ドイツの電子機器メーカー、BRAUN(ブラウン)は1921年に創業しました。1967年には剃刀(カミソリ)で知られるアメリカのジレット社の傘下となり、その後P&Gがジレット社を買収したことでブラウンもP&G傘下の子会社となりました。
「P&Gの傘下にある」と言っても、ブラウンにパンパースやアリエール、パンテーンなどを連想する人はほとんどいません。多くの人にとってブラウンと言えば、電気シェーバーや脱毛器などのイメージが強いかもしれません。さらに言えば、デザイン部門ディレクターを務めた工業デザイナーのディーター・ラムス氏のもとで発表された、ラジオとレコードプレーヤーが一体化した「SK 4」や電気シェーバーの「SM 31」、コーヒーメーカーの「KF 40」など、デザイン性の高いクールな電化製品を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
ラムス氏は、インダストリアルデザインにおける機能主義を重視した人物として知られています。彼が発表した「グッドデザインの10原則」は、“良いデザインは革新的である”、“良いデザインは製品を便利にする”、“良いデザインは可能な限りデザインをしない”など、デザインにおける10の考え方をまとめたもので、世界中の多くのインダストリアルデザイナーに影響を与えました。iMacやiPod、iPhoneのデザインに携わった元アップルのCDO(最高デザイン責任者)ジョンサン・アイブ氏も、ラムス氏に影響を受けた一人とされています。
ラムス氏の作品をまとめた写真集や関連書籍も数多く出版されていますが、このたび新たに刊行された「ブラウン:デザイン・トゥ・キープ(Braun: Designed to Keep)」は、三つのセクションと500枚以上の写真でブラウンの決定的瞬間が描かれています。それは未発表のアーカイブ画像や内部文書、そして並行して進むドイツの文化史と政治史に基づいた物語などが網羅された魅力的な1冊です。
シンプル、便利、長寿命--ブラウンのブランド価値が、家庭用電化製品への認識を変えたことは間違いないでしょう。新刊「ブラウン:デザイン・トゥ・キープ(Braun: Designed to Keep)」の中身をここで少し覗いてみましょう。
SK 4(1956) / BRAUN
ラジオとレコードを組み合わせたレコードプレーヤーで、ハンス・グジェロ氏、ヘルベルト・リンディンガー氏と共に若き日のディーター・ラムス氏が手掛けた代表する作品の一つです。高貴な純白の美しさから、「白雪姫の棺」の異名を取ります。
SM 31(1962) / BRAUN
やはりブラウンと言えば、電動シェーバーです。こちらのデザインは、ゲルト・A・ミュラー氏とハンス・グジェロ氏の共作とさえています。
SM 1(1963) / BRAUN
ついているのはボタン一つのみという、ミニマルなデザインの電動コーヒーグラインダー。これはラインホルト・ヴァイス氏によるデザインです。黒とシルバーの別バージョンとして、1967年にヴァイス氏がブラウンを去った後に鮮やかな赤、黄色、緑のバリエーションが追加されました。
TS 45、TG 60、 L 450(1964, 1965) / BRAUN
TS45(ラジオ&コントロールユニット)、TG60(オープンリール)、L450(スピーカー)で構成された壁掛け Hi-Fi ユニット。ディーター・ラムス氏によるもの。
PGS 1200(1982) / BRAUN
シンプルでミニマルなデザイン。ハンドルの角度は人間工学に基づいて設定されています。こちらはハインツ・ウルリッヒ・ハース氏によるデザインです。
T 66(1987) / BRAUN
これも有名なブラウンのプロダクツ。スマホやPCなどで代用などせず、あえて使いたくなる電卓です。まず、チーフデザイナーであるラムス氏と(共に40年間BRAUNのデザインを手掛けることになる)ディートリッヒ・ルブス氏によって1976年に「ET22」をデザイン・製作します。
それから約10年ののち、二人はスライド式スイッチや円形でないボタンを残らず取り除いたこの「ET66」のデザインを完成させました。
KF 40(1984) / BRAUN
ブラウンの定番プラスチックであるポリカーボネートではなく、コスパに優れたポリプロピレンを使用。そのため、ブラウン社内では賛否両論があったというコーヒーメーカー。デザインはHartwig Kahlcke氏によるもの。
1960年代のブラウンのパッケージデザイン
1970年代に撮影されたブラウン本社
Braun: Designed to Keep
Source / Esquire UK
Edit & Translation / Ryutaro Hayashi
※この翻訳は抄訳です