数少ない“真の”オリジナル

「オリジナル」という表現を、時計ファンはやや軽々しく使いすぎていないでしょうか。画期的なイノベーションと象徴的なデザインが物を言う腕時計の世界において、「オリジナル」という称号の後継を担うに値する新作が次々と生み出されているのは事実です。もしかしたら長い歳月を経ることで、「全てがオリジナル」とみなされるようになるのかもしれません。

しかし、ダイバーズウォッチの世界における「オリジナル中のオリジナル」と呼ぶべきものがあるとすれば、プランパン「フィフティ ファゾムス」をおいて他にはないでしょう。

フィフティ ファゾムス
Blancpain

航海用語に深いなじみのない皆さんのために説明を加えておくと、1ファゾムとは6フィート(約183センチ)という水深を指す単位。50ファゾムで300フィート、つまり91.44メートルの水深の域に示しています。この数値は、当時のダイバーが潜水できる限界値とされていました。

そして当時のブランパンのCEOであったジャン=ジャック・フィスター氏は、優れたダイバーでもありました。そこで自身の豊富な経験を基に、スキューバダイビング用の腕時計の開発をしている最中だったのです。時を同じく、フランス海軍特殊潜水部隊を新設したロベール・“ボブ”・マルビエ大尉とクロード・リフォ中尉は、潜水部隊の使用に耐えるダイビングウォッチを探しているところでもありました。

そんな両者の出会いによって、1953年にダイバーズウォッチの元祖と言われる「フィフティ ファゾムス」が誕生したというわけです。そして、この両者が夢にまで見るほど追求していた数値を、モデル名にしたというわけです。そしてその誕生から70年目を迎えた今年、9月下旬のコート・ダジュールの海辺でブランパンが記念すべき新作を披露しました。

伝統を尊び、あくまでモダンに

そこで「フィフティ ファゾムス」の長い歴史に新たな彩りとして加えられたのが、“9Kブロンズゴールド”を用いた限定555本の、目を見張るほどのタイムピース「Act 3」です。“9Kブロンズゴールド”とは特許取得済みの合金で、37.5%のゴールド(ホールマークは9K)、50%の銅(これによって「ブロンズ」と定義されます)、シルバー、パラジウム、ガリウムが含まれた合金です。

そして、ピンクを帯びた色合いからの美しい外観を持つこのブロンズは、従来のブロンズから進化を経て、肌に直接着けることも可能としています。

フィフティ ファゾムス
Blancpain

オリジナルモデルと同じくケース径は41.30mmですが、インスピレーションの源泉であるミリタリースペックの初代「フィフティ ファゾムス」とは多くの点で異なり、数えきれないほどの革新的技術によってどこまでも現代的な時計として仕上げられています。

300メートル防水のサファイアクリスタルのケースバックからは、自動巻きムーブメント「1154.P2」が姿をのぞかせます。100時間のパワーリザーブを実現した二重香箱に加え、耐磁性を確保するシリコン製ヒゲゼンマイを搭載。さらに現在の海洋学的な問題意識を踏まえ、海洋から回収した漁網を再利用してつくられたNATOストラップが付属します。

元々はCEOの事故体験から誕生

前述のブランパンCEOを長年務めたジャン=ジャック・フィスター氏自身、スキューバダイビングの聖地として知られるコート・ダジュールを幾度となく訪れ、沈没船や岩礁を目指して深海へと潜る、情熱的なダイバーでした。同社の公式情報によれば、「フィフティ ファゾムス」のそもそものアイデアはフィスター氏が命を落としかけたというダイビング中の事故から生まれたものという詳細もあります。それまでの防水時計では、潜水時間を正確に知ることはできなかったようです。そこでフィスター氏によって考案されたのが、「ロック可能な回転ベゼルによって酸素残量を示す」という方法でした。

フィフティ ファゾムス
Blancpain
フィフティ ファゾムス
Blancpain

マットなブラックの文字盤に、リッチなブロンズゴールドが映えるフェイス。防水性表示とスーパールミノバ®が塗布されたヴィンテージ風インデックス、そしてダイビングスケール付きブラックのセラミック製逆回転防止ベゼルを備えています。さらに、オリジナルモデルと同じカラーコードを取り入れたバイカラーのNATOストラップが加わります。これは海洋から回収した漁網からつくられたもので、オリジナルモデルに直結する特徴がここにも表れています。

二重の防水シールが施されたリューズ、Oリング(腕時計用の裏蓋パッキン)の変形を防ぐために強化されたケースバックの密閉システムなど、300フィート(91.44メートル)の水圧に十分に耐える設計は当初から採用されてきたものです。フィスター氏はさらに、深海での時間の確認を容易にするため、黒い文字盤に視認性の高いマーカーを組み合わせ、さらに潜水中に生じるケース内の結露をダイバーに警告するモイスチャーインジケーターが1950年代後半になって機能として加えられました。

同時代に生み出されたダイバーズウォッチはいくつかありましたが、当時の主要国の軍隊(フランス、ドイツ、アメリカ、ノルウェーなど)は、軍隊の潜水チーム向けに「フィフティ ファゾムス」を採用しました。なぜか? それは最先端の機能が1本に納められた、世界で初めての専門的なモデルだったからにほかなりません。そうして「フィフティ ファゾムス」はダイバーズウォッチの原型となり、今もなおその事実に変わりはありません。

全ては歴史が証明しています。「フィフティ ファゾムス」なくして、本格的なダイバーズウォッチの歴史を語ることなどできないのですから。

Source / Esquire US
Translation / Kazuki Kimura
Edit / Ryutaro Hayashi
※この翻訳は抄訳です