想像してみてください。あなたは宇宙飛行士として宇宙ステーションに滞在しています。仲間のクルーとトラブルが生じ、彼らが信じられないような行動に出たら…つまり、あなたをエアロック(圧力調節室)へと押し込み、宇宙ステーション外へと放り出したとしたなら…? そんなとき、あなたの身には一体どんなことが起きるのでしょうか?

宇宙服も空気も何の装備もなく、ただ、身一つで宇宙の真空空間に放り出される…。こんな悲惨なシナリオで生き残りたければ、一刻を争う行動が必要になります。シュワルツェネッガー主演の映画『トータル・リコール』(1990年)のあのシーンを思い浮かべる人もいるかもしれません…。

まず、想像を超える寒さが襲う

しかし、この時点で凍死する心配はありません。ご存じかもしれませんが、宇宙は概して低温。それは、(ビッグバン理論の証拠としても挙げられていますが)「宇宙誕生時の名残の光子が宇宙の膨張とともに温度を下げながら、黒体放射として現在の宇宙を一様に満たしていることに起因する」と考えられています。この黒体放射は「宇宙マイクロ波背景放射」と呼ばれ、温度は約3K(ケルビン。3Kで-270.15℃)という低さなのです。

人間の身体というのは、真空の宇宙空間に置かれた場合は特に、「放熱の効率がかなり悪い」と言われています。人体の放熱方法としては、「対流」「伝導」「放射」の3つがあります。「対流」は、暖かい空気が高いところへ上昇するような流体の移動のことです。「伝導」とは、物理的接触を介した熱の移動のことで、うっかり熱いストーブに触ったときなどがコレにあたります。「放射」とはその名のとおり、電磁放射線の放出です。

💀 「0K(ゼロケルビン)」とは、絶対零度、つまりこれよりも低い温度は存在しないという温度で、分子の運動さえも停止してしまう温度です。宇宙の中でこの温度に達する場所は、どこにも確認されていないとのこと。現時点では、絶対零度とは理論上でのみ可能な温度とされています。

身体の周囲に空気や水がなければ、対流や伝導によって熱エネルギーが体外に移動して、身体から熱が奪われるなどということはありません。となると唯一の方法は、放射です。「人体は通常、約100ワットの赤外線(旧式の白熱電球と同程度のエネルギー量)を放射している」とされてます。そのこと自体は驚くことではありませんが、この放射によって「体温が氷点下まで下がるには、数時間かかる」と言われています。

ただ、宇宙空間の低温と真空状態は、放射によって体温が下がってしまう前に、他の方法で人体に襲いかかります。まず、真空中では皮膚表面の油分や水分がすぐに蒸発してしまい、「皮膚には凍傷のような跡が残る」と言います。

また、人体の周囲が真空でも、人間の皮膚は体内の恒常性を保つ機能に優れているため、血液が沸騰したり眼球が飛び出たりすることはないそうです(…ということは、前述の映画の描写はいかがなものか? となりますが、後述をお読みください)。が、その代わり、真空状態によって稀に引き起こされることがあるエブリズム(ebullism、体液沸騰症)にかかるとされています(語感は似ていますが、「エンボリズム<embolism、塞栓症>」とは異なります)。

エブリズムは、皮膚の表面が真空にさらされたときに起こるとされています。身体の外側の圧力が低くなることで、皮膚のすぐ内側の液体が気化し、身体が膨張するそうです。幸いなことに、エブリズムの完全な影響を解明するような実験的証拠は多くありませんが、誤って真空状態にさらされ、通常の2倍の大きさに身体が膨張した例もあるということ。

このことから長い時間は無理ですが、「数分以内に加圧環境に戻ることができれば、一般的には生存可能」と考えられています。

ですが、数分の生存時間でさえ得るのは難しいようです。

息を止めるべからず

エアロックから空気が抜けた瞬間、水中に潜るときと同様に、息を止めて時間を稼ぎたい気持ちにかられるかもしれません。ですが、それは最悪の考えと言えます。

問題は、「身体の中でデリケートな部分(特に唇、喉、上気道系)は、真空状態で肺に空気がある状態を維持できるようにできてはいない」ということです。あなたの最善の努力にもかかわらず、肺の中の空気はすべて出て行ってしまうでしょう。それを抑えようとすると急激な空気の排出を起こし、排出される途中で取り返しのつかない損傷を起こしかねないのです。

