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体内の一酸化窒素（NO：エヌオー）を活性化させて運動能力や持久力を高める、との効果を謳（うた）うNO系サプリメントが今話題を呼んでいます。一酸化窒素は体内で自然発生する気体であり、血液の流れを良くする働きがあると報告されています（NHK健康チャンネル内「【血管老化の予防法】血管拡張物質「一酸化窒素」の働き」を参照ください）。
また、NO系サプリの成分が体内の一酸化窒素を増産させ、そのことによって運動能力が向上する可能性も示唆しています。ですが実際に、その効果は具体的なのでしょうか？ その研究結果はさまざまです。
◇一酸化窒素とは何か？ 栄養管理士の解説
｢一酸化窒素（NO＝Nitric oxide）とは、私たちの体内で生成される気体（ガス）で、血流を促進させる働きがあると言われています。NO系サプリメントには血中の一酸化窒素の量を増やす作用があり、これにより活動中の身体への血流を促進し、疲労回復を促進する効果が期待できるとされています」と、手短に解説してくれたのはニューヨークを拠点に活動する栄養士・栄養管理士のナタリー・リッツォ先生です。
※念のため、一酸化窒素（NO）は「笑気ガス」などとして知られる亜酸化窒素（N2O）とは異なりますので、注意しておきましょう。
◇NO系サプリメントの気になる効果とは？
その理屈だけを見れば、NO系サプリメントを摂取することで、フィットネス生活に素晴らしい効果が期待できるでしょう。しかし、果たして科学的な裏づけはあるのでしょうか？
NO系サプリメントとして人気が高まっていますが、実際には一酸化窒素が成分として含まれているわけではありません。その代わりに含まれているのが、「L-アルギニン」や「L-シトルリン」などいわゆる一酸化窒素の生成を促すとされている成分（もしくは基質）です。
｢L-アルギニン」が、体内における一酸化窒素の生成に関与することは知られていますが、それをサプリメントを摂取することでどのような効果があるのか？ また、NO生成量が増えたとしても、それが運動能力やパフォーマンス、健康状態の向上にどのように寄与するのか？
これまで報告されている研究結果は、実にさまざまです。NO系サプリメントを検討中という読者のために、今回は基礎知識をまとめてみました。
一酸化窒素は体内で生成されるいわるゆガスですが、そこで主に期待できる効果は血の巡りを向上させることです。
血液は身体各部に酸素を届ける役目を果たしています。つまり、NO系サプリメントを摂取することによって血流が増加すると仮定すれば、持続力の向上や疲労回復の時間短縮という効果も期待できます。また、血流が増加することで身体の各部にいわゆる「パンプアップ」が生じ、つまり物理的な身体の増強も期待できるという説もあります。
｢一酸化窒素は血管の内壁を覆う内皮細胞から分泌されると、平滑筋（へいかつきん）細胞に作用して平滑筋を弛緩させます」
■平滑筋とは…内臓や血管の壁に存在し、緊張を保つことや収縮によって内臓や血管の働きの維持を行う筋肉のこと。
上記のように説明するのは、ジョージア大学で運動学の准教授を務めるネイサン・ジェンキンス博士です。その結果として血流がケアされ、勃起の維持や血圧のコントロールなど、人体のさまざまな機能に影響が及ぶとのことです。
一酸化窒素が男性器の勃起とその維持に役割を果たしているのはもちろんです。が、そこには、他にも多くの機能が関与しているのも事実と言えるでしょう。一酸化窒素がペニスへの血流を促進し、勃起の維持に役立つという説については、リッツォ先生も同意見しています。「その効果の延長上に、ベッドの中でのパフォーマンスと持続力が向上することはあり得ること」と述べています。
｢L-アルギニン」を含むサプリメントが、勃起不全の治療薬として有効である可能性については最近の研究結果にも示されています。ですが、機能障害を持たない人々を対象にした実験は不足しており、効果にどの程度の汎用性があるのかについてはまだ良く分かっていないことは把握しておきましょう。
血管は年齢を重ねるとともに硬くなり、しなやかさを失っていくものとされています。これが血圧が高くなる大きな原因のひとつであるとも考えられています。（上記のように）血管は平滑筋という筋肉でできているため、他の筋肉と同じように加齢ととともに硬くなる傾向にあると言えることも想像できます。
