この記事をざっくり説明すると…

  • アイザック・ニュートン卿は、「エジプトのギザのピラミッドこそが世界の終焉(しゅうえん)についての鍵を握るものだ」と信じていました。
  • ピラミッド学(Pyramidology)とは、ピラミッドの「秘密」に迫ろうとする“疑似科学的な”研究を指す言葉です。
  • ニュートンは、キリスト教とピラミッド学を融合しようとしたことで、宗教的迫害を受けるリスクにも直面していました。

ニュートンによる“ピラミッドに関する文献”がオークションに

数学・物理学・天文学・神学など多彩な才能に恵まれ、基礎物理学の草分けであるアイザック・ニュートン卿(以下、ニュートン)による「謎に満ちた文献」が、サザビーズのオークションに出品され、2020年12月8日朝(アメリカ東部時間)に37万8000ポンド(約5256万円)で落札されました。

ニュートンと言えば、「万有引力」を発見した物理学者…ということで広く認識されているかもしれません。ですが、この未発表の文献にはニュートンの執拗とも言えるピラミッド学への関心を見て取るそうです。

ピラミッドに関する、ニュートン直筆のメモ
SOTHEBY'S
ピラミッドに関する、ニュートン直筆のメモ。

その昔、「エジプトのピラミッドには、何らかのスピリチュアルな意味合いや形而上学的な価値があるはずだ」と、多くの人々が考えていました。ニュートンもその例外ではありません。そして彼は実際にその秘密を解き明かそうと、何年にも及ぶ研究を行っていたことをイギリスの新聞「ガーディアン(The Guardian)」紙が報じています。

「ピラミッドをつくり上げた人々は、どんな単位を用いていたのか?」について、ニュートンは解析を試みていました。「古代エジプト人は、地球そのものを測る測定単位を持っていた」という仮説に基づき、巨大ピラミッドの謎を解くことで自らもまた地球の外周などを測ることが可能になるのではないか?と、ニュートンは期待を寄せていたのです。

temple of solomon
Sepia Times//Getty Images
『ヨハネの黙示録』の舞台となったソロモン神殿。

また、古代に用いられていたさまざまな測定法を解析することで、『ヨハネの黙示録』の舞台となったソロモン神殿の建築技法や寸法を解き明かし、「聖書に隠された真の意味を読み解けるはずだ」と考えたのです。 

純粋な科学者がなぜ疑似科学を研究したのか?

ニュートンと言えば、いわゆる純粋科学の研究者です。自然界の構造や原理を探求することが主体であって、人間中心的立場にとらわれず実利的応用を一切考慮しないという分野でもあります。そこに宗教観に基づいた政治研究や疑似科学など、今日では決して科学的とは見なされない研究分野に対しても労力を割いてきた…ということは、素直にあり得ることだと思えるはず。

sir isaac newton
Imagno//Getty Images
ニュートンと言えば、「万有引力の法則」やリンゴのイメージが強い方も多いかもしれません。ですが、数学者や天文学者などの一面も持ち、金属から金を生み出す、錬金術の研究にも励んでいました。そして、ピラミッド学にものめり込んでいました。

しかし、何千年もの長きにわたり、複雑極まりない問題を解明しようと取り組んできた当時の科学者たちにとって、現代の私たちからすれば“極端”とも思える理論や仮説に対し、それを真っ向から反証して切り捨ててしまうことなど、そう簡単にはできなかったはずです。

しかしながら、それ相応の細胞や原子に関する科学的知見がなければミアズマ説(「何らかの原因で汚染された空気に、人が触れることで病気になる」とするトンデモナイ説)や、四元素論(世界にある全ての物質は、火・空気・水・土の4つの元素から構成されているとする概念)が科学的に誤りであることを証明することなどできないことも確かです。

つまり当時においては、ニュートンのような高名な科学者でさえ、解き明かせない謎の解明の手立てのひとつとして錬金術を研究したり、さまざまな土地に根づく秘教の謎解きに情熱を注ぐなど、疑似科学の世界と無関係ではいられなかったというわけです。 

ピラミッドの放つ無限の魅力

giza
oneworld picture//Getty Images

そして、ギザの象徴とも言えるフォトジェニックな姿を誇る古代エジプトのピラミッドももちろん、まさに強力な磁場をもって科学者たちを惹きつける存在だったのです。事実、ピラミッドに関しても疑似科学と見なされる分野の裾野は非常に広く、「UFO学:ユーフォロジー(ufology)」同様に「ピラミッド学:ピラミドロジー(pyramidology)」と呼ばれるジャンルとして存在するほどなのです。

ニュートン「古代の技術を解析することで、聖書に隠された真の意味を読み解けるはずだ!」

ニュートンにとってのピラミッド学とは、錬金術への深い関心と、彼の根底にあったキリスト教信仰とが結びついたものでした。「『黙示録』の中に隠されたキリスト教の秘密を解き明かす鍵はピラミッドにある」と、ニュートンは考えていたのです。

しかし当時は、キリスト教の信仰を科学や疑似科学と関連づけて考えることは禁止されていました。いかにその研究の動機が、神に対する信仰心に基づいたものであったとしても、ニュートンは自らの研究を人目に晒(さら)すわけにはいかなかったのです。

the casing stones that make up the great pyramids of giza
VW Pics//Getty Images

『新約聖書』の最後に配された聖典『ヨハネの黙示録』は、聖書における他のテキストと比べて、その調子や主題が劇的に異なります。それゆえ、多くの研究者たちがその記号的、数字的な意味を読み解こうと情熱を注いできました。「不可解なテキストをパズルである」と考えられてきたのです。ニュートンもまた、その複雑な謎解きに魅了された一人でした…。

『ヨハネの黙示録』の話の一体どこに、ピラミッドが関係してくるのでしょうか? ピラミッドとは、それを建造した古代エジプト人たちの卓越した文化を示す驚異的としか言いようのない偉業の産物です。それゆえ西欧のエキゾチストたちにとって、磁石のような役割を果たしていたのです。

「すでに失われた秘教的な知識が、かつてのエジプトには存在していた」と、ニュートンをはじめとする当時の研究者たちは信じていました。そのような彼らにとってピラミッドは、「実在するパズルそのものだった」と言えるでしょう。『ヨハネの黙示録』と同様に、失われた文化の謎を解く暗号がそこに隠されていると信じられていたのです。

人間とは、あらゆる物事の中に法則性を見出そうとする生物かもしれません。それが、人間の脳を特別なものにしている一因でもあるのでしょう。ニュートンが生きた1600年代中盤から1700年代にかけて、目の前の法則性が果たして科学的根拠を備えたものなのか? もしくは疑似科学に過ぎないのか? それを見極めるのは簡単ではなかったはずです。

さて、ニュートンがピラミッドについて書いた文献のオークションは、2020年12月8日に終了しました。幸運な落札者は今ごろ、ピラミッド学者としてのニュートンの研究や考察を目の当たりにしていることでしょう。

Source / POPULAR MECHANICS
Translate / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です