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※この記事は2021年8月19日に「POPULAR MECHANICS」で公開された、コートニー・リンダーの記事に敬意を表しながら日本版で補足を加えています。

  • ここで紹介するYouTube動画では、2台のボストン・ダイナミクス社のロボットがパルクールのような動きを実施しています。
  • ただし、この2体が「パルクールができる」ということだけが重要なわけではありません。人間のような器用さをロボットに学ばせるため、限界まで分析・開発・テスト・振り返り・改善のサイクルを重ねていることに注目ください。
  • これら実験用ロボットが一見、風変わりなテストを繰り返すことによって、科学者たちはさらに実用性を発揮する商用ロボットの開発を推し進めているのです。

パルクールを行うロボット登場!

怪我を伴う(時に死まで直面するような)危険なチャレンジを平気でこなすパルクール(Parkour=フランスの軍事訓練から発展して生まれた、走る・跳ぶ・登るといった移動所作に重点を置いたスポーツもしくは動作鍛錬)。このスポーツは、コンサバな心の持ち主には到底向いていないでしょう。ですが、ここに登場する2体のアスリートはロボットゆえ、「心がない」ということで問題はないでしょう(ただし、今のところは…)。

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下記で紹介しているYouTube動画は、昨2021年8月17日にリリースされたボストン・ダイナミクス(Boston Dynamics=米マサチューセッツ州ウォルサムを拠点とするロボット工学会社)が開発する、驚くほど人間らしい動きを実行する二足歩行ロボット「アトラス(Atlas)」です。そんな彼ら(ここではあえて、人に対して示す遠称の指示代名詞を使わせていただきます)が、実験の一環である「パルクールコース」を見事修了したことをわれわれに共有してくれました。もちろん、これもプロモーションの一部でしょう。

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冒頭でループさせているクリップは、言わば、パルクールコースでの中間テスト時の映像とでも言いましょうか…。残念ながら、そのときは赤点でした(笑)。これは、ここで主役となる下記の映像『Atlas | Partners in Parkour』と同日にリリースされた舞台裏映像、『Inside the lab: How does Atlas work?』からの切り抜きです。全編を観ればわかりますが、テストは失敗続きだったようです…。

ですが、ロボット自身というより…科学者たちの絶えまぬ努力の結果、こんなにも見事にパルクールをこなすロボットパルクーラーへと成長しました。ではここで、主役の映像をご覧ください。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Atlas | Partners in Parkour
Atlas | Partners in Parkour thumnail
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最初のロボットは木製の傾斜路を飛び越え、次に階段を上り、さらに隙間幅数フィートあるのプラットフォームを飛び越えたのちに階段を降り、続いて弧を描く傾斜路を5歩でわたります。そんなルーチンをこなしたあと、交差するようにもう1体の「アトラス」も登場…。このあとは、ぜひとも動画で確認してください。

バク転まで成功することで、
少々怖さも感じます…

少々ネタバレさせていただくと…2体がナイスなコンビネーションでバク転を決めたかと思ったら1体が、あたかも「何のこれしき」といった表情(のように見える動作)で肩のホコリを払っています。そんなシャレも効かせた「アトラス」の動作は、この開発に当たった科学者たちのセンスの良さを感じさせます。

これはぜひとも、ご自身の眼で確認するべき映像です。ですが(もしかすると)、それは次第に不気味な印象も芽生えさせるかもしれませんが…。

まずここで注目したいことは、高価な二足歩行ロボットたちに「なぜそこまで、危険な動作テストをするのか?」ということです。もし失敗したら、二度と立ち上がれないほど壊れてしまうことも予想できるのに…です(同社はすでに、4脚ロボット「Spot(以前はSpotMini)」を2020年6月からオンライン販売していますが、その価格はそのとき7万4500ドル<約800万円>でした。それからこの「アトラス」の価格を予想するなら、10万ドルは超えるかもしれません)。

"基本動作をテストだけでなく、
踊ったりパルクールを
したりするのを見るほうが
はるかに楽しいでしょう!"

ボストン・ダイナミクス社自体、このヒューマノイドロボットの開発における困難さを認めています。それは本体サイズの大きさのわりに、細かな動きを実現させようとしているためです。そこで必要となる適切な強度と重量バランス、さらに動作範囲の設定なども計算した上での物理的堅牢性さの開発に苦悩しているということです。

しかし、繰り返しになりますが、それがポイントなのです。 「最終的には、『アトラス』のようなヒューマノイドロボット開発における限界点を押し上げることで、それに伴ってハードウェアおよびソフトウェアの革新も促進されるのです。そうしてそれが、ボストン・ダイナミクス社が開発する全てのロボットに反映されるのです」と、同社は8月17日のブログ投稿で述べています。

再度言い換えるなら、「パルクール自体が重要なことではない」ということが、ここでも確認できるわけです。パルクールの実施は、あくまである目的を達成するための階段の一段であり手段のひとつなのです。

ロボット工学の世界おいては、積極的に「サンドボックス」(一般てにはコンピュータの中に設けられた独立した「仮想環境」。その隔離された領域においてプログラムを実行してみることで、問題発生時においてもほかのプログラムに影響を及ぼさないようにする仕組み)を活用すべきことは常識です。

