姿を変えてこなかった
理由とは…

これまで地球上に登場した生物種の約99%は絶滅し、約770万種と言われる現存するの動物のほとんどは、変化する地球環境に適応することにより生き残ってきました。しかし、ごくわずかながら何千万年もの間、特にその姿を変える必要もなく生き残ってきたという生き物もいます。

その中の代表的な生き物がカモノハシであり、皆さんもご存じかと思います。しかしながらこの動物は、哺乳類なのか? 水鳥なのか? よくわからない変わった生き物です。アヒルのようなところもあり、カワウソやビーバーのようにも見え、オーストラリアの水辺に生息します。

もはや、3つの動物が一体となった「ギリシャ神話の怪物キメラ(頭はライオン、体はヤギ、尻尾は毒蛇)のようだ」と言ってもよいでしょう。くちばしと水かきのある足、ビーバーのような尾を持ち、卵を産み、そして爪に毒を持つという実に奇妙な哺乳類です。

カモノハシ
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しかし、おそらくこのカモノハシの最も奇妙な点は、進化の過程で他のさまざまな哺乳類と枝分かれして以降、これまでの約1億5千万年間、その体がほとんど変化していないということでしょう。進化の初期の形態が十分に恵まれていたため、変化する必要性がほとんどなかったものと思われます。

壮大な時を経ても生理学的機能が変化していない動物は、カモノハシだけではありません。例えばゴブリンシャーク(ミツクリザメ)は、その祖先の化石から過去約1億1800万年間も同じ姿を保ってきたことがわかっており、まさに「生きた化石」と考えられています。

海綿動物やクラゲはさらに原始的で、海綿動物は地球上で特に古くから存在している生き物である可能性が高く、海綿動物の最古の化石は約8億9000万年前のものだと考えられています。また、クラゲの化石は非常に希少なのですが、最古のもので約5億年前の化石が見つかっています(ちなみにクジラが祖先の陸上生物から水陸両方で活動できる状態に進化するのにかかった期間は、わずか100万年ほどということ)。

長い間姿を変えていない動物が海に多い理由には、環境の変動具合の違いが考えられます。カリフォルニア大学アーバイン校の生態学・進化生態学部ローレンス・ミューラー教授は、『Popular Mechanics』誌に「海洋は一般的に、水や湿度、温度などによる変動が大きい陸上環境よりも、穏やかな環境だとされています」と語っています。

急速に進化する
生き物もいる

進化による変化は、驚くような速さで進むことも少なくありません。特にバクテリアは抗生物質などへの耐性を獲得するため、遺伝子を変えることもできることが研究でわかっています。

動物でも多くの種が、急速かつ顕著な生物学的変化を遂げることが可能であることが研究でもわかっています。その一例がフィンチです。2002年4月26日の公開した「サイエンス」では、ガラパゴス諸島のダフネ島での2種のフィンチについて1972年から2001年まで観察した結果がそれに当たります。

地面で採餌するフィンチ(Geospiza fortis)と、サボテンの実や葉・花・花蜜などとともに、そこにいる虫など食べるサボテンフィンチ (G.scandens)の2種になりました、フィンチのほうは多年草の小さい種(たね)を食べるのに適した鈍い嘴(くちばし)をしていま すが、大きめの個体はより大きい種を食べることもできます。そこで1977年、エルニーニョ現象に関連した
に関連した干ばつによって多年草は枯れ、地面フィンチの大 部分も死んでしました。ですが、より大きい種を食べることのできる個体は生き残り、数世代のうちに嘴は4%大きくなったという結果に。その後、雨がたくさん降るようになると、草の種も増え、それを食べるのに適応して、今度は嘴が2.5%小さくなったことがわかったそうです。

一方、サボテンフィンチのほうは、サボテンを食べるのに適した鋭い嘴をしています。ですが1983年のこと、エルニーニョ現象によってサボテンが水浸しになったとき、わずかに鈍い嘴のサボテンフィンチは他の草の種を食べることができたそうです。しかしエルニーニョの影響がなくなると、サボテンフィンチの嘴は鈍くなったとのこと。

これはエサが少なかったときに、大型のオスがメスをわずかに 残った果実から追い払ったためメスが飢え、残されたメス1羽に対しオス 5羽という状況に。そのため一部のメスに恵まれないサボテンフィンチのオスが地上のフィンチのメスと交雑することとなり、繁殖力のある子が生まれます。そしてその子は、サボテンフィンチの父親の声を刷り込まれているのでサボテンフィンチと交雑し、結果として地上のフィンチの遺伝子がサボテンフィンチの嘴を形成していったためということが、研究によって発表されています。

そしてこのような推察の結果、「進化は短期間では予測できるが、長期には予測できない」としています。

ガラパゴス諸島のフィンチ
demarfa//Getty Images
ガラパゴス諸島のフィンチ。

オランダの野生の鳴禽類シジュウカラの個体群について調べている研究者たちは、「ある個体群が、有利な形質に変化してどれだけ素早く適応できるか?」は、環境条件の変化の強さに影響することを発見しました。

