いま、アメリカを中心に大注目もアジア系俳優クリス・パン。彼の魅力のひとつに、そのボディのカッコよさがあります。そんな彼がトレーニングを始めたのは、「女の子にモテるため」というありがちな理由でした。ですが、現在の彼が抱くモチベーションは、より深遠なるものへと進化しているようです。

◇オーストラリア出身のアジア系俳優クリス・パン|独占インタビュー

 「私が学生のころ、白人のクラスメイトたちのほとんどが私より大きな身体をしていました。彼らはより早く、成長期を迎えていたんですね」とパンは、今回のインタビューで語っています。

 「明らかに、周りより身体が小さかったんです。女の子と会ったり、出かけたりするようなときも自分は『男性』というよりは、『男の子』という感じでした」と、少年時代を振り返っています。

 自分の身体に自信をもてなかったパンは、ジムに通い始めました。そうしてトレーニングという習慣が、彼のプライベートと仕事の両方に成果をもたらしたのです。

 パンは2018年8月15日に、全米公開が始まった今夏期待の新作映画『クレイジー・リッチ!』(日本公開は2018年9月28日)に出演しています。過去25年のハリウッド映画で初めて、主要キャストにアジア系の俳優のみを起用したこの映画の中で、パンはシンガポールの裕福な家の御曹司である主人公のニック(ヘンリー・ゴールディング)の親友コリン・コーを演じています。

 コリンを演じる上でパンが私生活で得たフィットネスの知識は、ここで大いに役立ったのです。

 映画の中では、彼とゴールディングがシャツを脱ぐシーンが頻繁に登場します。この映画の共同脚本家の一人であるアデル・リムによれば、これらのシーンはかなり意図的に入れられたものだと言います。

 「アジア系男性が、こういった形で描かれるのは重要だと思うんです」とリムは語ります。

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 リムと共同脚本家のピーター・チアレッリは映画『クレイジー・リッチ!』の中で、明確な意図を持ってアジア系男性をセクシーで男らしく描くことを目指しました。

 この映画は『ジョイ・ラック・クラブ(同じく主要キャストにアジア系俳優を起用した93年のハリウッドのメジャー映画)』のように深刻なテーマを掘り下げるのではなく、アジア系であることの喜びを強調することで彼らの新たな魅力を描こうとしたのです。

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 パンとゴールディングの場合、この喜びとは魅力的で健康なアジア系男性であるということでした。「この映画はアジア系男性とその男らしさについて、やり過ぎや誇張を避け、また、高圧的になることなく描いています」と話すのは、この映画に敵役として登場するエディソン・チェンを演じるロニー・チェンです。

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Courtesy of CHRIS PANG

 このような描き方は、(映画『クレイジー・リッチ!』の原作者である)ケビン・クワンの原作小説にある程度触発されたものです。この小説の中では、キャラクターたちの男性的な特徴が強調されています。

 「クワンは、アストリッド(ニックの従姉妹)の夫であるマイケルのキャラクターについて、元軍人という設定で描きました。アストリッドがマイケルに惹かれた理由の1つには、彼の荒削りな男らしさやセクシーさがあったんです」と、リムは説明します。

「これを読んだとき、『原作にこんな設定があったなんて!マイケルだけでなく、他のキャラクターもこんな風に男らしく描いてみましょう』という話になったんです」と、リムは応えてくれました。

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(C)SANJA BUCKO / WARNER BROS.

 リムによれば、「この映画の最初の草稿の1つには、現在の脚本よりもあからさまで官能的なやり取りがたくさんあった」と言います。監督のジョン・M・チュウは、その過激なシーンの多さに脚本に携わったアデル・リムのジョークを飛ばしたこともあったとのこと。

 「性行為自体ではないにしても、性的に露骨な身体的接触が出てくるシーンがたくさんありました。アジア系男性がそのような形で描かれるのは重要だと思いますから」とリム。

 上半身裸のたくさんのハンサムな男たちが登場するような映画自体は、目新しくは思えないかもしれません。ですが、歴史的に白人俳優ばかりを恋愛映画の主役に据えてきたハリウッドにおいては、これがアジア系俳優ばかりというのは間違いなく新鮮なことです。

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Breakfast at Tiffanys Opening Scene
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 さらに言えば、ポップカルチャーのなかでアジア系男性は、非常に差別的に描かれてきたのは事実でもあります。映画『ティファニーで朝食を(1961年公開)』で、ミッキー・ルーニーが演じた日本人像は悪意があると言えるものでした。

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Sixteen Candles (9/10) Movie CLIP - Drunk as a Skunk (1984) HD
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 さらに映画『すてきな片想い(1984公開)』に登場する中国人留学生ロン・ダク・ドン(演じたのは日系アメリカ人、ゲディ・ワタナベ)は、常にスケベなことばかり言うキャラクターでしたし。

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(C)SANJA BUCKO / WARNER BROS.

