※急進的な立場の見解からすると、「人種」は生物学的実体を持たず、社会的構造物によって生まれたものにすぎないと言われています。また文化人類学においては、「人種」という概念の無効性が一般化されているのです。アフリカ系アメリカ人の表記については英語、日本語ともに多くの表記の仕方があり、「黒人」という単語の使用はさまざまな社会的、文化的コードがすでに含まれていますが、本記事においては便宜上、「黒人」で統一し使用します。


 ニューヨーク州ブルックリンを拠点に置く「エスクァイア」USの編集者ガブリエル・ブルーニーの取材に、いま注目の人気俳優ケンドリック・サンプソンが応えてくれました。

 2020年5月30日…あの土曜日、私(俳優ケンドリック・サンプソン)は数千人の人々と一緒にLAの公園にいました。

 私たちは今後も引き続き「ディファンド・ザ・ポリス(警察予算打ち切り)」のデモを行い、(就寝中に警察官によって射殺された)26歳黒人女性ブリオナ・テイラー、私と同じヒューストン出身のジョージ・フロイドグレチャリオ・マックレダル・ジョーンズワキーシャ・ウィルソンなど、多くの犠牲者の家族と連帯していくことを再び決意しました。

 また、フロリダ州で警官に射殺された黒人トランスジェンダーのトニー・マクデイドとともに、トランスジェンダーの黒人たちへの敬意を示したいという思いもありました。そのような、いたって平和に私たちは集まっていたのです。ここLAで、警官に背中から撃たれて殺されたケネス・ロス・ジュニアのお母さんからも連絡がありました…。

◇10代のころ、警察から受けた暴行体験

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Mike Windle//Getty Images

 学校を警察から取り戻そうという、ミネアポリスの学区や大学の決定を私たちは支持していました。私が通っていた学校も当時から警官だらけで、至る所に警官の姿がありました。そしていつも、黒や褐色の肌をした子どもたちへ目を光らせていたのです…。

 高校時代には目の前で警官の暴力を目撃し、私自身も体験しました。それこそ、それは学校の内でも外でも…。母のクルマに乗っているときにクルマ泥棒の疑いをかけられ、銃を突きつけられて、車外に引きずり出されたこともありました。

◇平和的デモで受けた暴行被害を告白

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Rich Fury//Getty Images

 土曜日(2020年5月30日)は、活動家アサタ・シャクール(Assata Shakurの呼びかける“It is our duty to fight for our freedom(私たちの自由のために戦うのは私たちの義務です)…”から始まるスローガンの詠唱で幕を閉じました。

 すると、みんなは口々に、「まだ家には帰らないだろ。どうせここを出て行っても、またここで始めるのだから…」と言って、行進を続けることにしたのです。それは素晴らしい光景でした。私のほうは、実は「家に帰ろうかな…」という感じでしたが、私のアシスタントやアシスタント・ディレクターの姿が見あたらないことに気づいたのです。

 彼らは、別のグループと行進をしていたのです。電話をかけてみると、通りのずっと離れた場所にいたので、そちらに向かって歩きはじめました。そのとき、道路を封鎖する警官隊がどこからともなく姿を現したのです。どこからやってきたのか、さっぱりわかりません。サイレンの音もまったく聞こえませんでした。警官隊は文字どおり、通りの真ん中にずらっと並んでいました。ひとつ私が言っておきたいのは、バスがどこにもいなかったことです。通常、大人数を逮捕することがあらかじめわかっているときは、警察はバスを待機させておくものですが、それが見あたらなかったのです。 

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 最初のうちは離れて動画を撮るだけの私でしたが、結局、そちらへと近づいていきました。なぜなら、警官がどんどん攻撃的になってきて、デモ参加者を警棒で殴り始めたからです。

 すると、警官のひとりが私のところへ来て、「あっちへ行け」と言いました。

 警棒を手にした警官隊がみんなのほうへ向かっているのが見えたので、私は動画を撮りながら、「なにをするんだ! あんたたちに暴力をふるっている者なんて、ひとりもいないじゃないか!」と叫んでいたと思います。

 すると誰かが、私の背中を警棒で殴ったのです。私が生まれて初めて殴られたのは、背中に浴びせられた警棒の一撃でした。

 そのとき、警官は手当たり次第に攻撃しようとしていました。まるで私たちが彼らの庭に無断で侵入したとでもいうように…。でも、現実はそうではありません。「私たちは税金を払っており、この通りを歩く権利もあるし抗議をする権利もある」のです。しかも、暴力的な抗議活動をしている者はひとりもいません。略奪行為だって行われていません。そんなことをしている者は、どこにもいないのです…どこにも。  

 私は、誰かがそのようなカタチの抗議活動を行う決断したとしても、それを非難するつもりはありません。「腹を立てたり、暴力に訴えたりするべきではない」と言うつもりもありません。

私たちは毎日、暴力を目の当たりにしています。それは警官の残虐行為に留まりません

 地域コミュニティから資産を搾り取るというカタチのものもあれば、私たちの抑圧に対する政府の関与を認めないというカタチのものも、私たちが必要としている援助を与えないで私たちを犯罪者扱いするというカタチなどと、日々さまざまな被害を受けているのです。

