この記事をざっくり説明すると…

  • アメリカの原子力企業「NuScale(ニュースケール)」社の新型原子力発電施設の採用を検討していた35の地域のうち、二つの街が計画からの撤退を表明しました。
  • NuScale社の小型原発モジュール炉は、アイダホ国立研究所で製造される予定となっています。
  • 撤退を決めた二つの都市の判断が、今後のNuScale社の計画にどのような影響を及ぼすのか、いずれ明らかとなる日が来るでしょう。

原子炉の小型化に活路を見出す…

 現在、アメリカ各地で稼働している原子力発電所の多くは、時代遅れの技術となっているだけでなく、原子炉の老朽化という問題を抱えています。長期化する開発計画や、膨れ上がる設備投資への資金などが問題となり、従来型の大規模な原子炉の計画が困難となり、行き詰まりが目立っています。

 その中で、注目を集めている原子炉があります。それが「小型モジュール炉(SMR:Small Modular Reactor)」と呼ばれる、出力30万キロワット以下の小型原子炉です。

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Small Modular Reactors
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 その特徴について、経済産業省資源エネルギー庁ホームページで、次のように述べています…。

原子炉を「小型」にすると、大型の原子炉よりも冷えやすくなります。技術的に言えば、小型炉は体積の割に大きな表面積を持っているために起こる現象なのですが、例えて言うなら、「同じ運動をしても子どもや痩せている方のほうが体温を外へ逃がしやすい」というイメージでとらえればいいでしょう。この特性を突きつめていくと、原子炉に水をポンプで入れて冷やさなくても自然に冷えてくれる…といったことも可能になります。実現すれば安全性が高まる上に、原子炉全体を簡単な構造にすることができ、メンテナンスもしやすくなります。その結果、コストの削減ができ、経済性も向上する可能性があります。

原子力発電の「復興」の呼び水に…?

 アメリカ国内でも反原発感情は高く、有事の際の原子力発電所の危険性やそれに伴う地球環境への脅威を指摘する声は国内だけでなく、世界中にも広がっています。従来型の化石燃料による発電から、持続可能な再生可能エネルギーへの転換を求める声も高まっているのです。

 そのような中、SMRに取り組んでいるいくつかの企業は、安定した電力供給を目的に再生可能エネルギーとの連携を図る方針を取ろうとしています。生成可能エネルギーにはまだまだ未知数な点が多く、技術的側面やその費用面においも、テクノロジーとインフラが実用レベルにまで達していないのです。

 アメリカのメディアカンパニー「ブルームバーグ」は、「アメリカ国内におけるSMR開発事業が、『原子力ルネッサンス』のきっかけにもなり得る」と報じています。原子力発電の新技術により、社会の安全性がより高まるという考え方があるのも確かかもしれません。

SMRの先駆者、NuScale

 アメリカ国内で、ベンチャーを中心に10社程度が開発に取り組むSMRにおいて、そのパイオニアとして知られるのが、2007年にオレゴンで設立されたNuScale(ニュースケール)社です。米国エネルギー省からの支援(2018年4月に約4000万ドルの研究開発資金を支援)を得ながら開発を進めており、初号機の建設はアイダホ国立研究所(INL)の敷地内に計画されています。

 そして2020年9月1日(現地時間)、史上初の小型モジュール炉で米国原子力規制委員会(NRC)の設計承認を取得。今後、同社のSMR技術が市場に出ることとなります。

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NuScale Power - The Future of Energy
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採用予定だった2都市が撤退

 ところが現地時間2020年9月28日(月)、NuScale社の新型原子力発電施設の採用を検討していた35地域のうち、ユタ州の二つの街が計画からの撤退を表明しました。

 ユタ州は公益事業の一環として、州内の数十の都市に新型原子炉の建設と関連する優遇措置などを約束していました。それにも関わらず今回は同州の二つの街、ローガンとリーハイにおいて、このプログラムからの脱退が表明されたのです。そうしてその他の町村も、決断を迫られることになりました。

nuscaleのジョンホプキンス会長兼ceo
NurPhoto//Getty Images
NuScaleの会長兼CEOのジョン・ホプキンス氏(2016年撮影)。

 アイダホ州と隣接するユタ州は、アイダホ国立研究所にある米国エネルギー省の施設に原子炉を建設するNuScale社にとって、試験運用を行う上で理想的な立地でした。州最大の都市であるソルトレイクシティの人口はわずか約20万人。州全体の人口は約300万人です。これに対し、脱退を表明したローガンとリーハイの街の人口は約5万人。この数字は小型原子炉のSMR事業において、理想的な数字だったようです。

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 今回の2都市の離脱は、NuScale社の運命を告げるものなのでしょうか? 「ブルームバーグ」の報道によると、一部の専門家はそう考えているようですが、この計画には当初から離脱する都市が現れることも考慮に入れられていたという側面もあります。

 なにせ2都市が離脱しても、まだ33の都市が参加する見込みとなっています。

Source / POPULAR MECHANICS
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。