今回ご紹介する「ザ・ロフト(The Loft)」は、キャンピングカーに見えるかもしれませんが、実はホテルの客室です。世界各地を旅して回り、スポーツ関連のイベントや各種のフェスティバル、それにビジネス関連の催しなどでも、それ相応のおもてなしを可能にする移動式客室と言っていいでしょう。

 これはフランスのアコーホテルズが発表した最新のコンセプト・モデル。同ホテル・グループのイノベーションズ・ラボでは、ここ数年ノマド的(遊牧民的)な宿泊設備についての実験を続けていました。

 そんな経緯で発表された実験的な施設には、バズワードのチェックリストに並ぶ…コンセプチュアル(概念的)、ディスラプティブ(破壊的)、イマーシブ(没入感のある)、オートノマス(自律的な)、トランスフォーマティブ(何かを様変わりさせる)などのあらゆる要素が盛り込まれています。私たちはこのリストに、さらに好き勝手な形容詞も(気の利いたやり方で)付け加えることもできるでしょう。 
 
 この「ザ・ロフト」はゆったりとした大きさのダブルベッドに、キッチン、シャワー、テラス、そのほか様々な設備がそろっているのです。そのため、一般的なホテルの客室と同様、実に快適に過ごすことができるわけです。 
 
 アコーホテルズでマーケティング・イノベーション・ラボのシニア・バイス・プレジデントを務めるフレデリック・フォンテイン氏は、「スポーツや文化あるいはビジネス関連の各種イベントの際に、ホテルの収容力がほとんどありません…あるいは、集まる人たちの数に対して部屋数が全く足りないという状態になるのはよくあることです」と述べながら、「利用客は、(目的地に)なるべく近いホテルに部屋を取るか、もしくは遠くても快適な部屋を取るか…という選択を迫られることが頻繁に起こるのが現実。この問題に対して、快適さと実用性を兼ね備えた解決策というのはほぼ存在していないません」と、フォンテイン氏は続けて話しました。

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 この解決策と言えるカタチで、アコーホテルズのイノベーション・ラボは2017年に、「フライング・ネスト」と称するコンセプトを発表していました。広さ12平方メートルのその部屋は輸送用コンテナに似た外観ながら、まるでスキー場の山小屋にいるような雰囲気を持つる仕上がり。その素材には環境に優しい木材が使われ、非常に大きい横長の窓を通して、ベッドに寝たまま外の景色を楽しめるようになっています。

 「フライング・ネスト」は実際に、ル・マン24時間耐久レースや国際美術展覧会であるボルドー・ビエンナーレ、そしてフランスで行われる夏の写真展であるランコントレ・ダールといった催しの際に利用されていました。 
 
 そんな「フライング・ネスト」の成功を踏まえたうえ開発されたのが、今回ご紹介する「ザ・ロフト」になります。しっかりとコットンシーツが敷かれたダブルベッドが付属するこの部屋には、最大6人が泊まれるとのこと。アコーホテルズのイノベーションズ・ラボでは、デザインおよび戦略が専門の内部スタッフとイギリスの建築・設計事務所ペンソン(Penson)、それにD&Bインテリアズ(D & B Interiors)という米国の会社の協力のもと開発されました。 
 
 重量は3.5トンまでという制限がある中(この重量を超えると自動車で牽引して移動することができなくなってしまいます)、開発チームは限られた空間をやりくりして、ベッドルーム、調理器具完備のキッチン、バスルームといった複数の居住スペースを生み出しています。

 中に入れば、その居住スペースは実に広々と感じられ、さらに各室がきちんと区切られているようにも感じられます。同時にあらゆる隙間を有効活用し、ラゲッジスペースやシャワー、バスルームの棚、そしてワードローブに加えて、ダイソン製家電製品、絵画や装飾品なども目立たないカタチで備えつけられているのです。そして、折りたたみ可能なテラスを広げれば居住面積はさらに広がる仕組みとなっています。
 
 最大の魅力は前面全体を覆うガラス。これは「宿泊設備と外の環境の間にある隙間にアクセントを加えるものである」と、フォンテイン氏は説明しています。フロアから天上まで続くこのガラス越しに利用者が完全にプライバシーを確保しつつも、通り過ぎていく周囲の景色に見とれることも可能にしてくれます。 
 
 「ザ・ロフト」はまだ、ベータテストの段階にあります。が、2019年夏にはイギリスのサマーセットで開催された音楽フェスティバル「グラストンベリー・フェスティバル(Glastonbury Festival)」やハンガリーのブダペストで行われた音楽フェスティバル「シゲット(Sziget)」の会場で使われ、好評を得ているということ。

 そこで宿泊客は、音楽フェスティバルの会場ではほぼ無理と思われていたこと(つまり、とても気の利いたホテルに泊まって熟睡するという贅沢)を体験することができたようです。 
 
 「ザ・ロフト」は今後数カ月で、本格展開が可能な状態になるはず。近年トレンドとなっているグランピング(グラマラスなキャンピング)よりも、この革新的な移動式ホテルのほうがずっと人気になるのではないでしょうか。

 

 

From Esquire UK
Translation / Hayashi Sakawa 
※この翻訳は抄訳です。