記事のポイント

  • 国際宇宙ステーションで行われた実験で、科学者たちはマウスの胚を育てることに成功しました。
  • この実験から、重力は胚の初期分化に悪影響を及ぼさないことがわかりました。
  • 研究チームは、「これは哺乳類が宇宙で繁栄する可能性を示す、初めての研究です」と主張しています。

人類の宇宙植民地化が将来の目標であるならば、マウスが“微小重力環境におけるライフサイクル全体の管理方法”を把握する鍵になるかもしれません。

マウス実験が将来の
宇宙植民地化に向けた
重要な鍵を示唆

生命科学、物理科学、地球科学を扱うオープンアクセスジャーナル『iScience』誌に最近論文を発表した日本の研究者たちは、「哺乳類が宇宙で繁栄できる可能性を、初めて示すことに成功した」と主張。次のように述べています。

「培養したマウス初期胚を国際宇宙ステーション(ISS)内で胚盤胞(胎児と胎盤を形成する細胞)に発育させることで、国際宇宙ステーション滞在中は哺乳類胚の胚盤胞形成と初期分化に重力が大きく影響しないことを明確に示すことができました」

この主張の一番のポイントは、“繁栄”です。2016年にさかのぼりますが、中国の研究者グループは6000個の胚を人工衛星で宇宙に送り、衛星軌道上で胚盤胞期に達したことをカメラで確認。ですが、2016年のこの研究において基本的には、「胚が実際に成長できるかどうか?」を確認するだけのものだったのです。

一方最近の研究では、「胚が発育しているかどうか?」だけでなく、「胚があるべき姿に発育しているかどうか?」を確認するため、さらに数歩踏み込んだ研究が行われていました。彼らは「微小重力が何らかの問題を引き起こすかどうか?」を調べようとしていたわけですが、研究チームが言う限り「それはなかった」ということになります。

研究チームは、「人間が微小重力環境下で、正常に発育できるかどうか?」を調査するため、この実験では重力のない状態での胚の発育を調べることにしました。この研究の著者の一人である若山照彦氏は、科学ニュースを掲載する『New Scientist』誌の10月27日公開のウェブ記事で「この研究の最終的な目的は、人間の妊娠が宇宙で安全かどうか? を確認することです」と語り、こう続けます。

「火星への旅には6カ月以上かかるため、将来的には火星旅行中に妊娠する可能性があります。 私たちはもしそのときが来ても、安全に子どもができるよう研究を進めているのです」

次なるステップは
マウスに移植し
出産の可能性を検証

訓練を受けていない宇宙飛行士は胚を扱えないため、科学者たちは新しい装置を開発し、宇宙飛行士が微小重力下で4日間胚を解凍・培養できるようにしました。この日数は、マウスの胚が子宮外で生存できる期間になります。

4日後、胚は薬品で保存されて地球に送られました。その後、研究室で胚盤胞を分析したところ、「胚のDNAに大きな変化は見られなかった」とのこと。宇宙で培養された胚の生存率は、地球上のものと比べてそれほど期待できるものではありませんでした。が、「地球で育つのと同じように、正常な細胞数と遺伝子発現プロファイルを持つ胚盤胞に成長した」ということを示しました。

マウスであれヒトであれ、2細胞の胚から胚盤胞に成長するのは、新しい生物をゼロから育てる複雑なプロセスの一段階にすぎません。それにまだ宇宙での生殖については、(マウスでさえ)疑問がたくさん残っています。「重力の欠如が、健康上の合併症や筋骨格系の異常な発達、前庭(身体のバランスをとる役割を持つ)の発達の制限につながるかどうか? 」について、科学ニュースを扱うメディア『Science Alert』が報じたように過去の研究では疑問視されているのです。

AFP通信によると、日本の研究者は声明で「宇宙で新しい生命を誕生させる可能性を本当に理解するには、さらに多くのステップが必要です」と述べ、次のようにも書かれています。

「将来的には、ISSの微小重力環境で培養した胚盤胞をマウスに移植し、マウスが出産できるかどうかを確認する必要があります」

そのことが胚から胚盤胞までのサイクルが、研究者たちが考えているほど微小重力に邪魔されなかったかどうか? を証明する唯一の真の尺度となるでしょう。

Translation & Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です

From: Popular Mechanics