぎり伸ばしてあげようと、本人を束縛しないように育ててきた」という。

中国の同世代の若者といえば、今年も6月上旬に実施された「高考」(大学統一入学試験)が日本でもよく知られている。有名大学への進学を目指し、長時間、受験勉強に励む高校生が多いが、チェン氏の場合、そうした生き方は選択せず、中国国内の教育は中学の途中までしか受けていない。

14歳でアメリカに渡り、専門学校でアニメなどを学んだ後、16歳のときに来日。都内の専門学校で漫画を学んだ。現在は北京に戻り、自身のアトリエで絵を描くほか、たくさんの本を読んだり、インスタグラムなどSNSで情報を発信したりている。今後、再びアメリカに渡り、日本にも来る予定だ。これまでに日本をはじめ、世界数十カ国を旅して見聞を広めたことが、自身の創作活動の役に立っていると話す。

中国のトレンド,リーダー,中国のz世代,クロエチェン,chloe chen,リンウーホー,富二代,中国 富裕層
写真提供:クロエ・チェン
東京・原宿で開かれた、クロエ・チェン氏の初の個展の様子
楳図かずおや伊藤潤二、
デビルマン、クレヨンしんちゃんが好き

「ヨーロッパはほとんど行きました。イギリス、フランス、イタリア、スイス、北欧の国々など。歴史を感じさせる古い街並みや建物が大好きです。中東やアジア各国も行きましたが、中でもいちばん好きなのが日本です。日本には10歳くらいの頃からたびたび行くようになり、アートのインスピレーションを強く受けるようになりました。日本で大好きな街は東京の中野。中野ブロードウェイ(サブカルチャーの聖地といわれるJR中野駅前の複合ビル)が好きで、小さな雑貨店、専門店、商店などを見て歩くことが好き。東京は大都会ですが、少し散歩したら、きれいな川があったり、自然環境がとてもいい。文化レベルも非常に高いと感じます。世界でいちばん住みたいのは日本です」(チェン氏)

そうした理由で、初めての個展は東京で行いたいと考えたそうだが、創作の影響を受けたのも、主に日本のアーティスト、漫画家、作家だという。

「日本では、楳図かずお氏、湯浅政明氏、田中達之氏、駕籠(かご)真太郎氏、丸尾末広氏、伊藤潤二氏、村上春樹氏、森本晃司氏などが好きです。とくに日本の80年代~90年代のホラー漫画やアニメに興味があり、私の作品にも投影されていると思います。中でも好きな作品は『デビルマン 誕生編』(1987年)、『地下幻燈劇画 少女椿』(1992年)、『ペットショップ・オブ・ホラーズ』(1999年)、90年代の劇場版『クレヨンしんちゃん』など。これらは繰り返し見てきました」(チェン氏)

クロエ・チェン,nightmare,悪夢,chloe chen
写真提供:クロエ・チェン
クロエ・チェン,nightmare,悪夢,chloe chen,vertigo,めまい
写真提供:クロエ・チェン

何回も来日して美術館や映画館、
書店に足を運ぶ
日本滞在中の
生活費は、
月に100万円弱

中国のトレンド,リーダー,中国のz世代,クロエチェン,chloe chen,リンウーホー,富二代,中国 富裕層
写真提供:クロエ・チェン

他の中国の00后(リンリンホー、2000年代生まれ)、05后と同じく、SNSネイティブだ。生まれたときからネットに触れることが当たり前で、自分たちが生まれるずっと前に大ヒットした作品や、マニアックなジャンルの作品にネットで触れてきた。

これらの日本のアニメや映画もすべてネットで知り、夢中になったというが、彼女の場合、実際に何度も来日して、美術館や映画館、書店などに足を運ぶ機会がたくさんあるところが、同世代の一般の中国人とは比較にならないほど恵まれている。

日本滞在中の1カ月の生活費を聞いたところ、「だいたい5万元(約100万円弱)くらい」。日本人の美術講師を個人的に雇い、レッスンしてもらうこともあると話していた。

一人っ子政策第1世代以来、
中国の若者はどんどん豊かに繊細になってきた

私もこれまで中国の90后(ジウリンホー、90年代生まれ)、95后(ジウウーホー、95年以降生まれ)には数多く取材してきた経験がある。中国の一人っ子政策の第1世代で、「新人類」といわれた80后(バーリンホー)と比べても、さらに経済的に豊かになった中国に生まれ育ったのが90后や95后だ。彼らは社会的成功よりも個人の幸せを追求したり、趣味を重視したり、好きなものはとことん消費する人が比較的多いと言われているが、00后になると、さらにその傾向は強くなる。「盲盒」(マンフー、中国版ガチャガチャ)の流行などからも分かる通り、中身を見ないでモノを買うことに何の抵抗もなく、他人を疑うことも少なく、繊細だ。

これまで取材した中には「高校までの間に数カ国に旅行したことがある」という人もおり、比較的エリートの家庭で育った人もいたが、18歳で世界の数十カ国を旅行したことがあるという若者に出会ったのは初めてだった。

中国で増加している富裕層の子ども(富二代)には、チェン氏のように、幼い頃から何不自由なく育ち、世界中を旅行し、一流の芸術や文化に触れて感性を磨いてきた人が多いと聞いていた。彼女はまさにそうした新世代の一人なのだろう。

中国のZ世代は、日本人の思う
“中国人像”とは大分異なる

中国のトレンド,リーダー,中国のz世代,クロエチェン,chloe chen,リンウーホー,富二代,中国 富裕層
写真提供:クロエ・チェン

彼女の話を聞いていて、私は以前、取材した在日中国人から聞いた話を思い出した。その人によると、「昨今の恵まれたZ世代の若者の中には、幼い頃から欧米に留学して、現地でファッションセンスを磨いたり、欧米スタイルのビジネスを学んだりする人が多いのです。英語もペラペラで、世界中に人脈、中国人富裕層のネットワーク、コミュニティがある。中には、中国に戻って自分のブランドを立ち上げたり、プロデュースしたりする人もいますが、世界に羽ばたいて、国際的に活躍する人材もいます。数年後、ますますそういう人が増えてくる時代になるのではないでしょうか」という話だった。

日本では、中国人富裕層といっても、ジャック・マー(馬雲)氏などを除いて、具体的にイメージしにくいし、多くの日本人は彼らと接触する機会がない。だが、彼らの中には、ニュートラルに見て日本文化を非常に高く評価したり、頻繁に来日したりして、日本から多くのものを吸収している人が少なくない。

最後、チェン氏に「日本は昔から中国文化の影響をたくさん受けてきたが、中国で生活していて、日本文化の影響を感じることはあるか?」と聞いてみたところ「もちろんです。中国だけでなく、日本文化は世界中に影響を与えていると思います」という答えが返ってきた。彼女らのような若者は、もちろん中国のごく一握りにすぎないが、その存在感は大きい。彼女たちが中国の未来にどのような影響を与えていくのか、考えさせられると同時に、時代の変化を痛感させられた。

ダイヤモンドオンラインのロゴ
DIAMOND online