「では、どうすればいいのか?」 と言うと、「息をただ吐き出せばよい」ということになります。

ですがここに、最終的にあなたを死に至らしめる根本的な問題があります(これがまさに、真空の定義ですが)。「宇宙には呼吸するための空気がない」ということです。しかしあなたの脳は、(少なくとも、あなたの自発的な制御下にない部分は)そんなことを知りません。心臓は鼓動を続け、循環器系も機能し続けています。が、肺には空気がありません。

低酸素状態の血液が肺に流れ込むと、新鮮な空気を拾って全身に運ぼうするのですが、酸素がないのですからそのまま全身に回り、あっという間に全身の血液の酸素飽和度が低下します。人間の身体は、酸素不足という重大な事態を認識すると直ちに緊急モードに入ります。最も重要な機能を維持して酸素をできるだけ温存するために、身体は最も酸素を必要とする部分、つまり意識をつかさどる脳をシャットダウンすることがわかっています。

それぞれの人の生理機能の違いにもよりますが、一般に「意識を失い、完全に失神するまでの時間は6~12秒」と言われています。この時間こそが、あなたが生命の制御状態を維持し、無事でいられるための分かれ目となるでしょう。この間ですぐに他の誰かに救助され、凍傷による損傷やエブリズムによる知られざる副作用に対する治療ができれば、比較的正常な状態を取り戻せる可能性があるというわけです。

もし助けがなければ…、酸素不足で死に至るでしょう。主要な臓器が次から次に機能を停止し、わずか数分後にはあなたの身体は臓器不全に陥り、医学的な“死”に至るというわけです。

死後の「宇宙の旅」

死を迎えた次はどうなるのでしょうか? それは「あなたが宇宙のどこにいるか?」。まさにその位置次第です。

「大体でも地球の軌道上にいるなら、凍ることはない」と考えられています。地球周回軌道上では、太陽は9300万マイル(約1億5000万キロ)も離れていますが、強烈な放射線を放出しているため、遺体となったあなたの身体は今後何世紀にもわたって体温を維持できているでしょう。地球上で水が液体の状態を維持しているのとまさに同じ理由となりますが、液体を維持するのに十分すぎるほどの熱エネルギーがあり、それがあなたにも同じ効果をもたらす、つまり完全に凍らずに済むというわけです。

しかし、その暖かさには代償を伴います。地球にいるときと違って大気圏に守られているわけではもく、宇宙船の外にいる状況では、太陽の強烈な紫外線があなたの肌を徐々に焼き尽くしていくでしょう。

では地球周回軌道から大きく外れた真空地帯や、永久に太陽の陰になる場所にいた場合はどうでしょう? そこでは、やがて「人間アイスキャンディー」になってしまうかもしれません。赤外線に照らされてゆっくりと光りながら、体温は最終的に周囲の過酷な低温と平衡状態に達することになると考えられています。

存在しない画像

氷の結晶に覆われ、凍った遺体(固形)の状態で、あなたは惑星間をあてもなく漂うことになるはずです。たまたま不運な軌道上にいない限り、今後数十億年の間、微少隕石より大きなものにぶつかるようなこともないでしょう。

とは言え、こうした微少隕石と数え切れないほどの衝突を繰り返すことで、微細なへこみ傷が少しずつ蓄積していき、それによるダメージを受けることになるはずです。とてつもなく長い時間をかけて、終わることのない衝突があなたの遺体を分解し、かつてあなたの身体を構成していた有機分子をバラバラにして、それが広く拡散されていくと考えられます。

太陽から降り注ぐ高エネルギー放射線は、それらの粒子の一部と衝突するでしょう。個々の衝突確率は極めて低いわけですが、なにせ何十億年という時間があるのです。偶然の衝突によって、有機分子の一部が太陽系脱出軌道に乗れば太陽系を離れ、星間空間へと旅立つのに十分なエネルギーを得ることもあるはずです…。

運がよければ、それらの分子が新たな太陽系の形成に組み込まれ、もしかしたら遠く離れた未知の世界で、新たな生命体の出現に再利用されるかもしれません。

source / POPULAR MECHANICS
Translation / Keiko Tanaka
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です