※本記事では、実の本質にかかわる難題を問う4つの思考実験の記事内で紹介しているひとつ、『双子のパラドックス』について解説していきます。


双子のパラドックスとは?

1905年にアインシュタインが発表した特殊相対性理論の論文「動いている物体の電気力学」で、「速く移動するほど、止まっているものより時間の進み方が遅くなる」としました。つまり、ふたつの時計があってそのうちのひとつが移動しているとき、移動している時計のほうが時間の進み方が遅くなる…。それについて、アインシュタインは次のように記述しています。

「同じ時刻を刻む2つの時計がA点に置かれているとき、そのうちのひとつを、A点を通る任意の閉曲線にそって一定の速さvで動かし、t 秒後に再びA点に戻ったとき、この時計は動かさなかった時計よりt(v/c)2/2秒だけ遅れている」ということ(※c=光速2.99792458×108m/秒のこと)。

子供の科学のWebサイト」には、具体的にこう解説されています(「具体的」と言われても、なかなか難解ですが…)。

「もし光の速度の99.5%の速さで移動できたら、止まっている場合より10倍も時間が遅く進む計算です。例えば12歳のあなたがそのスピードの超高速宇宙船に乗って出発し、宇宙船の時計の5年後に戻ってくるとします。でもその時計は地球より10倍遅く進むので、地球では50年が経っていて、あなたは17歳でも友達は何と62歳になっているのです。この時間の遅れは現実に起きています。カーナビゲーションなどで正確な位置がわかるのはGPS衛星のおかげですが、GPS衛星は時速約1万4000kmという高速で移動するので、地球の時計より毎日100万分の7秒遅くなり、そのための補正が行われています」

アインシュタインにとっては、
『時計のパラドックス』だった

このように自身の「Time dilation(タイム・ディレーション=時間の遅れ)」に関する概念に対して疑問をもったアインシュタインは、『時計のパラドックス』として思考実験による検証とも思える自問自答を重ねたわけです。でもなぜ、「時計」ではなく「双子」なのか? それは…1911年にフランスの物理学者ポール・ランジュバンが、これを双子をモデルしたパラドックスに仕立てたことによって、世にさらなる共感を得ることとなり、『双子のパラドックス』という名で広まったというわけです。

ちなみに当時のランジュバンは、フランスの当該領域における最高の権威として位置づけられる国立の特別高等教育機関「コレージュ・ド・フランス(Collège de France)」の教授(余談ですが、キュリー夫人ことマリ・キュリーとの恋愛関係にあったとされる偉大な人物)でした。1922年には、アインシュタインをコレージュ・ド・フランスに招くなどして、フランスにおいて相対性理論を広めることに貢献した一人でもあります。

man running on rolling clock
C.J. Burton//Getty Images
※写真はイメージです。

 🤔 ⏱ 🤔

時計から双子へと主役が
変わることでさらに印象的に

そこで双子に展開する、パラドックス(矛盾)とはどんなものか? 改めて探ってみましょう。「双子のうち弟が地球に残り、兄がロケットに乗って光速で地球を離れてある星へと向かいます。そして、その星に到着後に再び地球に戻ってきた」というストーリーからなる思考実験です。

このとき地球に居続けた弟側にしてみれば、兄は高速で移動していたことになるので兄の時間に遅れが生じ、弟に対して兄のほうが年をとっていないことになります。ですが、その一方で兄側にしてみれば、弟は地球と一緒に自分から高速で遠ざかっていたわけなので、弟のほうこそ年をとっていないと主張する…。 このことから、「運動する座標系では時間が遅れる」という前出の特殊相対性理論の一つの結論が破られるのでは? というパラドックスをアインシュタインは思考したというわけです。

このパラドックスについては、Q&A ボードの「Stack Exchange」やその他の物理学ディスカッションで熱い議論が交わされてきました。学術誌「Journal of Applied Mathematics and Physics』に掲載された2021年の論文によると、この問題はいまだに解決されていないそうです。

実際に起こることですが、
いまだに解明されていない問題

「双子のパラドックスを説明するために数多くの試みがなされてきたが、それらは2つのカテゴリーに分けることができる。ひとつは非対称性に基づいたものであり、もうひとつは加速に基づいたものである」と、この論文の共同執筆者でウィスコンシン大学パークサイド校のふたりの教授、ピルーズ・モハザビとキングア・ルオは述べています。

「双子のパラドックスを解決するために、非対称性の議論を持ち出してくる著者もいる。彼らは『双子Bのほうはプロセス全体においてひとつの慣性基準体系の中にとどまっていない』と主張している。『宇宙に向かっているときの基準体系と、地球に戻ってくるときの基準体系が異なっている』というものになります」と…。

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Donald Iain Smith//Getty Images
※写真はイメージです。

「二つめの考え方は、『地球を離れていく双子の一人は加速しているのに対し、地球にとどまっている双子のもう一人は加速していない』という議論である」と、モハザビとルオは書いています。「中には、『基準体系が加速している場合は、時間の遅れの方程式は無効である』と主張する者までいる」と、加えています。

ですが、この論文では「例えば双子の両方ともが加速してお互いから遠ざかりながら、なおかつ地球から離れて行った場合、非対称性と加速に基づいた説明は成り立たない」と述べられています。このような例外は、ほかにもあります。

Time dilation」として知られている、この移動によって生じる時間の遅れは、複数の実験を通じて検証*1されています。つまり、なぜそういうことが起きるのかはわかりませんが、そういうことが実際に起きることもわかっているというわけです。

*1参照:
Einstein's "Time Dilation" Prediction Verified
Experiment with speeding ions verifies relativistic time dilation to new level of precision
JILA Atomic Clocks Measure Einstein’s General Relativity at Millimeter Scale

※これもまた、あいままな解説で恐縮です。さらに正確かつ詳しく知りたい人は、ぜひご自身で研究を重ねてください。

Source / POPULAR MECHANICS
Translation / Satoru Imada
※この翻訳は抄訳です。