alfa romeo tonale
Motosuke Fujii

幾多ある自動車ブランドの中で名門中の名門を尋ねられて、「アルファ ロメオ」の名を挙げる人は車好きには間違いなく、自動車史そのものを知る通人であり、さらにはイタリア独特の審美性に慣れ親しんだ粋人ともされるでしょう。

それだけの格と重みが、なぜアルファ ロメオに備わっているのか? それは1910年創業という老舗ぶりもさることながら、フェラーリの創業者エンツォ・フェラーリ氏は元々イタリア・モデナのアルファ ロメオ・ディーラーであり、彼が興したレーシング・チームこと“スクーデリア・フェラーリ”はそもそも、アルファ ロメオ公式のレーシング・チームとしてブガッティやアウトウニオンらと競っていたのです。

さらにスポーツカー・メーカーの矜持として、アルファ ロメオは第二次世界大戦後、重厚長大なハイエンド・スポーツやプレステージ高級車をつくることより、身近で実用的なクーペやセダンにそのスポーツ性を注入することを選びました。財政的には決して常に恵まれていたメーカーではありませんが、独特のデザイン性と切れ味鋭い走りこそがアルファ ロメオの核になったのです。

alfa romeo tonale
Motosuke Fujii
【主要諸元】グレード:VELOCE、種別:HEV(ハイブリッド)、全長×全幅×全高:4530 × 1835 × 1600mm、ホイールベース:2635mm、車両重量:1630kg、荷室容量:500L、乗車定員:5名、エンジン:直列4気筒 DOHC ターボチャージャー、最高出力:[エンジン]117kw(160ps)/5750rpm、[モーター]15kw(20ps)/6000rpm、最大トルク:[エンジン]240Nm(24.5kgm)/1700rpm、[モーター]55Nm(5.6kgm)/2000rpm、駆動用バッテリー:リチウムイオン電池、トランスミッション:7速DCT、駆動方式:前輪駆動、タイヤサイズ:235/45R19(フロント)、235/40R20(リヤ)、価格:589万円 ※掲載グレードは「ヴェローチェ」のもの(試乗車は初期限定版の「スペチアーレ」でしたが、ほぼ同じ内外装仕様のカタログモデルは「ヴェローチェ」に引き継がれるため)

「トナーレ」をどう理解すべきか?

言ってみればフェラーリの先輩格にあたる超名門が放った、最新のコンパクトSUVにしてブランド初のマイルドハイブリッド(以下MHEV)、それが「トナーレ」というわけです。SUVとしてはより大きな車格の「ステルヴィオ」が2018年に投入されていますが、「トナーレ」には先行して片側3連のU字気味のライトという、今後のアルファ ロメオを象徴するフロントマスクが与えられています。これとて1990年代のスポーツカー「SZ」をネタ元とする、旧くて新しいディティールです。

ちなみに「ステルヴィオ」も「トナーレ」も、イタリアン・アルプスに実在する有名な峠の名から採られていて、アルファ ロメオの公道用市販モデルとして目指すべき世界観を明確に語っています。それはイタリア式かつ究極のドライビング・ハイです。

alfa romeo tonale
Motosuke Fujii
エンジンは1.5L直列4気筒直噴ターボエンジンで、最高出力は160ps、最大トルクは240Nm。電動モーターは20PS・55Nmの駆動力を持ち、この2つを組み合わせたマイルドハイブリッドシステムを採用。

今回試乗した「トナーレ」は「スペチアーレ」という初期限定版で、ほぼ同じ内外装仕様のカタログモデルは「ヴェローチェ」が受け継ぎます。また、装備をやや簡素化したエントリーグレードの「Ti」も用意されます。外寸は全長4530 × 1835 × 1600mmで、欧州ではミドルサイズに相当するCセグメントのSUVです。ちなみに同セグメントのハッチバックがフォルクスワーゲン「ゴルフ」やプジョー「308」なので、欧州車の中ではど真ん中のサイズ感と言えます。

随所に秘められたアルファ ロメオらしさ

まず外観デザインですが、余計な線がなくシンプルな面構成なのに、どこか彫刻的な筋肉を感じさせます。躍動感すらあるプロポーションは流石イタリア流。プレミアムはゴテゴテとアドオンや泥縄式でジャスティファイされるものではなく、入念に準備された匠の洗練度にかかっているという矜持すら感じさせれるのです。

内装に目を移せば、スピードメーターとレブカウンターの大型2連メーターというアルファ ロメオ伝統の計器配置です。真円のステアリングと少し出っ張った中央のステアリングボスという、円の立体的な重なりが幾何学的な美しさを伴い、スポーツ・ドライビングを予感させます。とは言え、メーター表示は液晶デジタルクラスター化されており、ダッシュボード中央の10.25インチのタッチスクリーンと併せて、コネクティッド環境で目的地情報などに容易にアクセスできる最新インターフェイスです。美観も機能性も申し分ありません。

alfa romeo tonale
Motosuke Fujii
円が織りなす造形が美しいステアリング。「ヴェローチェ」にはオールアルミ製のパドルシフトレバーが採用されています。スムーズなシフトチェンジで快適なドライビングが楽しめます。
alfa romeo tonale
Motosuke Fujii
12.3インチの大型デジタルクラスターメーターは、スピードメーターとレブカウンターで構成。アルファ ロメオ伝統の計器配置です。
alfa romeo tonale
Motosuke Fujii
タッチスクリーンのサイズは10.25インチ。