 これらも、立派な暴力と言えるのではないでしょうか…。 

 そういった暴力に暴力で対抗する人々がいるのは、当然のことと言えるでしょう。カリフォルニア大学の教授で活動家のアンジェラ・デイヴィスも言っているように、「それは覚悟すべき」ことだと思います。

 私たち黒人に日々暴力をふるっておきながら、暴力的な反応への覚悟がないなんて、そうは問屋がおろしません。しかしながら、あのときの…ここで述べている私たちの抗議活動は、「いたって平和的なもの」だったのです。それに対して警察は、極めて暴力的に取り締まるという、全く過剰としか言いようのない反応を示したわけです。

 彼ら警察はある種のメッセージを送るために、「最初からそうするつもりだったのだ」と、私は信じて疑いません。あれは彼らのメッセージだったのです。でなければ、デモ参加者をただちに逮捕していたはずですから…。

 「これは違法な集会だ」と言って、バスを用意していたはずです。

 ところが彼らは、私たちを制止し、包囲して、解散するよう口では言いながら、四方八方から襲いかかってきたのです。私たちにゴム弾を撃ち込んできて、私は全部で7発受けました。そして、数え切れないほど警棒で殴打されました。

ゴム弾を身体に受けると、一瞬で皮膚がはぎ取られてしまいます

 私のアシスタントは、大きく開いた傷口から骨が見えるくらいの怪我をすねに負いました。警官のひとりが、警察車両に寄りかかっていただけの女性を殴打したので、彼女は前かがみになって地面に崩れ落ちました。私が心配して彼女の看病をしていると、3人の警官が私を警棒で殴り、警官のひとりが私の足をゴム弾で撃ち、別のひとりが胸を撃ちました。 

 ゴム弾を身体に受けると、一瞬で皮膚がはぎ取られてしまいます。身体のどこに当たろうと、そうなってしまうのです。胸に当たったとき、私は息ができなくなりました。苦しいったらありゃしません。足に当たったときは、皮膚の2層目か3層目まで持っていかれて、足が燃えているようにズキズキしました。

 幸い私は、顔や頭には当たりませんでしたが、中には失明した人もいました。私の友人のディオンは頭にゴム弾を受けたため、頭がい骨を2カ所骨折し、頰(ほお)の皮膚がめくれてしまいました。こんな武器は、絶対に使うべきではありません。この致命傷を与えかねない武器を彼らは直接、人へ…私たちに向けていたのです。

 コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響下で私たちが安心を求め、中には住む家もない人がいるというのに、警察の予算はLAの一般会計の54パーセントを占めているのです

 家賃が払えないせいでホームレスになる人が、これからもっともっと増えてくるでしょう。なぜなら大恐慌以来、最悪の経済危機を生き延びるために景気を刺激するお金が必要なため、「家賃支払い免除」を拒否しているからです。

 だから私たちは、「警察の予算を削減せよ」と言いたいのです。「警察の予算を大幅に削減し、黒人のコミュニティを再生して人々を元気にするためのプログラムに、そのお金を回すべきだ」と。

◇警察に割かれる予算の問題点

 大都市のほとんどは、警察に巨額の予算を投入しています。そして、最も弱い立場の人々が標的になるように設計されたシステムにお金を注ぎ込みながら、最も弱い人々を「ケアするお金など無い」と言い張っているのです。

 市民へ分配すれば、予算をもっと上手に活用できるはずです。

 心を病んでいる人々を犯罪者にするのではなく、その病気を治療するためにお金を使うはずです。刑務所に入っている男性の55パーセントは精神疾患か、精神疾患に類する問題を抱えています。女性の場合は、それが73パーセントに増えていることを見ても、彼ら彼女らが何重もの抑圧の中に置かれていることは明白なのです。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
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 どうして、メンタルヘルスをケアする場所をつくらないのでしょう? いまのところ、アメリカ国内最大のメンタルヘルスをケアするインフラは刑務所です。

 どうして、もっとホームレスを支援する住宅や施設をつらないのでしょう? いまのところLAだけでも、警官に30億ドルの予算を使っており、十分な数の住宅も用意されていない状況下でも警官は、ホームレスの人々を刑務所に放り込んでいるのです。

 アメリカ国には薬物濫用という問題があるのだから、健康問題を犯罪にするかわりに、どうしてリハビリセンターや依存症施設をつくらないのでしょう? どうして適切な医療を行わないのでしょう? どうして十分な栄養や仕事が与えられないのでしょう…?

 私たち(黒人コミュニティを含む)市民の安全を保ってくれるのは、医療であり、仕事であり、教育であり、住宅です。これらのものが安全を守ってくれるのです。

 そしてもしも、道を外れた者に説明責任を果たさせるようなシステムを構築することができれば——つまり、修復的正義(restorative justice)です。

修復的正義(修復的司法)とは、犯罪や事件、暴力や人権侵害などの不正義に対応する仕方の一つで、できるだけ広範な関係者の参加と対話を通して、生じた損害や傷ついた関係を修復し、人々の回復と状況の是正をめざす考え方を意味します。

 人を刑務所に入れる代わりにコミュニティを支え、心と身体を癒すために応用できるモデルはたくさんあります。もし、「刑務所より優れたシステムなんて想像できない」と言う人がいるなら、その人には想像力というものがないのでしょう。

Source / Esquire US
Translation / Satoru Imada
※この翻訳は抄訳です。