そこで重要となるのは、血管をしなやかにすることでしょう。血管は腹筋や背筋などどの骨格筋と違って、マッサージやストレッチで伸ばすことが困難です。脳卒中や心筋梗塞を防ぐことを目的に柔らかい血管を保つ方法のひとつとして、一酸化窒素の産生を増やすことで改善が期待できるでしょう。血管内で発生する一酸化窒素は、血管を柔らかくすることも報告されています。
ノーベル賞を受賞したルイス・J・イグナロ博士は、著書『NOでアンチエイジング（日本語版）』の中で、一酸化窒素が人間の体内では糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞などの原因となる『血管病』を治すことが大いに期待できる物質であることを説明しています。
◇ではNO系サプリメントの本当の実力は？
正直なところ、本当の実力はまだ分かっていません。十分な証拠がないのです。
｢サプリメントを用いることで体内のNO（一酸化窒素）の増加が促され、その結果として血管拡張が生じ、その影響で血流が大きく促進。さらに運動パフォーマンスや回復力の向上が果たされるというのが、サプリメントが効果を発揮するときのフローになります」と言うのは、メンフィス大学の健康研究学部とウェルネス・フィットネスセンターで学部長を務めるリチャード・ブルーマー博士です。
｢ですが、すべてとは言わないまでも、このように主張されている効果の多くが、科学的な検証結果により裏づけられたものとは言えないのです」と言います。
パフォーマンスの向上と血中の硝酸塩濃度との関連性を示す研究においては、運動を行うこと自体が一酸化窒素の発生を促すことが認められており、つまり謳い文句となっているような効果は単に、広い意味におけるトレーニングの結果に過ぎない、という可能性も無視できません。また、野菜等を食べることで摂取される硝酸塩が、体内の一酸化窒素の原料と成り得るとことも知られており、その研究も進められています。
仮にサプリメントの効果で一酸化窒素の増加が起こり得るとしても、「それが誰にでも当てはまることなのか？」は、未だ不明です。
食事により摂取される栄養成分と一酸化窒素の関係、また運動パフォーマンスと一酸化窒素の関係に関する42件の研究報告が比較検証されています。ですが、結論は多岐にわたっています。
｢体調に問題を抱える人々、および中程度の負荷のトレーニングを行う人々の場合には、その有酸素運動や無酸素運動における「耐久性が向上する」という可能性が示された一方で、高度なトレーニングや運動を行う人々については、大きな変化が望めない可能性がある」というのが、この比較検証の結果として報告されたものです。
◇NO系サプリメントは安全か？ 副作用は？
NO系サプリメントの副作用については、摂取が少量であれば心配すべきことではないようです。
サプリの効果について、効果を示す決定的結論が出ているとは言えない状況であることを改めて強調しつつも、「低用量で試してみたいという人を、止めるべき理由はありません」と、ブルーマー博士は言っています。ただし低血圧症の人であれば、サプリの影響で頭がぼんやりとしたり、めまいが起こる可能性もあるので注意が必要なことは確かなこととなります。
｢また、ブースターサプリメント（＝特定の機能をブーストすることを目的として用いられるサプリメント）の多くに研究や規制の不十分な成分が含まれており、安全性や有効性については、一定の疑いをもって使用しなければならないことも注意しておきましょう」と、ブルーマー博士は言い添えています。
また、前出のジェンキンス博士は次のように警鐘を鳴らします。硝酸塩を多く含む食生活を営んでいる場合、NO系サプリメントを大量に摂取することで、肝機能が低下する可能性を見過ごすことはできません。
｢腎臓が余分な硝酸塩を処理しようとする際にストレスを受け、機能の低下が引き起こされる可能性があります」と、ジェンキンス博士。サプリメントを用いる際には使用上の注意をよく読み、適量の摂取を心がけるべきでしょう。
◇一酸化窒素は肝臓に良くない？
未だ、決定的な研究結果があるとは言えません。ですが、加工肉から多量の合成硝酸塩もしくは亜硝酸塩を摂取している場合と、野菜から自然なカタチで硝酸塩を摂取している場合とでは、状態に差が生じることはあり得えます。
世界保健機構（WHO）やアメリカがん研究協会（American Institute for Cancer Research）は、既に加工肉食品の過剰な摂取を控えるよう勧告を行っています。それは、加工肉の多くに硝酸ナトリウムや亜硝酸塩が含まれているためです。フリーラジカルによる身体へのダメージと硝酸ナトリウムとの関連性についての研究は、広く行われています。ですが、その多くが動物実験であり、人体への影響に関する研究は未だ不十分であると言わざるを得ないことも理解しておきましょう。
