死海周辺の地図
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紀元前からの歴史が彩る国・ヨルダン

 まずはヨルダンのご紹介を。

 ヨルダンは、ヨルダン川東岸に位置する中東の国です。イスラエル・サウジアラビア・イラク・シリアと国境を接し、正式名称を「ヨルダン・ハシェミット王国」と言います。

 イスラム教の開祖、ムハンマドの子孫であるハーシム家を王家とする立憲君主制の国家で、古くはオスマン帝国の一部。第1次世界大戦後に英国の委任統治下に置かれ、1946年に独立を果たしています。


ワディ・ラムまでの行き方

 日本からヨルダンの首都アンマンまでは、エティハド航空・カタール航空・エミレーツ航空など、中東系のエアラインに乗るケースが一般的です。所要時間はそれぞれアブダビ・ドバイ・ドーハを経由して、約18時間(乗り継ぎ時間込み)となります。

 ワディ・ラムへはアンマンからジェットバス(JETT BUS)でアカバ(Aqaba)へ行き、アカバ・ポリス・センター(Aqaba Police Center)の並びにある、ローカルバスステーションからミニバスが直行しています。

 このローカルバスステーションは、アカバのジェットバス・ステーションからは約800mの距離となります。ただし時刻表はありません。ミニバスが満車になったら出発します。

 また、アンマンからのジェットバスは、JETT Bus Station, Abdaliから出発し、00:00、 7:00、11:00、14:00、16:00、18:00で1日6本が運行されています。料金は、8.60JOD(ヨルダン・ディナール)となります。


死海までの行き方

 アンマンから死海へは、ジェットデイリーツアー(JETT DAIRY TOUR)を利用するのが最も効率的となります。

  • 出発:Jett office 3rd Circle
  • 住所:8, Complex No 8 Ibn Al Fata St، Amman
  • 発車時刻:8時30分
  • 料金:12JOD(ヨルダン・ディナール)
    ※死海からの帰りのバスは16時発車となります。

絶壁・巨岩・砂山…。ワディ・ラムは時間を超越した“月の谷”

あのモーセが通ったとされる砂漠を巡る

 ヨルダン南部に広がる砂漠ワディ・ラムには、有史以前から人が暮らしていました。かつてはブドウと松の木が繁っていたと、古いギリシャやローマの文献には記されていますが、現在は赤く細かい砂の大地となっています。

 今日、旅行者を迎えてくれるのは、気さくな笑顔が素敵なベドウィン(砂漠の住人を意味し、アラブの遊牧民族を指すことが多い)たち。岩と砂漠が織りなす荒涼としたランドスケープの中の滞在でも、どこか心温まる手触りを感じることができるでしょう。それはまさに、彼らの高いホスピタリティーのおかげかもしれません。

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Hidehiko Kuwata
風によって浸食された、岩山がそびえたつ荒野。トーマス・エドワード・ロレンス将校はワディ・ラムを、「広大で、音の響きわたる、神のような場所」と表現しました。

 ヨルダンの海の玄関口アカバからデザート・ハイウェイを北東に走ること約80kmで、真っ赤な砂漠が広がるワディ・ラムに到着します。ここは、吹きすさぶ風に浸食によってつくりだされた絶壁と岩、そして砂に囲まれた砂漠地帯。ヨルダンの最高峰であるジェベルラムと周囲の岩波は、まさに彫刻のよう。まるで神殿が並んでいるかのように見えます。

 ワディ・ラムは、『旧約聖書』の『出エジプト記』などで描かれた「約束の地・カナン」に向かって最後の旅立ちをしたモーセの一行も通ったとされる、道なき道が続く砂漠…。モーセとイスラエルの民のヨルダン川東岸を縦断する旅は、ここワディ・ラムから始まったのです。

 このあたり一帯は“月の谷”とも呼ばれ、ユネスコの世界遺産にも登録されています。砂漠を探検するには、ワディ・ラムを熟知したドライバーが必要になります。宿泊した「ラグジュアリーキャンプ」で働くベドウィン、サウィード君の運転する4WDで赤土に覆われたワディ・ラムの砂漠を走りました。

 まずはキャンプ近くにある、印象的なラクダの群れが描かれたアンフォーシの壁画を見学。それから巨大な岩山の間を抜け、ハザリ渓谷で興味深い壁画や文字を探索。途中出会った旅行者には、ロッククライミング・トレッキング・サンドスキーなど、スポーツアクティビティーを楽しむ旅行者も多く訪れます。

