レーシング・ドライバーにとって、自らの肉体の管理と維持は極めて重要な課題です。
F1ドライバーのダニエル・リカルドもまたコロナ禍の影響を受け、出身地である西オーストラリア州パースで外出自粛の日々を過ごしました。既に3年以上に渡ってレース用の肉体づくりをサポートしているトレーナーのマイケル・イタリアーノの協力と広々とした地元の利を生かし、トレーニングのための最高の環境を手に入れていたようです。
「メンズヘルス」US編集部を自宅の農場に招いたリカルドは、今回特設された屋外のトレーニングスペースへと案内してくれました。そして、彼の取り組んでいる「ファーマーズ・サーキット(farmer's circuit)」という筋トレメニューを披露してくれたのです。
「F1ドライバーの肉体は、常に強烈な負荷とGフォース(重力)にさらされています。コックピットに全身を固定された状態で、90分から2時間に及ぶレースの間、大きなストレスと重力とを絶え間なく受け続けるわけです。それゆえ、頭の先から爪先まで、全身のコンディションが万全の状態であることが求められます」と、リカルドは言います。
「エクササイズを通じて体重が増加し過ぎてしまわないように、筋量を適度に保つ必要があります。F1というレースは、無駄な重量が許されないスポーツです。重量が増せばその分だけ、スピードが失われてしまうことになるのですから…。なので、トレーナーのマイケル・イタリアーノは、斬新なメニューを考案しれくれるので助かります。そのおかげで、飽きずに楽しくやれているからです。単調になってしまわないように、日々の変化を模索しながら取り組んでいるのです」と、リカルドは続けます。
◇ダニエル・リカルドが実践する“廃タイヤを使った”独自の筋トレメニュー5種
自粛生活の中での週6日のトレーニングに励むリカルドにとって、イタリアーノは貴重な存在です。それは農場の近所で入手可能な、あらゆる道具を活用したトレーニングを考案してくれるのですから…。
「クリエイティブな筋トレを行おうと思うなら、それは不可能なことではありません。オープンマインドに視野を広く持ちさえすれば、なんでも活用できますよ」と、リカルド。
それではイタリアーノの解説をもとに、リカルドの取り組んでいる「ファーマーズ・サーキット」のメニューを紹介しましょう!
■回数・時間は?
45秒のトレーニングと45秒の休憩を1セットにした、5種類のエクササイズになります。これを4ラウンド行って、計30分のトレーニングが完了となります。
各エクササイズを45秒間行った後、45秒の休憩を挟みます。そうして全メニューを4ラウンド行い、終了となるわけです。
【1】スレッジハンマー(ハンマートレーニング)
手に持ったスレッジハンマー(大型ハンマー)で、トラック用の大型タイヤを叩きます。主に上半身を鍛えることが目的です。
《鍛え方》
- 肩幅に脚をひらき立ちます。
- 片方の手で大型ハンマーの下部分をしっかりとにぎり、もう片方の手はハンマーの上部分のつけねをもちます。
- 大きく功を描くように振りかざし、タイヤを叩きます。
- 重要なのはハンマーを持ち上げると同時に、上の部分を持った手を下にスライドさせて両手で柄(え)の下部分を持っていき、タイヤを叩くことです。
「体幹も鍛えられます。途中で左右の手脚のポジションを入れ替えながら、リズム良く続けてください」とイタリアーノ。
【2】タイヤフリップ
腰と下半身とを鍛えるための、爆発力が求められるトレーニングです。
《鍛え方》
- 相撲の立合いをイメージし、どっしりと腰を落としたスクワットのポジションに構えます。
- そして大型タイヤの下に手を入れ、大腿四頭筋・大臀筋・腰の力を最大化し、その力を使ってタイヤをひっくり返すのです。
- 背中を丸めずに、膝(ひざ)を伸ばしてタイヤを持ち上げひっくり返しましょう。
「ポステリオール筋肉群(=人の背面に備わる筋肉群=背筋群)を鍛えるのに、最適なメニューです。F1ドライバーには、身体の背面の強靭な筋力が求められます。ブレーキング時にドライバーが受ける負荷は非常に大きく、その中で安定したドライビングを行うには、背面の筋肉のコンディションが物を言うのです」というのが、イタリアーノの説明です。
【3】スラスター(丸太を使ったスクワット):自宅ならダンベルやケトルベルでOK
■「スラスター」― どの筋肉に効くか?
- 上腕三頭筋
- 三角筋(肩筋)
- 胸筋
- 大腿四頭筋(前もも)
《鍛え方》
- 鎖骨のあたりまで持ち上げセットし、フロントスクワットを行います。
- 立ち上がる際に器具(丸太・ダンベル・ケトルベル)を一緒に突き上げ、オーバーヘッドプレスを行います。
「リカルドの場合は丸太をうまく拾い上げ、スクワットからのオーバーヘッドプレスを行ないます。オーバーヘッドプレスは体幹を鍛えるのに最適なだけでなく、たくましい肩をつくるのにも役立つでしょう」。
続けて、「ステアリングを握るレーシングドライバーにとって、強靭な肩は重要です。また、これは前三角筋と胸筋のための、かなり良いトレーニングにもなります」とイタリアーノ。
【4】ザーチャーキャリー:自宅ならダンベルでOK
《鍛え方》
- 肘(ひじ)から前腕部分にのせるように持ち、まず息を深く吸いましょう。
- 左右の脚で進むことで、1レップとします。自宅で行う場合は、ダンベルを代替してみましょう。
「F1ドライバーはコーナリングやブレーキングの際に、かなりのGフォースに耐えなければなりません。その中でクルマをコントロールするためには、体幹をしっかりと鍛え、コンディションを整えておくことが必要となります。『ザーチャーキャリー』は、そのための素晴らしいエクササイズと言えるでしょう」とのこと。
【5】スレッド ドラッグ(タイヤローププルの類似トレーニング)
《鍛え方》
- 足を肩幅に開いて立ちましょう。
- スクワットの姿勢をイメージして、お尻を後ろに突き出すように腰を落とします。
- その姿勢を維持したまま、ロープを引き後ろへ進みます。
《アドバイス》
「スレッド(小型のそり)を使ったトレーニングを考案してみました。つまり、“そり”をチェーンで引っ張るのです。まっすぐな直立姿勢で胸を張り、腕を伸ばします。そりにつないだチェーンを一歩ずつ、一歩ずつ引っ張るのです。背筋群を鍛えるためのかなり優れたトレーニングであるばかりでなく、大臀筋そして両腕の筋力を鍛えるのにも大いに役立ちます」とイタリアーノ。
Source / Men's Health US
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。