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「火傷に負けなかった子供たち」から、医者が学んだこと

元陸軍特殊部隊医療班所属の緊急救命医、ジェディディア・バラード先生によるヘルスケア最前線レポートです。

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JOHN LOOMIS

 2018年11月の初週、カリフォルニア州は3つの山火事に巻き込まれました。

 南カリフォルニアの大火事の悲劇を目の当たりにした私たちは、火傷に関する知識と理解を深めておくことの重要性を身にしみて覚えたのではないでしょうか。

 今回は、デンバー・チルドレンズ・ホスピタルの主催した、火傷を負った子供たちとのキャンプに参加した際のエピソードを交えつつ、医師としての知見を皆さんと共有したいと思います。それから火傷してしまった際の応急処置や初期治療、それから生命を脅かす危険性についての科学的知識を、ここでお伝えしようと思います。

 実用的なことをお教えしますので、どうぞお付き合いください。


※本記事は、元陸軍レンジャー部隊の軍医、現在は緊急救命医として勤めている、ジェディディア・バラード先生(JEDIDIAH BALLARD)の寄稿になります。



「ねえ……、ちょっとだけ休んでもいいでしょ」

「あと10歩だ、がんばれ。調子は良さそうじゃないか。あと10歩だけ登ったら、少し休憩しよう」 

 弱音を聞き届けて、それを受け入れます。約束通り10歩だけ前進したら、しばしの休憩です。

「さあ、そろそろ出発の準備はいいかな?」

「あと10秒だけ休ませて」 


 彼が理不尽な要求をしているわけではないのは、様子を見れば分かります。…ということで、もう10秒だけカウントして、それから出発します。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Children's Hospital Colorado Burn Camps New Camper Video
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 こんな調子で休んでは進み、進んでは休む私たちは、先を行くグループから既にかなりの遅れをとってしまっている現状。

 顔を出したばかりの朝日が、コロラドのロッキー山脈のギザギザの山頂を照らし出しています。それから30分が経過し、まばゆい太陽の光が私たちに降り注ぐ…。踏みしめる一歩一歩を音楽代わりに、私たちはトレイルのさらに上を目指します。

 私(バラード先生)のハイキングのパートナーは、8歳のケイデン君。トレーラーパークに暮らしていた彼は、5年前、一生残ってしまうような深刻な火傷を幼い顔に負ってしまったのです。

 ゴールはもう、すぐそこに見えています。

 最後の切り返しを曲がれば、「サンライズ・ハイク」と呼ばれるこのキャンプの毎年恒例のパジャマ・ダンスパーティーが待っているのです。

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私とケイデン君はついに、まるで英雄のように迎え入れられました。

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Getty Images

「自分にはとても登れない」と、弱音を吐いて恐れていたケイデン君。彼が標高あるこのロッキー山脈の薄い空気に苦しみながらも、ついに登りきったのです。

 達成感とプライドに輝く表情で私を見上げた彼は、私に感謝のハグをすると、仲間たちのもとへと駆け寄って行きました。

 私はただ立ち尽くし、流れる音楽に耳を傾けながら様子を眺めます。キャンパーの少年少女たちがふざけたパジャマを身にまとい、思い思いに踊っています。

 ここが私の愛する山々に囲まれた、チェリー・コロラド・キャンプ場です。

「お礼を言うのは僕のほうだよ、ケイデン」と、私はひとり小さな声で囁きます。感謝の念にもうちょっとだけ浸り、それからダンスの輪へと飛び込むのです。

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写真は、ロッキー山脈の登頂を果たした参加者の少年とカウンセラー。

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Getty Images

 
 このキャンプには、6歳から18歳までの少年少女たちが参加。みんな自由を満喫し、とても幸せそうに見えます。

「楽しいサマーキャンプでひと夏の素敵な思い出を作る」、そんな他の子供たちとなんら変わるところなどありません…。

 しかし彼らは全員、ある共通の苦しみを背負っています。火傷が完治するまでは長く、傷みを伴う時間を過ごさなければならないからです。

 毎日の着替えですら拷問のような傷みですし、皮膚の再生は終わることのない絶望感を伴います。焼け焦げた絨毯を思い浮かべてみてください。そしてなにより悲しいことに、多くのひどい火傷は、“アクシデント”の結果ではないのです。

