彼女は言った、「会場にいるみなさん、『inclusion rider』という言葉をよく覚えておきましょう」と…。

 
Frances McDormand

 2018年3月4日(現地時間)に開催された第90回アカデミー賞授賞式で、主演女優賞に輝いた女優フランシス・マクドーマンド。 

 女性たちの才能をもっと評価し、男女不平等を解消するよう訴えたスピーチを披露し、こう締めくくったのでした。「最後に伝えたいメッセージがあります。会場にいるみなさん、『inclusion rider』という言葉をよく覚えておきましょう」と。 

 この「inclusion rider」という言葉は、一体どういう意味なのか? 調べてみたところ、どうやら映画業界における役者&スタッフの多様性を保障する条項のようなものらしいのです。役者たちは出演交渉を行う際、「riders」と呼ばれる付帯条項をつけるのが一般的。「rider」というと、大物アーティストたちがツアーのために要求するリスト(ツアーライダー)を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、それと内容は似ています。ちなみに歌姫マライア・キャリーは、バックステージで「白い子猫10匹」と「白い鳩10羽」をリクエストしたこともあったとか…。

 米「ワシントンポスト」紙によれば、「inclusion rider」は「映画に登場する女性、少数民族、LGBTQコミュニティの人々、障害をもつ人々の割合が、ロケ地の人口構成を反映していること」を条件として要求していると言っています。つまり、現在のアメリカを舞台にしたドラマを制作する場合、出演者の50%は女性、50%は白人以外の役者、20%は障害をもつ役者、5%はLGBTQコミュニティに属する役者でなければならないということになります。 

 また、主要キャストに限らず、エキストラや制作スタッフに対しても同じことを求めているのでした。(次ページへつづく)
 

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
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「inclusion rider」の発案者は?

 それは、南カリフォルニア大学の研究機構Annenberg Inclusion Initiativeの社会科学者ステイシー・スミスさんになります。 

 彼女は女優兼プロデューサーのFanshen Cox DiGiovanni(ファンシェン・コックス・ディジョバンニ)さんと、法律事務所コーエン・ミルスタインの弁護士Kalpana Kotogal(カルパナ・コトガル)さんの3人でアイデアを発展させたそうです。  

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 US版『エル』の取材に対し、コトガルさんは次のようにコメントしています。 

「初めてステイシーとファンシェンの3人で集まり、『inclusion rider』のアイデアについて話し合ったのは、今から16カ月ほど前です。それから職場環境が悪化していく様子を何度も見てきた弁護士&訴訟当事者として、どうすればハリウッドのキャスティングや雇用を改善することができるのかについてじっくり考えました」とのこと。

 その後3人は、役者が出演交渉を行う際に提示できる付帯条項を作成することに…。そうすれば大物セレブたちがオファーをもらったとき、「この映画に出演する場合は、これらの要求を受け入れていただきます」とリクエストすることができるから。「映画業界に変化をもたらすためには、すでにパワーをもっている方々の力を借りる必要があると思います」と…。(次ページへつづく)

ハリウッドの面白いところは…

「…プロジェクトごとに仕事場が変わるところです。警察官や学校の先生などさまざまな役柄をこなす役者も、みんなオーディションに参加し、役を勝ち取る必要があります。この付帯条項をプロジェクトごとに提示できれば、それぞれの職場環境を一つ一つ改善することができるかもしれません。権力者たちがこの付帯条項を提示することで、男性優位な体制を変えることができると信じています」と。

 
 今年のアカデミー賞でフランシスが、「inclusion rider」という言葉を広めたことについて…。「彼女がスピーチで『inclusion rider』について語ってくれるとは夢にも思いませんでした」と喜びを露わにしたコトガルさん。さらに…。

「私たちは映画界のエージェントたちや弁護士たちにも、『inclusion rider』についてもっと知ってもらおうといろんな活動を行ってきました。だから、私たちの考えが世の中に浸透するのは、時間の問題だと思っています。ワインスタインのセクハラ騒動以来、この業界でもさまざまなムーブメントが広がっています。が、女性や有色人種の人たちに対する差別は、今にはじまったことではありません――でも、声を上げる時は来たと思うし、フランシスのスピーチによって、『inclusion rider』の認知度はアップしたと思います」と加えて語ってくれました。 
     

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Photograph / Getty Images


 フランシスのスピーチ後、女優ブリー・ラーソンは早速自身のツイッターで、「inclusion rider」への賛同を表明しています。 

「すでに、私たちの付帯条項を使用している役者たちや制作会社もいます――ここで名前をあげることはできませんが、ブリー・ラーソンのように公の場で賛同の姿勢を見せてくれるのはとてもありがたいですね」と。 

 そして「inclusion rider」が世の中に浸透すれば、「リップサービスだけで行動として実行しない人たちと、宣言通りに付帯条項を提示する人たちとの間に大きな差が生じる」とコトガル氏は予想しています。

「付帯条項を提示することによって、交渉が難航することを恐れる人もいるでしょう――でも、いくら待っても変化は起こりません。映画界である程度のパワーももっているなら、一緒に働いている人たちのためにも、その力を活かして欲しいです。細かいことは気にせずに、もっと大きな問題として捉えてもらえると嬉しいです」と。

 
 大物セレブたちが一斉にこの「inclusion rider」を提示したら、制作側も「No!」とは言えないはずです。ハリウッドのさらなる多様化と、女性たちの活躍に期待したいところですね!!

From ELLE
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Translation / Reiko Kuwabara