 映画やテレビ番組に登場するアジア系男性は、「間抜け」あるいは「ひょうきん」なキャラクターとして描かれなかったとしても、恋愛とは縁遠いキャラクターとして描かれるのがこれまでのお決まりでした。

 2000年公開の映画『ロミオ・マスト・ダイ』では、ジェット・リーがアリーヤ演じる魅力的なヒロインの相手役となりましたが、最後までキスシーンはありませんでした。そして、アジア系男性に対するこのようなイメージの付加は、現実世界の恋愛にも反映されています。

 というのも、デーティングサイト「OkCupid」の2014年の調査によれば、アジア系男性は同サイト上の他の人種の男性よりも人気が低かったのです。

 多くの映画やテレビを見ながら育ったパンでしたが、逞しくてカッコよく、女性からも性的に魅力的に思われるような、ロールモデルにできるようなアジア系男性を見つけることはできなかったと言います。

 彼がトレーニングを始めた理由には、「自分自身がそんな男性になりたい」という気持ちもあったそうです。「子どものころ、アジア系男性への典型的なイメージといえば“強いけどモテない武芸の達人”、あるいは”卓球経験のあるオタク気質な数学の天才”というようなものでした」と、パンは振り返ります。

  「子どもながらに自分が人に劣っていると感じ、自尊心が欠如していました。メディアで見聞きすることに影響され、セルフイメージにコンプレックスがあったんです」。

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 パンがトレーニングを始めた当初、目標を達成するのは容易ではなかったと言います。

 彼は筋肉がつきにくい痩せ型の体型だったので、体重を増やすのは大変だったのです。このため、彼は筋肉の増強のみにフォーカスしたトレーニングを習慣にしています。有酸素運動はほとんど行わず、バルクアップのためにできるだけ多くの複合炭水化物を食べています。

 俳優という仕事上、移動が多いこともあるパンは、自分の進歩を把握するために特定の筋肉群に集中するようにしています。

 「いつもジムに行けるわけではありませんから、自分の成長を確かめるため『次にジムに行くときはレッグデイだ』というように、自分に言い聞かせています」とパン。とはいえ、パンは鍛える筋肉の部位を細かく分け過ぎるのも好きではありません。このため、彼はマシントレーニングよりもフリーウェイトを好んで取り入れています。

 これなら細かい筋肉にも、同時に効かせることができるためです。パンの場合、まずは複合関節種目を行い、その後に特定の筋肉群に集中すると言います。例えば下半身にフォーカスしたトレーニングであれば、デッドリフトをしてからスクワットを行います。

 また「チェストデイ」には、普通のベンチプレスからスタートし、その後にターゲットとなる筋肉をより絞った「インクライン・ベンチプレス」や「デクライン・ベンチプレス」へと移行するそうです。

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 パンはときには趣向を変え、エキセントリック収縮中心のトレーニングを行うこともあるそうです。エキセントリック収縮とは、筋肉が伸ばされながら力を発揮する収縮の仕方です(例えばスクワットで身体を下ろすときの動き、あるいはアームカールで重りを下ろすときの動きです)。

 Instagramでパンの写真を観てみれば一目瞭然ですが、彼の努力は実を結びつつあります。とはいえ、トレーニングの習慣は、彼が自分の男らしさへのコンプレックスを解消できた理由の1つに過ぎません。

 「結局は、自分の自信と心構えなんです。そしてトレーニングは、これにポジティブな影響を与えてくれました」とパンは語ります。身体が小さく、痩せっぽちで恋愛とは縁通いと感じていた昔の自分を思い出すたび、パンは当時の自分自身の心もちを後悔すると言います。

 「自分の見た目や立ち方に誇りをもちたいんです」。

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 「昔はよく猫背になっていました。父は私のそばを通り過ぎるとき、いつも肩の後ろを押して、背筋を正させたものでした。そしてジムに行ったことは、正しい姿勢をキープするための筋肉だけでなく、堂々と立つ自信をもたらしてくれたんです」と、パンは話します。

 映画『クレイジー・リッチ!』のプロデューサーたちは、この映画が与える文化的影響について大きな期待を抱いています。

 「テレビ業界で長年働いてくれば、『ある特定の集団について何らかのイメージが頻繁に結び付けられれば、それは真実になる』ということを理解し始めます」と、共同脚本家のリムは言います。恋愛映画の脚本やキャスティングにおいて、ほとんどの場合主役に白人俳優が想定されるのはこういった背景があります。

 「性的に魅力的で、積極的なアジア系男性を描くことは非常に重要なんです」と、リムは繰り返し語っています。

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 幸い、アジア系男性をめぐるステレオタイプに積極的に立ち向かっているのは、パンや今回の映画『クレイジー・リッチ!』の製作チームだけではありません。ソーシャルメディア上では、ダニエル・デイ・キムやジョン・チョーのようなアジア系のイケメン俳優たちが多くのファンを獲得しています。

 実際にTwitter上では、チョーを恋愛もののメジャー映画の主役にキャスティングするようアピールする「#StarringJohnCho」のようなバイラルキャンペーンもありました。また、Instagram上ではアジア系ボディビルダーのコミュニティが拡大しており、彼らはウェイトリフティングを通じて男らしさを主張しています。

 パンによれば、このようなさまざまな表現のインパクトは計り知れないと言っています。

 「子ども時代の自分のような人がこの映画を見て、少しでも受け入れられていると感じてくれれば素晴らしいことです。それだけでも世界が変わりつつあるんだと感じます」とパン。これには脚本家のリムも同意します。彼女はこの映画を通して観客に知ってほしいことについて、笑いながらも次のように語っています。

 「アジア系男性が、想像もできないほどセクシーになれるということを知ってほしいんです」と、最後に彼は締めくくってくれました。

Source / Men's Health US
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。