記事のポイント

  • 1986年4月26日、ウクライナのチェルノブイリで原子炉がメルトダウンし、人類は世界最悪と言える核災害に直面しました。
  • それから40年近くが経ち、原発の周辺地域はほとんど廃墟と化しています。が、ウクライナは「この被ばく地域を大規模な風力発電プロジェクトの地に変えたい」と考えています。
  • このプロジェクトは、キエフ近郊に1ギガワットのエネルギーを供給することを目的としていて、これはおよそ80万世帯に電力を供給するのに十分な量です。

チェルノブイリで始まった
復興に向けたプロジェクト

チェルノブイリと言えば、約40年前に起きた痛ましい原発事故が有名です。それから何十年もの間、立ち入り禁止区域となった発電所周辺の半径18マイル(約29キロメートル)以内では1ワットのエネルギーすら生み出すこともなく、ただただ「ダークツーリズム(被災跡地や戦争跡地など、悲劇の地を訪れる観光)」の対象や突然変異を起こした動物たちが住む場所となりました。

ですがこの5年間で、チェルノブイリが変わりつつあります。

2018年には立ち入り禁止区域に1メガワットの太陽光発電所が開業し、約2000世帯分のエネルギーを生み出しているのです。さらにウクライナ政府はそれだけにとどまらず、「いつの日か、この地域を“クリーンで気候変動に優しいエネルギーのシンボル”に変えたい」と考えています。

そのプロジェクトの詳細は、「チェルノブイリを1ギガワットの風力発電所に変え、ウクライナの首都キエフ近郊の80万世帯に電力を供給する」というものです。もしウクライナがこの構想を実現すれば、ウクライナの戦争はまだ続いていますが、ヨーロッパ最大級の風力発電プロジェクトとなるでしょう。

チェルノブイリが大規模な風力発電所を開業するにあたって魅力的な場所である理由は、いくつかあります。「敷地内に既存のインフラがあり、ゼロから建設するよりも性能をアップグレードできる」ということ。そして、「場所がウクライナ最大の都市に近くであること。さらに立入禁止区域はゴーストタウン状態であるため、開発による全体的な影響は小さい」とのこと。その風力発電所はドイツのNOTUS Energy社によって建設され、ウクライナの送電システムオペレーターであるUkrenergo社によって運営されます。

chernobyl general imagery
Sean Gallup//Getty Images
2017年8月19日の撮影。チェルノブイリ近郊にあるチェルノブイリ原子力発電所で、被災した4号機の上に建てられた新しい囲いが遠くに見えます。

放射性物質による影響の
心配はないのか

世界を変えたチェルノブイリ原発事故から40年近くが経とうとしているものの、「放射性物質が降り注いだ場所で長時間働くことが安全かどうか?」については、いまだ疑問が残ります。国際原子力機関(IAEA)によれば、ストロンチウム90やセシウム137のような放射性物質の一部は、立ち入り禁止区域の大気中にまだ残留しています。が、それは“限られた期間だけ許容できる被ばくレベル”ということです。

実際、この地域の住民の中には、自宅に戻ることを決めた人もいます。被ばく量は通常よりも高くなりますが、「少量の放射線を長期間浴びることは、短期間に大量に浴びること(チェルノブイリ原発事故ではこれが致命的だったとされています)ほど有害ではない」と考えられています。

ただ、ウラジーミル・プーチンのウクライナ侵攻時に発電所周辺の土を掘ったロシア軍兵士の中には、「放射線障害が出た」という報告も。そこでグリーンエネルギー関連のニュースサイト『Recharge』によると、「プロジェクトのパートナーたちは、環境への影響や潜在的に危険な放射線を抑えるために最適な場所を見極めることも含め、プロジェクトの進め方を検討中だ」と言います。

ウクライナ当局者によれば、立ち入り禁止区域を“復興区域”に変えるこのプロジェクトは、2022年2月のロシアによる侵攻以前から進められていたとのこと。このプロジェクトに関わっていた人々は、次のように言います。

「結局、この地域は数週間ロシアの支配下にあったので、この侵攻によりチェルノブイリのこの構想は遅れることになりました。ですが、プロジェクトは破綻していません」

災厄の象徴として40年が過ぎようとしている現在、チェルノブイリはようやくページをめくり、グリーンエネルギーのシンボルへという新たな章をスタートさせる準備が整ったようです。

source / POPULAR MECHANICS
Translation & Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です