※本記事は、『Esquire』US版のクリエイティブ・ディレクターであるニック・サリバンが、ニューヨークの57番街の新店舗に関して寄稿してくれました。

 

 創業1755年。現存する最古の時計メーカーとされるスイスの「ヴァシュロン・コンスタンタン」は、長きにわたり顧客と深い関係を築いております。

 例えばアメリカでは、少なくとも1830年代初頭から個人のクライアントに向けて時計を提供し続けています。20世紀初頭の数十年間に「ヴァシュロン・コンスタンタン」は、作家ヘンリー・ジェームズやロックフェラー家の人々、自動車起業家のジェームズ・ウォード・パッカードなど、アメリカの富裕層たちにとってのエレガントなステータスシンボルとなりました。

 その上、第一次世界大戦後に急成長した自動車産業に触発され、クルマの運転中にハンドルを握る手から見やすいよう、わざと垂直から横にずらした四角いカタチの米国市場向けの最初の時計も製作しています。この時計こそ、現在「ヒストリーク・アメリカン 1921」として知られているタイムピースです。

◇「ヒストリーク・アメリカン 1921」の物語

 このウォッチメゾンは2008年に初めて、「狂騒の20年代」と呼ばれた活気あふれる1920年代(1921年)に米国市場向けとしてデザインで発表されたモデルを再解釈し、「ヒストリーク・アメリカン 1921」をして復刻しました。以来、このモデルに貴金属を使用したモダンなバージョンや、現代人の好みに合わせてバージョンを増やして製作するなど、遊びも随所に取り入れたものを発表しています。

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Courtesy of Vacheron Constantin
現在販売中の「ヒストリーク・アメリカン 1921」(40 x 40mm、18Kホワイトゴールド)435万6000円公式サイト

 そんな「ヴァシュロン・コンスタンタン」は、パンデミックの間もその栄光を曇らせることなく邁進していました。 1年以上の隔離状態から、ようやく光が差し始めたアメリカの地で、再び偉大かつ新たなプロジェクトを発表したのです。それが、今年(2021年)で誕生100周年を迎えることになる「ヒストリーク・アメリカン 1921」の特別な復刻になります。

誕生100周年「ヒストリーク・アメリカン 1921」

 何が「特別」かと言えば、その忠実さ。これは「ヴァシュロンコンスタンタンブティック NEW YORK – 57TH STREET」のオープンを記念したもので、オリジナルの「ヒストリーク・アメリカン 1921」のレプリカを当時のパーツと工具を使用し、1つだけ正確に再現するというユニークな試みになります。もちろん、発表が行われたのは前出のニューヨーク57番街にオープンした2階建ての新たな旗艦店。そこは世界最大のヴァシュロンコンスタンタンブティックであり、2011年にオープンしたマディソンアヴェニュー(現在は閉鎖中)のものの4倍の大きさで4500平方フィートの広さとなっています。

 今回の復刻においてメゾンの職人たちは、インスピレーションを得るためにアーカイブに保管されていたオリジナルの「ヒストリーク・アメリカン 1921」を徹底研究したとのこと。その手本とした現物は、最初にラジオというメディアを使って布教活動を行ったという先駆的な伝道者であり、自動車マニアだったメソジスト教会の牧師サミュエル・パークス・キャドマン博士のもので、1928年に手に入れた2本のうちの1本ということです。

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Courtesy of Vacheron Constantin
100年前のパーツで再現された「ヒストリーク・アメリカン 1921」。リューズの位置が復刻版とは異なり、左上にあります。

 製作には、ムーブメントのブリッジとレザーストラップ以外は、メゾンが100年間保存していた1920年代当時のオリジナルパーツが全て使用されています。部品の中には、完全に仕上がっている状態のものもあったそうですが、未完成であった部品もあり、それは職人たちが細心にわたる手作業で仕上げたということです。

 そんな壮大なるプロジェクトは「ヴァシュロン・コンスタンタン」にとって、スイス時計製作の先駆者としての卓越した手仕事を具(つぶさ)に伝承していることを世に再確認させ、その技術が今日も実働していることを示すことのできた、非常に効果的なデモンストレーションになったと言えるでしょう。

◇この1点ものは購入できるのか?

 3年がかりで製作されたこの一点モノの完全なる復刻モデルは、購入することはできません。ですが、オリジナルのサイズ同様のものも含め、いくつかの復刻版「ヒストリーク・アメリカン 1921」は購入可能となっています。

 もしこのプロジェクトを知って、「ヴァシュロン・コンスタンタン」の復刻版に対してさらなる興味を抱いたのであれば、同社が依然から世に送り出しているコレクション「ヒストリーク」をぜひごご覧ください。またさらに、ヴィンテージモデルにも触手伸ばしたいとお思いの方には、同社はすでに過去の作品に対してのユニークな取り組み「レ・コレクショナー(LesCollectionneurs)」を確認するといいでしょう。

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Courtesy of Vacheron Constantin
「レ・コレクショナー(LesCollectionneurs)」コレクションの時計。

 スイスの他の時計メーカーとは異なり、このメゾンは歴史的な時計に対する独自の評価を認識しており、数年前から主に1910年から1930年の懐中時計と1970年以前の腕時計といったヴィンテージモデルを「レ・コレクショナー」コレクションとして販売しています。

 このコレクションはそれぞれウォッチコレクターから買い戻したタイムピースであり、それぞれメゾンの職人によって時間をかけて修復され、のちにヴァシュロン・コンスタンタンのブティックにて関連するテーマ別のイベントや展示および販売も行うもの。このような特別イベントは、時計愛好家の方々が「レ・コレクショナー」コレクションを目にする絶好の機会となっています。

 現在、「ヴァシュロンコンスタンタンブティック NEW YORK – 57TH STREET」では、オリジナルのヴィンテージウォッチがいくつか展示されているとのこと。日本では2021年4月末から5月にかけて、ヴァシュロン・コンスタンタン ブティック 銀座店、同新 宿伊勢丹店、同 大丸心斎橋店にて完全予約制で開催されました。もし、今後の動向が気になる方は、ぜひお問い合わせください。

●お問い合わせ先
ヴァシュロン・コンスタンタン
TEL 0120-63-1755
公式サイト

Source / Esquire US
Translation / Kazuhiro Uchida
※この翻訳は抄訳です。