2021年はランボルギーニにとって、実りのある1年となりました。販売総数は世界で8405台を記録。売上高は19億5000万ユーロ(約2670億円)、売上高における利益率は20.2%を叩き出しました。これらは全て同社における過去最高の数値となります。

2023年には初のハイブリッドモデルが発表され、2024年には全モデルのハイブリッド化へ切り替えがされることもアナウンスされています。そして見据える先は2028年、同社初のフルEV(電気自動車)の導入が予定されています。

そんな同社ですが、もともとは全輪駆動モデルを数多く発表し、その様は全輪駆動への強いこだわりを感じさせるほどでした。ところが近年の最新モデルでは、後輪駆動が採用されています。ここで変化が訪れた理由とは一体何なのか? それを考える上でも、まずは時計の針を約20年ほど前に戻してみる必要がありそうです。

1993年に登場したランボルギーニ「ディアブロVT」は、ランボルギーニ初となる全輪駆動車として大きな注目を集めました。トラクションシステムには「ビスカスカップリング」(編集注:高粘度シリコンオイルの“せん断抵抗”を利用した流体クラッチの一種)を採用。ちなみに車名にある“VT”とは、「ビスカス・トラクション(Viscous Traction)」の頭文字に由来します。そしてこのクルマは、ドライビング・エクスペリエンスそのものを根底から変えてしまったのです。

492馬力の怪力を誇るミッドエンジンのスーパーカー「ディアブロVT」でしたが、全輪駆動がそのパワーを楽々と操っていました。その後継モデルとなった「ムルシエラゴ」も全輪駆動のみでの展開に。ランボルギーニのエントリーモデルとなった「ガヤルド」においても、リアドライブ(後輪駆動)仕様はパワーを落とし、後期に限定生産されるに留まりました。

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Heritage Images//Getty Images
1996年モデルのランボルギーニ「ディアブロVT ロードスター」。

しかし、近年になってランボルギーニはリアドライブを再び前面に押し出すようになりました。640馬力のV10エンジンを積んだ名車「ウラカン STO」や2022年4月12日にワールドプレミアされた「ウラカン テクニカ」は、なんとリアドライブのみで展開されています。

「50年前であれば、このようなクルマを限界ギリギリのパワーで操ろうとすれば、恐怖を伴わずにはいられなかったはずです」と述べているのは、ランボルギーニのCTO(最高技術責任者)に就任したルーベン・モール氏です。

モール氏によれば、600馬力超のミッドシップエンジンと言えば、50年前にはポルシェ「917」などサーキットで駆るような先鋭的なクルマに限られていました。ですがし、最新型のランボルギーニがその常識を覆すことになったのです。

 
AUTOMOBILI LAMBORGHINI
2022年4月12日(火)にワールドプレミアされた最新モデル「ウラカン テクニカ」。
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AUTOMOBILI LAMBORGHINI

「高出力のクルマを、いかなるコンディションでも高速で走らせたいと考えるのであれば、全輪駆動がベストな選択であることは今も昔も変わりません。しかし、サーキット用のクルマの実力を楽しみ、その極めつけのスピードを体感したいということであれば、後輪駆動こそがベストという判断になるのです。重量という点においても後輪駆動に利があります。そのような理由から、私たちは『ウラカン STO』を後輪駆動とすることを決定したのです。先ほど述べたテクニカルな意味において合理的であるばかりでなく、私たちの顧客となる人々が後輪駆動を好むというのも、その理由です」

これはドライバーの嗜好の変化、そしてテクノロジーの進化が反映された結果であると言えるでしょう。

「今日では進化した制御システムやアクティブシステムにより、ドライバーにとって操縦しやすい、コントロール可能なクルマを提供することが簡単にできるようになりました」と、モール氏は言います。「15~20年前であれば、そんな芸当は到底不可能でした」

LDVIの果たした役割

ランボルギーニのこの大きな一歩を支えるのが「ウラカン EVO」で初採用されたLDVI(Lamborghini Dinamica Veicolo Integrata:ランボルギーニ・ディナミカ・ヴェイコロ・インテグラータ)システムの存在です。

エンジン、ギアボックス、ABS、後輪操舵システム、ディファレンシャル、ダンパー、トラクション/スタビリティコントロール、場合によっては全輪駆動システムなど…。あらゆる機能を統括する頭脳と呼ぶべきシステムがこのLDVIです。

このシステムは役割の違う全ての機能を相互的に作用させることで、車両のハンドリングを可能にするという考えに基づいて開発されました。例えば、トラクションを上げるためにブレーキを踏むのではなく、その代わりにエンジントルクを落としたり、ディファレンシャルを作動させるといった操作をクルマ自体が行います。

