[目次]

▼ クレアチンは脱毛の原因となるか?

▼ 結局、クレアチンとは何か?

▼ クレアチンには他にどんな副作用があるのか?


クレアチンは、筋肉をつけたい人に有効な成分として紹介していますが、他の多くのサプリメント同様に副作用もあります。ただ一般的に、その副作用の中に「抜け毛」と記載されているのはあまり目にしたことはないでしょう。

クレアチンというのは肉製品に含まれているほか、もともと人の体内に自然に存在している成分で、筋肉増強を助ける働きが知られています。サプリメントによるクレアチン摂取と日々のウェイトトレーニングを組み合わせることによって、筋肉の成長が促進される研究結果もあります。クレアチンは実に安全な成分であり、適量の摂取であれば、筋肉の痙攣(けいれん)や脱水症状などの副作用が起きるというのはうわさレベルにすぎないとも言われています。

ですが、「クレアチンは抜け毛の原因になる」という風説も拡散され続けているのをご存じでしょうか? 今回はそこに迫ってみます。

考える男性
Inside Creative House//Getty Images

このような説が話題となっている理由の一つは、ほとんどの男性にとって「抜け毛」ということ自体が最大の関心事のひとつであるからです。クリーブランド・クリニック*1によれば、「男性の70%近くが人生のいずれかの時点で抜け毛を経験することになりますが、それは、遺伝的な体質によるところが大きい」ということ。量の多少を問わず、残っている髪を守るためには、抜け毛を悪化させる可能性のあるものには手を出さないことが大切です。一部ではありますが、クレアチンは長らく「抜け毛のリスクの一つ」と考えられてもいました。

しかし、これまでに多くの新たな研究が行われており、この風説が誤解であると複数の研究で発表されています。ノバ・サウスイースタン大学のホセ・アントニオ*2博士(運動生理学)いわく、「クレアチンを対象とした科学的研究は500以上にも上り、これほど多くのデータがある食品やサプリメントは他にない」と口を開きます。

そして、これまでの研究データの中で、クレアチン摂取の副作用として脱毛を指摘しているものはないようで、現在も行われている研究*3を踏まえアントニオ博士はこう言います。

「現在、明らかになっているものの中で、クレアチンが脱毛症や禿頭症の原因になるというエビデンスはありません」

クレアチンは
脱毛の原因となるか?

この抜け毛説が広まったきっかけは、2009年に南アフリカのステレンボッシュ大学講師のファン デル メルヴェ*4博士らの研究チームによって実施されたある調査研究*5の結果からと考えられています。この調査では、大学生のラグビー選手グループに3週間毎日クレアチンを摂取してもらったところ、参加者のジヒドロテストステロン(DHT)濃度が“統計的に有意に”上昇したということ。テストステロンの副産物であるDHTは、高濃度になると毛包を収縮させ、毛髪の成長サイクルを短くするため薄毛の原因となる可能性があります。

ですが、前出の国際スポーツ栄養学会 (ISSN)が発行する学術誌において、アントニオ博士が研究者チームとともにクレアチンに関する一般的な誤解についての研究*3での検証によれば、この研究に参加したラグビー選手の中で、クレアチンサプリメントを摂取した結果、実際に抜け毛症状が出た人は一人もいませんでした。しかも、この研究でクレアチンを摂取した被験者は、ベースライン時点でDHT濃度がプラセボ対照群よりも23%低い状態から実験を開始し、実験後のDHT増加量は“臨床基準の正常範囲内”でした。このことを言い換えれば、「DHTレベルは最初から最後まで低いままだった」ということになります。

「“統計的に有意”であるということは、生理学的に有意であるということとは違う」とアントニオ氏は指摘しています。

クレアチンサプリメントがテストステロンに及ぼす影響については、他に12件の臨床試験が実施されていますが、これまでのところ南アフリカの研究結果を再現したものはないということ。にもかかわらず、この研究はソーシャルメディアで拡散し、クレアチンが抜け毛の原因になるという風説が生まれたと考えられています。

結局、
クレアチンとは何か?

クレアチンとは何か?をシンプルに言うと、肝臓や腎臓、膵臓で合成することできるアミノ酸の一種で、クレアチンリン酸(PCr)という分子となって体内に貯蔵され、エネルギー代謝に役立つもの。そのうち95%が骨格筋に存在するとされています。運動パフォーマンスの向上に高い効果あると知られ、スポーツサプリメントの代表のひとつとして古くから研究されています。ちなみにその名をさらに注目させたのは、1992年のバルセロナ五輪において陸上競技100m走で金メダリストとなったクリフォード・クリスティ*6氏。彼の結果に大きく関与していると考えられ、その後さまざまな研究が行われます。

現在では、トップアスリートばかりでなく中高年の筋力維持をはじめ、趣味としてスポーツを楽しみ人々の間でも広く愛用されるようになりました。そんなわけで自身も「25年間クレアチンを摂取している」というアントニオ氏は、クレアチンの悪評に関して嘆いています。

アントニオ氏によれば、クレアチンは記憶力や脳機能の向上にも役立ち研究結果もあり、神経筋疾患や2型糖尿病、パーキンソン病、アルツハイマー病、外傷性脳損傷の患者に有益であることも研究*7で示されているということ。さらに、「脳震とうによる損傷を抑える効果も期待されているほか、運動との相乗効果で加齢に伴う筋肉の減少(サルコペニア)を遅らせ、逆行させる可能性もある」と言います。

クレアチンには他に
どんな副作用があるのか?