いまどきのニューモデルにしては操作系のデジタル化はほどほどで、3種類のドライブモードが切り替えられる「D.N.A(ダイナミック・ナチュラル・アドバンストエフィシェンシー)」ダイヤルコントローラーも健在。ジープとフィアットが共有するスモール・ワイド・プラットフォームを用いた高めの着座位置にもかかわらず、アルファ ロメオらしさは存分に感じられる、そんなインテリアの眺めやタッチが光ります。

ただし、今回の「スペチアーレ」には備わらない電子制御の減衰力可変式ショックアブソーバーが、「ヴェローチェ」には使われています。つまり「スペチアーレ」では、D.N.Aコントローラーを切り替えても足まわりの変化はないながら、パワートレインの制御やステアリング、ペダルの応力のみが変化します。

それでは走らせてみます

注目の走りですが、MHEVは割と速攻でエンジンが目覚めるタイプも少なくないながら、「トナーレ」は時速25~30km程度の速度域なら電気モーターが頑張るタイプ。1630kgというハイブリッドのSUVとしては軽めの車両重量で、モーター出力を大きくできる48Vシステムを採ったアドバンテージを活かしている印象です。

実際、トランスミッションに一体化される電気モーターのトルク&出力は55Nmと15Kw(20㎰)もあって、しかもCVTやトルクコンバーターといった滑らかさ重視の方式ではなく、ダイレクト感がウリの7速DCTが組み合わされます。いわばアルファ ロメオ特有の走りのパンチ力というか、パワートレインや駆動レスポンスの鋭さを狙った方式であることが、この成り立ちだけでわかるはずです。

alfa romeo tonale
Motosuke Fujii
アダプティブクルーズコントロールや360度カメラ、レーンセンタリングアシスト、前面衝突警報などをはじめとする最新の先進運転支援システムを標準装備しています。

加えてMHEVには、240Nm&160psという1.5リッターターボエンジンが組み合わされます。欧州ではデビュー済みで日本市場では、この先に控えるPHEV(プラグインハイブリッド)で4WDの「トナーレQ4」の130psより、エンジンの比重が高いパフォーマンスと予想できます。

アルファ ロメオならではの甘美な毒

というわけで、ダイナミックモードにして踏み込んでみたら案の定…。右足の動きに反応するトルクのつき方が、電気モーターに下支えされて素晴らしく敏感です。さらに踏み込めば伸びやかなパワー感が続き、回転の高まりにつれてエンジンが唄う様子はまさにアルファ ロメオ。ステアリングフィールも中立付近がビシッと締まって、切った分だけノーズがインを向く、そんな俊敏さと自在感が味わえます。車体のロールは抑えめながらも決して固過ぎる乗り心地ではなく、4輪の接地変化が刻々と手元やシートを通じて伝わり、車との一体感に心躍らされるのです。

そう、車が意のままに正確に、乗り手の望む通りに走ってくれるというシンプルな話ですが、そこに独特の高揚感を伴わずにいられないのがアルファ ロメオで、MHEVで電動モデル第1弾である「トナーレ」でもその約束は果たされています。あまつさえ、ラゲッジスペースも500リットルと特に巨大ではありませんが、相当な荷物が積めるだけの日常性も兼ね備えています。

alfa romeo tonale
Motosuke Fujii
スピーカーはオーディオの名門ブランドのハーマン・カードン製。
alfa romeo tonale
Motosuke Fujii
1.5L直列4気筒直噴ターボエンジンと電動モーターを組み合わせたマイルドハイブリッド。燃料消費率はWLTCモードで16.7km/L。同クラスの中でも優れた燃費性能を実現。

7速DCTが低速ギアのつなぎで少しぎこちない局面もありますが、解き放った時の切れ味というか、当意即妙を超えて茶目っ気つきで返してくるような動的質感や、運転席に落ち着いて普段から美しいものに囲まれる静かな歓びはデフォルトで備わります。いずれそんなリッチなやり取りに慣れてしまうと他の車ではもう満足できない、それこそがアルファ ロメオならではの甘美な毒。これを味わったことのない人生は、味わい済みの人にはもはや想像できないし戻れない、そんなビフォー・アフターすら刻み込まれる経験なのです。

alfa romeo tonale
Motosuke Fujii

Text / Kazuhiro Nanyo
Photo / Motosuke Fujii(Salute)
Edit / Ryutaro Hayashi(Hearst Digital Japan)