 小児科に連れられてくる火傷を負った子の20パーセントは、アクシデントによる負傷ではありません。


 もっとはっきり言ってしまえば、彼らよりも遥かに大きく、力の強い大人たち…大抵は“自分”の親によって及ぼされた暴力の跡なのです。

 人間の精神とは驚くべきもので、そのような外傷を負った子供たちも時間を経ながら、健全で快活な面を徐々に取り戻してゆくのです。

 確かに彼らには、火傷の傷跡が残ります。でも、その経験を糧として、精神的しなやかさと強さを身につけ、他の子供たちと同様に成長し、喜びを感じ、そして人生の意味を学んでゆくのです。

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写真は、Ⅰ度の火傷です。

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Getty Images

火災現場で身を護るための基礎知識

 生命の危機をもたらすのは、例えば火事の煙を吸い込んでしまうこと、それから熱による脱水症状、混乱した状況での外傷、そして火災現場の一酸化炭素とシアン化物による中毒です。

 密閉された空間にいる場合には、濡らした布で口元を覆い、熱い煙を直接吸い込まないようにすることが重要です。

 冷静さを失わず、とにかく一刻も早く屋外へと脱出しなければなりません。

 一酸化炭素は屋外では希釈されますが、シアン化物の毒の多くは、屋内にあるさまざまなプラスチック製品が燃えることによって生じる煙に混ざっています。

 外傷の多くは、パニックに陥った結果、階段などから転落したり、炎から逃れようと窓から飛び降りる際に生じる怪我なのです。

 火傷に関して、その程度は深度に応じて分類されます。

Ⅰ度の火傷は、表皮など体の表面のダメージで、赤く焼けた皮膚は傷みを伴いますが、水疱は生じません。日焼けが一般的な例です。ひどくならないうちに、なるべく早く水や冷えたアロエ・ジェルなどで処置をおこないますが、氷で冷やしてはいけません。数日から1週間ほどで回復し、痕も残らない…ほとんどの場合、特別な薬を使用する必要もありません。

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写真は、II度の火傷です。

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Getty Images

 
 II度の火傷は、汗腺や毛根のある、真皮と呼ばれる皮層までダメージを受けた状態になります。

 赤くただれひどい傷みを伴い、水疱が生じます。できる限り早い時点で流水などで患部の熱を冷まし、ネオスポリンなど感染症防止薬の軟膏などで患部をカバーし、火傷が広がらないよう、菌による感染が生じないように対処することが有効でしょう。

 シルバディン(スルファジアジン銀、日本では“ゲーベンクリーム”など)などの局所抗生物質を用いることが適当ですが、傷の傷みがさらに増してしまうような副作用もあるので、III度よりも軽度である場合には使用しない方向を私はすすめます。

 細胞が焼けることによって水疱が生じますが、水疱は回復に役立つという説もあり、潰してしまうべきではないという専門的意見が近年では一般的です。

 水疱の中の液体を出してしまうために、その表面に金属製の鋭く尖った道具で小さな穴を開けるくらいなら問題ないでしょう。

 II度の火傷の場合、傷跡が残ってしまうリスクが高く、脱水症状を引き起こす危険性も十分にあることから、適切な医療措置を受けることを強くおすすめします。

 火傷の面積が広い場合、もしく手の平、顔、生殖器、関節部分などに火傷を負った場合には、火傷に対して専門的な医療を提供している病院で診てもらうことが望ましいでしょう。

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写真は、III度の火傷です。

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Getty Images

 III度とIV度の火傷ですが、皮層より深く、脂肪、筋肉、もしくは骨にまで火傷が達した状態です。

 傷みを感知する神経が破壊されており、それゆえ、局部においては痛みの感覚を捉えられませんが、周辺部には深度の浅いエリアが尋がているため、そちらには大きな痛みが生じます。

 初期治療としては、これまでと同様に先ずは冷やすこと、そして、軟膏などで患部を覆うことですが、特に電気や薬品による火傷の場合には、火傷の専門医のいる病院で診てもらうことが絶対に必要となります。

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これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
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 火傷の回復には、長い時間と痛みを伴うプロセスを要します。

 何年もかかることもありますし、手術を繰り返さなければならない場合もあります。

 私は火傷の専門知識は持っていますが、「患者が実際に、どのような苦難を乗り越えてゆかなければならないのか?」、それを実感として知っている訳ではありません。ただひとつだけ、確かなこととして言えることがあります。

 それは…「驚くべき精神力によって、このような苦しみを乗り越える力を獲得し、そして発揮し、火傷から生き延びてきた人々は、過去何万人にも及んでいる」ということです。


FromMEN’S HEALTH
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。

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