サプリメントを飲む男性
D-1 Vision//Getty Images

クレアチンは米食品医薬品局(FDA)から医薬品としては承認されていませんが、GRAS(一般に安全であると認められる物質)に指定されています。正しく使用すれば、クレアチンは、通常は除脂肪体重の増加という形でみられるある程度の体重増加以外、それほど多くの副作用はないとされています。

腎臓への影響や血糖値の懸念、心臓の問題、筋肉のけいれんや肉離れ、脱水症状、下痢など、少数ながら不確実な副作用の報告もみられるものの、それらの症状が別の要素ではなくクレアチンが原因であるという証拠はありません。

スポーツ栄養や運動代謝の分野を扱う論文誌『International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism』に掲載されたある研究*8では、「カフェインがクレアチンの効果を弱める可能性がある」とされていますが、これにはさらなる研究が必要です。全米プロフットボールリーグ(NFL)所属チーム、カンザスシティ・チーフスのスポーツ栄養士を務める管理栄養士レスリー・ボンチ*9氏は、クレアチンは万人に効果があるとは限らないとして注意を促しています。クレアチンはほとんどの肉や魚に含まれる天然の有機化合物であるため、「クレアチンサプリメントは “毎日の食事でクレアチンを摂取していない”ベジタリアンのほうが有効かもしれません」と同氏は指摘しています。

『メンズヘルス』の皮膚科アドバイザー、アドナン・ナシル*10博士は、日々の食事にクレアチンを加えるなら、しっかりした実績のある健康食品店やビタミン剤専門店で購入することをおすすめしています。クレアチンサプリメントは粉末、錠剤、エナジーバー、ドリンクミックスなどの形で販売されています。どのクレアチンサプリメントを購入すればよいか? は、以下の記事を参考にしてください。

腎臓の慢性疾患がある男性は、クレアチンサプリを購入する前に医師に相談することが必要です。また、必ず摂取推奨量(一般に1日3~5グラムが目安と言われています)を守ることも大切。一気に20グラムをとっても、一朝一夕に「超人ハルク(マーベル・コミックに登場するキャラクター)」のような筋骨隆々とした肉体になれるわけではありません。クレアチンは水溶性のため過剰摂取すれば、まさに、トイレにお金を流すようなものかもしれません。

ですが少なくとも…「クレアチン摂取だけのせいで、シャワー時に排水溝が髪の毛で一杯になるようなことはない」、それだけは確かなことと現状は言えます。

[脚注]

*1:クリーブランド・クリニック 公式サイト内の「Why Do Men Go Bald? And Is There Anything You Can Really Do About It?」を参照

*2:Dr. Jose Antonio フロリダ州のNova Southeastern University(ノバ・サウスイースタン大学)健康科学部の教授であり、運動科学とスポーツ栄養の専門家。研究分野はスポーツ栄養学で、特に食事補助品(例えば、クレアチンやプロテインなど)、スポーツニューロサイエンス、人間のパフォーマンスに焦点を当てている​​。また、国際スポーツ栄養学会(ISSN)のCEOでもある​​。大学のスタッフページを参照

*3:国際スポーツ栄養学会誌に掲載された「Common questions and misconceptions about creatine supplementation: what does the scientific evidence really show?」を参照

*4:Dr. Johan van der Merwe Stellenbosch Universityステレンボッシュ大学)にて、生体医工学の上級講師を務める。彼のLinkedInのページを参照

*5:「Pub Med」に掲載された「Three weeks of creatine monohydrate supplementation affects dihydrotestosterone to testosterone ratio in college-aged rugby players」を参照

*6:Linford Christie イギリスの陸上競技選手で、ジャマイカ出身で7歳のときにイギリスに移民。1992年バルセロナ五輪の100m走で9.96をマークし、金メダルを獲得。翌1993年の世界陸上競技選手権大会 100走では、9.87(自己ベスト)で金メダルを獲得している。

*7:「PubMed」で公開されている「Creatine in Health and Disease」を参照

*8:『International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism』に掲載された「Creatine and Caffeine: Considerations for Concurrent Supplementation」を参照

*9:Leslie J. Bonci 栄養学の分野で広く認知されているプロフェッショナルであり、特にスポーツ栄養学において豊富な経験を持っていることで知られている。彼女はアスリートや一般の人々を対象にしての栄養指導や健康増進活動に積極的に従事。栄養コンサルティング会社「アクティブ・イーティング・アドバイス」のオーナーでもある。

*10:Dr. Adnan Nasir:ノースカロライナ大学チャペルヒル校で研修医を務めたのち、ノースカロライナ州ローリーで皮膚科専門クリニック「Wake Dermatology Associates(ウェイク・ダーマトロジー・アソシエイツ)」に入局。現在もボード医師を務めている。

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Translation / Keiko Tanaka
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です

From: Men's Health US