シミュレーションやラボの仮想空間ではなく、実際の現実空間には、ロボットが回避すべき障害(ここでは文字どおり)がたくさんあります。例えば、ヘルスケアロボットが患者の薬を落としたときに現状のコースを修正したり、捜索救助活動を行うロボットが現場で倒木を乗り越えなくてはならない場合など…。予想外の障害を目の前にしたとき、どのように対応すべきかを、繰り返してテストしておく必要があります。

「これらの取り組みで注力すべきことは、その開発チームの熱心さ以上に『ロボットのハードウェア(および関連する制御アルゴリズム)の限界を確認するためには、どんなテストをすべきか?』を見極めることです」と、オハイオ州立大学工学部長であるアヤンナ・ハワード(Ayanna Howard)氏は「ポピュラー・メカニクス」編集部の電子メールに答えてくれました。ハワード氏自身の作品の中では、“感情と動作の一致の証”してロボットダンスを選んでいます。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Do You Love Me?
Do You Love Me? thumnail
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ニューヨーク市マンハッタン区イースト・ヴィレッジ地区にある私立大学、クーパー・ユニオン(The Cooper Union for the Advancement of Science and Art)で機械工学の助教授を務めるミシェル・ローゼン(Michelle Rosen)氏もこれに同意します。

「このテストこそ、そのテクノロジー自体がいかに優れているかを明確に証明できるものです。行動アルゴリズムとその連鎖反応を厳密に評価できる、実に素晴らしいテストベッド(大規模なシステム開発において、実際の運用環境に近い状態で技術検証を行うプラットホーム)です」と、ローゼン氏も「ポピュラー・メカニクス」編集部に電子メールで説明してくれました。

さらに、「基本的なテスト手順を実行するのを見るよりも、このようなパルクールを行ったり踊ったりするのを見るほうがはるかに楽しいですよね? これに関しては、当事者である科学者にとっても同じことなのです!」と説明します。

さらにローゼン氏は、重要な発言もしてくれました。これらのテスト結果があってこそ、次世代ロボットの開発に大いに役立つということ。

「最終的なわたしたちの目標は、あなたや私のように(あるときは、先日婚約を発表したばかりのシモーネ・バイルズ選手を凌ぐほどの)動きが任意で実行できるロボットなのです」と、彼女は説明します。

さらに、「“アトラス”で機能するアルゴリズムとプロセスは、ヒューマノイドロボットだけでなく、ロボット工学全体に対して幅広い影響を及ぼします。ここ最近の制御アルゴリズムおよび動的モデリング(振る舞い)における急速な発展は、ボストン・ダイナミクス社で行われた研究から生まれたものと言って過言ではないのです」と言います。

センスある科学者が
開発し続けている限り、
恐怖を抱く必要はないでしょう…

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Inside the lab: How does Atlas work?
Inside the lab: How does Atlas work? thumnail
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このようなパルクールのトリックを成功させるためボストン・ダイナミクス社は、「行動ベースの制御アーキテクチャ(behavior-based control architecture)に類似した、プログラミングを使用した可能性が高い」とハワード氏は語ります。

そのプロセスにおいては、ロボットは近くの環境を自ら認識し、関節の現在の状態または次のような要因に基づいて行動する特定の動作を積極的にプログラムしておく必要があります。これは、その順序も厳密に実行しなければならないタスクです。

「その入力に応じて、ロボットはそこで保存された一連の動作の中からひとつの答えを選択して、次のアクション(動作)を決定します」と、ハワード氏は重ねて説明してくれました。

従ってこの“アトラス”は、100%自律型とは言えないのです。なので、この一連の動画を観て恐怖心に苛まれた人はここでひとまずご安心でください…。ません。狂気に満ちた“アトラス”が、あなたの家にやってくるのを恐れはないに等しいのです。 特定のドメインで、特定の動きだけが実行できるようプログラムされているだけです(ただし、狂気の方向にプログラミングする科学者がいれば…どうなるでしょう???)。

しかし、このようなテストは行う前から失敗することは確実なこと…。 ボストン・ダイナミクス社によると、「“アトラス”によるパルクールのパフォーマンステストは、目標時間の半分ほどしか達成できていません」と言います。 確かにこの種のロボットでは、錠剤の調剤など実用的なことを行うほうが簡単かもしれません。

全くそのとおりではありませんが、ハワードは以下のようにも説明します。

「実際、パルクールのトリックは、もっと進化させなければなりません。現実の世界を考えてみてください。あるオブジェクトを遂行させなければならないとき、例えば人で混雑する場の中を移動したのち、ケア施設にあるランダムな向きに配置された薬瓶をピックアップして医師または患者の届けなければならない状況を。それの状況下でタスクを成功させることも同様、またそれ以上に難しい問題です。これが人間同士であれば、互いに行動をコントロールし合い、さらに互いを思いやっているので、それほど難しくはないでしょう」と言います。

つまり、例えバク転が失敗のままであったとしても、この“アトラス”はインターネット上で話題となっている多くのクールなロボットよりも、たくさんのタスクを実施できることは間違いないでしょう。そして、いまのうちはセンスのある科学者が開発に当たっているようなので、シンギュラリティ的悲劇に恐れ抱く必要もなさそうです…。

そして2022年2月15日、現状の開発の様子もYouTubeで公開されました。今後も、このボストン・ダイナミクス社の動きには目が離せません!

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Inside the Lab: Robotics After Hours
Inside the Lab: Robotics After Hours thumnail
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preview for Robots Do Stand-Up, Too
From: Popular Mechanics