このシステムにより、状況に対して事後的に対応するのではなく、それに先行した対応を可能にしています。例を挙げれば、ドライバーがブレーキを踏もうとすることを感知したクルマが、ダンパーの比重をフロントからリアへと変更し、重心を移動させることでシャープなターンインを可能にする、というのがモール氏の説明です。

近年では、GMやフェラーリもこれに似たアプローチを成功裏に行っています。しかし、この技術によりランボルギーニが大きく進化したことに疑いの余地はありません。

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Martyn Lucy//Getty Images
ランボルギーニ「ウラカン EVO スパイダー」。

タイヤの技術革新もまた、大きな影響を与えています。モール氏は2000年代のスーパーカーを例に取り、次のように説明します。

「当時のクルマにとって最大の課題は、メカニカル・トラクションを完成させることでした。メカニカル・トラクションとは、極太のタイヤおよびサスペンションのセットアップのみでトラクションを制御しようとすることと同義です。当時は他にやりようもなかったのですが、このコンセプトの欠点は、クルマが限界に達すると制御が一気に困難になってしまうということでした」

そのような扱いにくいハンドリングを、ランボルギーニが求めるはずなどありません。モール氏によれば、新型車はいずれも簡単にコントロールできるように設計されており、必要に応じてのみ作動するLDVIシステムはドライバーに感知できないレベルで介入するようデザインされているとのことです。

「ドライバー自身にコントロールの限界を把握させるために重要なのは、十分なフィーリングを提供することです」と、モール氏は付け加えます。そのために必要となるのは、例えば「ウラカン STO」のようなサーキット仕様のクルマの場合においても、クルマそのものの動静を直接ドライバーに感じ取ってもらうことです。

「そのように設計することで、ドライバーとクルマとの間に信頼関係が生まれます。つまり、クルマが限度に達する前に、ドライバーがそれを自ら感知できるようになるのです」とモール氏。

最高速度を競う必要のあるクルマであれば、話はまた異なります。この点について、モール氏は次のように説明します。

「もしプロのレーシングドライバー用のレースカーをつくるというのであれば、セットアップは違ったものになるでしょう。彼らの使命はただ一つ、ファステストラップを刻むことのみにあるからです。彼らはクルマの限度を知り抜いており、自分が何をすべきかをプロとして熟知している人たちなわけです。それに対して、私たちが持つ使命というのは顧客となる皆さんに、こころから楽しめるクルマを提供することに他ならないのです」、とモール氏が強く訴えます。

さらに、「例えば『ウラカン STO』は、一見走る場所がイメージできないトラック難民のように見えるかもしれません。レース用車両である『ウラカン GT3』と多くの重要なコンポーネントを共有してはいますが、かと言って、このマシンは公道用レーシングカーではありません。

もちろんそれを開発製造したエンジニアたちは、プロドライバーがより速いラップを刻むために必要なトリックの数々に関して知り尽くしています。ですが多くの場合、そのようなトリックのもとで運転することは、どこかで運転すること自体の楽しみを損なわせてしまう傾向にあるのです。自分が運転している実感が直接的に伝わらなかったりなど…。はクルマが実際にどのような状況であるかを目立たなくするものでもあります。

多くの場合、これらのトリックは車があなたの下で何をしているのかをわかりにくくします(ここで楽しみのため、アンチ・アッカーマン・ステアリング・ジオメトリ(anti-ackermann steering geometry)を学んでおくのもいいかもしれません)。

「ディアブロVT」が差し示していた未来

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Heritage Images//Getty Images
1993 年モデルのランボルギーニ「ディアブロ」。

そして多くの人々が、1990年から2001年にかけて製造されていた「ディアブロ」こそ「最後の伝統的ランボルギーニである」と論じています。それはある意味で、完全に正しい認識であるかもしれません。それは同社がアウディに買収される以前に開発された最後のモデルであり、現代の基準からすれば限りなくアナログな1台となります。

とは言っても、「ディアブロVT」にはランボルギーニが将来において目指すべき道筋が明確に示されてもいました。それは際立ったデザインと世界最高峰のパワーを備えつつ、「どこまでも扱いやすいものとしてクルマを仕上げる」というものです。

今回、ランボルギーニが後輪駆動を大々的に取り入れたことで、「伝統が復活を遂げた」と多くの人の目には映ったかもしれません。ですが実際には、最先端の技術によって安全性の高い、超強力なリアドライブのクルマをつくることが可能になった…というのがこの場合、唯一の真実と言えるのではないでしょうか。

Source / Road & Track
Translation / Kazuki Kimura
この翻訳は抄訳です。