◇NO系サプリメントの常用の是非は？
摂取の仕方によって、常用の是非は異なるようです。
硝酸塩を食物から摂取することは問題なく、むしろ推奨されるものです。例えばビーツジュース（硝酸塩を大量に含みます）やビーツパウダーに関する研究では、少なくとも2週間の摂取を継続することで、「運動能力や心臓機能に向上が見られた」という結果も示されています。
｢野菜を多く摂る人の心臓の健康状態は、比較的良い傾向にある」というのは、硝酸塩の摂取量と無関係ではないかもしれません。しかしながら、純粋なビーツ成分やパウダー以外の成分を含むサプリメントも存在するため、注意が必要です。
一般にサプリメントには、安全性、純度、効果などに対する厳しい規制が設けられていません。もし何らかの「一酸化窒素ブースター」を、自身摂取しようと考えるのであれば、確かな第三者機関による承認を受けたもの、できれば「NSF認証（NSF for Sport）」や「インフォームドスポーツ（Informed Choice for Sport）」によるテストをクリアしたものを選ぶよう心がけてください。
■NSF Certified for Sport®とは…アスリートが信頼を置くことができる検証プロセスを通じて、アスリートのパフォーマンス維持を目的として開発されたプログラム。
■Informed Choice for Sportとは…英LGC社が運営するアンチドーピング認証プログラムのひとつ。
冒頭に登場したリッツォ先生は、「サプリメントの常用には反対」という立場です。
｢推奨することはできません。各種サプリメントに対する研究は十分になされているとは言えず、長期的な副作用などに関する評価を行うのは困難です。それよりも野菜をたっぷり食べるように心がけ、一酸化窒素の活性化を図るべきでしょう」とのこと。
◇一酸化窒素（NO）の増加を促す食材（野菜）
自然な方法で一酸化窒素を増加させるために、摂るべき食品について覚えておきましょう。
ビーツ｜一酸化窒素（NO）効果を得られる野菜
特にビーツジュースには、一酸化窒素の生成を促す成分が多く含まれており、例えばスポーツであれば競技を行う前に飲むことで、パフォーマンスが向上するという研究結果もあります。
｢ある研究によれば、競技開始の2～3時間前にビーツジュースを飲んだ自転車選手のピークパワーとペダリング速度とが向上したことが確認されています。また別の研究では、ビーツジュースがアスリートの持久力とパワーとを総合的に向上させるという結果が現れました」と、リッツォ先生は言います。
｢体内で一酸化窒素に変換される硝酸塩を、最も多く含むのがビーツです。天然の硝酸塩が大量に含まれており、既に数多くの研究において、特に血圧の改善に効果を発揮し、心臓をサポートすることが示されています」。
｢その他にも、ビーツと一酸化窒素の関係については高い効果が認められています。筋力の増加や持久力のアップに加え、運動中の認知力の向上、炎症レベルの低下、抗酸化機能の向上、認識力の向上などが例として挙げられます」と、続けて説明してくれました。
葉物野菜｜一酸化窒素（NO）効果を得られる野菜
葉物野菜や他の野菜にも硝酸塩は含まれており、少量の摂取でも効果が期待できます。硝酸塩が豊富な野菜を食べることで、体内の一酸化窒素濃度を高めることができます。なので、積極的に野菜を食べるべきでしょう。
そして、口腔内の微生物叢（びせいぶつそう／マイクロバイオーム＝微生物叢は細菌をはじめとした多様な微生物によって構成されている）が、健全な状態であることが肝心となります。また、抗菌性のマウスウォッシュなどを常用することで、硝酸塩から一酸化窒素への変換を助ける細菌類が死滅してしまうこともあるので注意が必要です（小腸や大腸といった下部消化管の細菌バランスにも影響を及ぼしかねません）。
一酸化窒素（NO）効果を得られる野菜15種
硝酸塩の含有量の多い野菜については、ビーツを筆頭にセロリ、チャード、クレソン、レタス、ホウレンソウ、ルッコラなどが挙げられます。そしてキュウリ、セルリアック、白菜、エンダイブ（アンディーブ）、フェンネル、コールラビ、ネギ、パセリなども積極的に取り入れたい食材です。
◇市販で買えるNO系サプリ5選
Source / Men’s Health US
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。