この科学者たちは、2011年に査読付き学術誌「PLOSバイオロジー」に発表した論文で、野生の動植物の個体群における進化による変化の速度を決定するうえでカギとなるのは、2つの変数…つまり、「自然淘汰の強さ」と「淘汰によって作用を受ける遺伝的変異の量」だと論じました。

特定の形質(例えば、鳴禽類は気候が温暖なほど繁殖が早まるなど)に対する選択の力が強ければ強いほど、その有利な遺伝的形質は(早期に繁殖しなかった)“弱者”の親よりも“強者”の親により多く表れることになるそうです。

研究者らは、その子孫の繁殖習慣にも同様の違いがあることを発見しました。それは、早くに繁殖した親から生まれた鳥が多ければ多いほど、その後の世代でも同じ習性を持った鳥が多かったということ。さらに春が温暖なほど、より多くの鳥が早く繁殖するようになったのです。

進化をしなかったのは
“運”という場合も…

では、一部の動物は長い間、環境面での圧力にさらされることがほとんどなく、順調に生き延びてきたということでしょうか? 最初に振られた賽(さい)の目が幸運だったため、そうした動物はその時点で既に“遺伝子の当たりくじ”を引き当てていたということでしょうか?

古生物学者によると、一部の大型ネコ科動物に関してはおそらくそういうことになるそうです。250万年前のトラのような生物の頭蓋骨は、現代のトラのものと非常に似ています。このことは、トラがかなり昔から望ましい形質を獲得していたということを示唆しています。

goblin shark, mitsukurinidae
DE AGOSTINI PICTURE LIBRARY//Getty Images
深海に生息するゴブリンシャークの絵。

この頭蓋骨について、アメリカのノースカロライナ州ダーラムにある国立進化統合センターの肉食動物古生物学者ジュリー・ミーチェン氏は『ナショナルジオグラフィック』誌に対し、「現存しているトラやジャガーの頭蓋骨と非常に似ている」と語っています。

「大型のネコ科動物は進化過程ですぐに優れた形質を手に入れたので、彼らの解剖学的な構造はあまり変わっていません。(中略)彼らはその身体的構造の獲得に成功したこともあって、過去も現在も極めて優れた捕食者なのです」

これらの動物が同じ基本的身体構造で生き残ってきた最大の理由は、ミューラー氏によると「彼らが地理的に広範囲に分散して生息していることだ」と言います。世界のどこかの場所で、環境の変化や競争相手、捕食などに適応できずにある集団が絶滅してしまっても、他の場所に生息する近縁の集団はまだ生き延びることができるのです。

ただしミューラー氏によると、原始的な動物の長寿性についてはさまざまな説があり、彼らが共通して一定の特質を持っているわけではないようです。もちろん、その動物の体内生理学がどのようなものであったかは、私たちにはわかりません。動物の寿命は主に、化石から推測するというのが最も妥当な方法です。

カブトガニに関しては
実がよくわかっていない

カブトガニは広く分布する海洋生物で、現在のカブトガニと同様の古い殻を見つけることができます。が、現在のカブトガニの消化管がどのような進化を経て形成されたかはよくわかっていません。ただ、「その硬い殻が4億4500万年ほど前から変わっていない」ということはわかっています。

「(中略)こうした類のパターンが意味しているのは、これがうまく機能するものだということ」

先史時代(文字による資料のない時代)から生き残っている生物に共通した特徴は、過度に特殊化をしていなかったということです。ミューラー氏は「過度な特殊化は、生存の方法や場所を制限してしまいます。特殊化した種は変化の影響を受けやすく、そのため絶滅する可能性もかなり高くなるのです」と説明しています。

オーストラリアの有袋類とカモノハシはかなり変わった例外で、ミューラー氏によると、「オーストラリアという他の大陸から離れた環境が、食料をめぐる多くの競争や捕食者の危険性から、このような動物を保護している」とのこと。

さらにミューラー氏は、「ある動物の特定の生態的地位に変化や変更がない場合は、“運”が一つの要素になっている場合もある」とし、次のようにも言います。

「このように長い間存続してきたさまざまな種を注目してきても、進化において何が好都合だったのか? を知るための最良の方法は見つからない…と言ってよいでしょう」

例えば対向流は、熱や酸素、イオンを交換するための簡単かつ効率的な方法として、全く関連性のない生物においてそれぞれ独立して進化してきました。対向流は基本的に2つの別々の液体が反対方向に流れるというもので、人間や魚など多くの動物が同じシステムを使っています。ミューラー氏は次のように話します。

「より良い方法は、現存する無関係な生物同士で繰り返し見られる特徴を見つけることだと思います。こうした類のパターンが意味しているのは、これがうまく機能するものだということになるからです」

source / POPULAR MECHANICS
Translation / Keiko Tanaka
※この翻訳は抄訳です