ドナルド・J・トランプ前大統領は2022年8月8日(月)、FBIによってフロリダ州パームビーチにある邸宅が家宅捜索され、大統領職後期におけるさまざまな捜査が進展していることを示唆しました。これに詳しい複数の関係者によると、捜索の焦点はトランプ氏がホワイトハウスを去る際に、私的なクラブ兼住居である“マール・ア・ラーゴ”に持ち込んだ「機密文書」に絞られているようです。

トランプ氏は国立公文書館の職員が要求した15箱の機密文書資料の返却を何カ月も遅らせ、回収に乗り出す恐れが出てきた2022年1月になって、ようやく返却しました。この件に関しては、2022年初めに国立公文書館から司法省に照会されていました。

そうしてこの捜索は、大統領就任前・就任中・就任後のトランプ氏の行動に関する長期にわたる調査において驚くべき展開を見せています。さらにトランプ氏は、ホワイトハウスへの再出馬を発表することを検討していることなどを含め、「ニューヨーク・タイムズ」「ワシントンポスト」紙が随時更新の形で伝えるなど報道は過熱する一方です。

トランプ捜査
Joe Raedle//Getty Images
マー・ア・ラゴ―

ホワイトハウスから重要資料を15箱分持ち去り、返還せず…

この機密文書の返還問題だけではありません。司法省は2020年の選挙で敗北した後も、大統領職に留まろうとするトランプ氏の執着についても、別調査という形で強化しています。また、ジョージア州で加速する(2020年11月の大統領選での不正疑惑)捜査とニューヨークでの(トランプ一族が経営する「トランプ・オーガナイゼーション」が「資産評価で詐欺や誤情報」を通じて、税制優遇措置や融資を獲得した疑惑への)民事訴訟にも前大統領は直面しているというわけです。

トランプ氏はかねてからFBIを「自分を狙う民主党の手先」と位置づけており、今回の捜索に関しては共和党内や米政界の極右の支持者の間で猛反発を引き起こしました。共和党の下院議長であるケビン・マッカーシー下院議員(カリフォルニア州)は、2022年11月に共和党が下院を支配した場合、メリック・B・ガーランド司法長官を調査する意向を示唆しています…。

FBIが捜査令状を取るには、正当かつ確固たる理由が必要となります。「犯罪が確実に行われた」と判断した上で、「“マール・ア・ラーゴ”でその証拠を見つける可能性が確実である」と、捜査官が判事を説得する必要があります。また前大統領の自宅を捜索するには、FBIと司法省のトップのサインがほぼ確実に必要となるはずです。

とは言え、今回の捜索は検察側がトランプ氏の犯罪を断定したことを意味するものではありません。FBIの担当者は司法省の担当者と同様、コメントを拒否しました。ちなみに現在のFBI長官のクリストファー・A・レイ氏は、トランプ氏によって任命されています…。 

トランプ氏は捜索時、ニューヨークにいました。息子の一人であるエリック・トランプ氏は「Fox News」に対し、捜索を受けたことを父親に知らせたのは自分であり、「捜索令状は大統領関連の文書に関連するものだ」と述べています。

2016年の大統領選で、国務長官時代に政府関連のメッセージ用に機密性の低いメールサーバーを使用していたヒラリー・クリントン氏の慣習を批判したトランプ氏。ですが、自分の大統領任期中には「公文書館に保管するはずの公的資料を破り捨てる」ことで知られていたことが、同「ニューヨーク・タイムズ」紙記事でも伝えられています。

そこでは彼の習慣をよく知るある人物は、「その中には寝室などでシュレッダーにかけていた機密資料も含まれている」と語っています。この捜索は少なくとも、「クラブに記録が残っているかどうか? を調べるためです」とも語っています。

トランプ氏は選挙人団(※)の認証のために、「偽」の選挙人を議会に送り込む計画との関連で連邦検察の捜査対象にもなっています。2021年1月6日のホワイトハウス襲撃事件を調査する下院委員会も作業を続け、2022年8月8日週に証人尋問も行っています。

※大統領選に直接投票できる人たちのこと。選挙人は住人の直接投票によって選出され、総数は538人。大統領に選ばれるためには270の選挙人票を得る必要がある。

付きまとう国家機密漏洩の疑い。捜査員の1人は防諜活動に携わった人物

過去に機密資料持ち出しで罪に問われた人物には、ビル・クリントン大統領の国家安全保障顧問だったサミュエル・R・バーガー(2015年、政府の公文書館から機密資料を持ち出したとして軽犯罪の罪を認めました)、2007年には、アジアの専門家で元国務省高官のドナルド・カイザー(機密から最高機密まで3,000以上の機密文書を自宅の地下室に保管していたことを告白)が実刑判決を受けています。

さらに遡(さかのぼ)れば1999年、CIAはジョン・M・ドイッチ元長官が自宅のデスクトップパソコンで国家機密を不適切に扱っていたと結論づけ、機密保持許可を停止したと発表しました。