ツーリストはロレンスの泉を目指す 

 ワディ・ラムを有名にしたのは、なんと言ってもピーター・オトゥールが主演した映画『アラビアのロレンス』でしょう。実在したイギリス人のトーマス・エドワード・ロレンス将校を主役に、オスマン帝国からのアラブ独立闘争を描いたこの映画はこの地で多くが撮影され、印象に残る砂漠のシーンが登場します。

 ちなみにワディ・ラムのツアーで立ち寄る有名なロレンスの泉について、ロレンス将校は自著『知恵の七柱』でこう記しています。

「1917年9月13日の午後、アカバからラムに戻った私は、砂漠の長旅で付着した砂埃を洗い流すために、15分ほど坂を登った谷の上にあるナバティンの井戸に行きました」

 ここで言及されているのが、ロレンスの泉なのです。

 麓(ふもと)にはテントが設けられ、源泉(ナバティンの井戸)までは15分のトレッキング。無事たどり着いた旅行者には、ベドウィンからチャイが振舞われます。テントの周辺には水路が引かれ、ラクダや羊の水飲み場にもなっています。

ワディラムのビジターセンター

クレオパトラも愛した死海

死海の塩分濃度は通常の約10倍

 西側をイスラエル、東側をヨルダンに接する死海は、湖面の海抜がマイナス430mと地球上で最も低い場所です。南北60km・東西17kmの海水湖で、『旧約聖書』の最初の書である『創世記』のロトの物語、ダビデ王や預言者たちの逃避物語、洗礼後のイエスの断食の舞台になり、モーセの『出エジプト記』にも登場する場所です。

 通常の海水塩分濃度が約3%であるのに対し、死海の湖水は約30%もの塩分濃度を持ち、1リットルあたりの塩分量は230〜270g。湖底では428gもの塩分を含んでおり、生物の生息は確認されていません。

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Hidehiko Kuwata
死海周辺で最高クラスの5つ星リゾート、「ケンピンスキー・デッド・シー・リゾート(Kempinski Hotel Ishtar Dead Sea)」のプールサイド。ケンピンスキーは、1897年創業のヨーロッパの高級老舗ホテルグループ。死海はリゾート地としても、人気が高いエリア。死海を挟んで対岸に見えるのは、イスラエルです。


浮遊体験で有名な死海は、絶好のビュースポット

 約500万年前の地殻変動により、海水は陸地に閉じ込められました。雨がほとんど降らない気候と強い日差しによって水分が蒸発して塩分濃度は高くなり、生物が生息できないことから死海と呼ばれるようになったわけです。

 しかし、死海の水や泥はミネラルを豊富に含み、その医療効果・美容効果は古代からよく知られていました。シバの女王、クレオパトラなどはこの効用で美を磨いたと伝えられています。

 しかも、標高が低いので酸素濃度が平均よりも8%ほど高く、通常よりも大気層が厚くなるので紫外線が弱まるという、まさに海辺のリゾートとしては最適な条件を備えている場所なのです。

 死海の塩分濃度は、通常の海水の約10倍。そのため独特な浮遊体験が楽しめますが、海から上がるときには注意が必要です。強力な浮力により、足を海底に沈めるのにひと苦労するでしょう。うっかりひっくり返ったりして、目に海水が入ると強烈な痛みに襲われます。水質上、長時間の浮遊は体に良くないようなので、15分を目安にした方がいいと、フランスから来ていた旅行者が教えてくれました。

 小高い山の中腹から死海を臨む「死海パノラミック・コンプレックス」には、死海の歴史などを立体的に展示した博物館と、美味しい料理やヨルダンワインが楽しめるパノラマレストランが併設されています。

 ここから眺める死海は本当に美しく、波もなく高い塩分濃度のためトロリとした静かな海面が広がります。海面を夕陽が照らすと独特な色合いの夕暮れのパノラマショーの始まりです。真っ赤に染まる水平線と紫色に染まる大空が鏡のように映し出される絶景を眺めながら、ヨルダンワインをゆっくり味わうことができます。

死海

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連載第3回 [華麗な古代都市ジェラシュと首都アンマンの旅]へ続きます。