国立公文書館は2022年1月、トランプ氏が任期満了に伴いホワイトハウスの住居から“マール・ア・ラーゴ”に持ち込んだ箱15個を回収しました。箱の中には、公務に関わるすべての文書や記録を公文書館に引き渡すことを義務づける大統領記録法の対象となる資料が含まれていました。

箱の中にあったのは文書、記念品、贈り物、手紙など…。国立公文書館は発見した機密資料について、「国家安全保障上の機密情報 」としか説明していません。国立公文書館は「箱の中に機密情報を確認した」ため、「司法省と連絡を取っている」と国立公文書館のデビッド・S・フェリエロ氏は当時、議会で語っていました。

この問題に詳しい2人の関係者によると、連邦検察はその後、大陪審の調査を開始したということ。また各紙報道によれば検察は、「今年初めに機密文書の入った箱を入手するために公文書館に召喚状を出した」と、この問題に詳しい2人(捜査中のため匿名)は語っているとのこと。 

トランプ前大統領が機密情報をトイレに? 

この関係者のうち1人によると、当局はトランプ氏の大統領任期末期にホワイトハウスで働いた人々にも事情聴取の要請を行ったそうです。ある関係者によると、2022年春には連邦捜査官の少人数のグループが、ある文書を求めて“マール・ア・ラーゴ”を訪れたと言います。また、その関係者によると、「捜査官のうち少なくとも1人は、防諜活動に携わっていた人物」ということ。

「トランプ氏が、大統領として受け取った機密資料や文書をどのように扱ったか?」という問題は、ホワイトハウスにいる間そしてそれ以降も、ずっとつきまとっています。トランプ氏は手渡された公文書の断片を破り、関係者にテープで貼り合わせることを強要したことでも知られており、さらに「ニューヨーク・タイムズ」紙の記者が近々出版する書籍には、「職員がトイレに破れた紙の塊が詰まっているのを見つけ、それはトランプ氏が投げ込んだに違いないと職員の多くが信じている」ことが明らかにされています。

トランプ捜査
Chip Somodevilla//Getty Images
2022年8月9日ブリーフィングにて、今回の捜査に関して記者からの対応に追われるカリーヌ・ジャン=ピーエル報道官。

政権維持のために大統領権限で機密情報をSNSに公開

在任中、特に選挙運動とロシアとの関係の調査などの問題で、政権が政治的に有利な資料を公に公開した際、トランプ氏は何度も情報の機密解除権を行使しました。政権末期には、国家安全保障上の脅威に関する機密情報を集めた「President's Daily Brief(大統領日報)」から写真を切り取っていましたが、それも持ち込んだかどうかは不明です。

機密資料の扱い方の顕著な例として、トランプ氏は2019年にイランのミサイル発射場の高度に機密化されたスパイ衛星画像を撮影し、機密解除した上でその写真をTwitterで公開したこともあります。

2022年初めには、トランプ氏が国立公文書館と関わる代表者の一人に指名した元国防総省高官で、トランプ氏に忠実であるカシュ・パテル氏が右派サイト「ブライトバート」に対して、「トランプ氏がホワイトハウスを去る前に、文書を機密解除した」と示唆しました。また、「トランプ氏は政府を去ることを見越して、米国民が自ら読む権利を持つべきと考える資料一式を機密解除したのです」と付け加えて説明していました。 

トランプ捜査
Eva Marie Uzcategui//Getty Images
FBI捜査への抗議のため、“マール・ア・ラーゴ”に集結したトランプ支持者たち。2022年8月8日撮影

地元のテレビ放送によれば、“マール・ア・ラーゴ”付近に集まるトランプ氏の支持者を映し出し、中には記者に対して攻撃的な態度をとる者もいたそうです。

共和党トップのケヴィン・マカーシー下院院内総務は、ツイッターで「もうこれで十分だ。司法省は政治的に武器化されて、耐え難い状態に達した。共和党が下院を取り戻したあかつきにはすぐに同省を監査し、事実に沿って徹底的に洗い出す」、「ガーランド司法長官、自分の書類を保存して予定表を空にしておくように」と投稿しています。

一方、トランプ政権で副大統領だったマイク・ペンス氏は、なぜ捜索令状が執行されたのか「全面的な説明」を求めるものの…自身のツイッターでは、「アメリカの歴史で、合衆国の大統領経験者の自宅が強制捜査されたことなどない」と投稿。ペンス氏は2024年大統領選への出馬を目指しているとも噂があります。そのせいでしょうか、これまでとは違って、どこかトランプ氏から距離を置いているような文面にも思えます。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

トランプ氏は声明で、捜査の結果次第では政治的に有利な価値を見出す可能性があることを明らかにし、顧問の一部もこれに同調しています。トランプ氏の政治チームは、2022年8月8日(月)の深夜早々に、捜索に関する資金調達の勧誘を早速送り始めたそうです。