現地時間2023年5月6日土曜日に催された、英国チャールズ三世国王の戴冠式。その中継を任されたのが公共放送のBBC1とBBC2、そして民間放送局のITVでした。しかしITVが肝心のシーンを視聴者から「台無しにした」と責められていることとが、「ミラー」紙の電子版など複数のメディアによって報道されています。

肝心のテロップが出ない

放送事故が起きたのはカンタベリー大司教が、王に冠を授けた後に行う「忠誠の誓い(pledge of allegiance)」の場面。

大司教が希望する人々に忠誠の宣誓を促し、斉唱することになるシーンで「宣誓の文言がこの後表示されますのでご覧ください」とアナウンスが。しかし、結果待てど暮らせどテロップは表れず、テレビの前で一緒に国王への忠誠を誓いを唱えるつもりで待っていた人たちは激怒。「戴冠式を台無しにしてくれてありがとう」という皮肉から、「チャンネルを変えろ」「ITVを観るな」など直接的な怒りのコメントまでクレームであふれ、SNS上でも炎上しました。

the bucket list uk film premiere
Dave Hogan//Getty Images
マシュー・ライト(Matthew Wright)

一方で、「これは意図的ではないか?」と見る動きも。というのも、「王室の広報」たるBBC1&2と異なり、民間放送局として第三の立場を維持しているITVは、この戴冠式のかなり前から批判的な立場の発言も放送していました。2023年4月にはテレビ司会者のマシュー・ライトがITVの番組内で、「チャールズは私の王ではない。支持しない」と発言。番組ホストが、それでも民衆が集まってお祝いムードになるのはいいことだとフォローするとさらに被せるように「自分が選んだわけでも票を投じたわけでもない彼を支えるために自分の税金が使われているなんて腹立たしいね」と発言し、(経済回復のために)ブレグジットに票を投じた国民が、「存在意義のないまま1000年も王室を維持するために税金を無駄にしている」と非難しました。 

恣意的? 「放送事故」はあらゆるところで勃発

戴冠式直前の5月3日水曜日には、英国を代表する朝のニュース番組『Good Morning Britain』でアンカーのスザンナ・リードが、わざわざ専門家に生活費の高騰で苦しくなる家計の危機的現状を報告させた後に、「キング・チャールズ3世とクイーン・カミラの戴冠式を祝うために、ウェストミンスター寺院から生放送の特別エピソードを『グッドモーニング・ブリテン』と一緒に観ませんか?」と紹介。チャールズ三世国王は、日本円で1000億を超える資産を所有する富豪であることは有名。そのため、これに対しても「わざとなのではないか?」と疑問視する人の声が。

それを裏づ付けるようにリードは、「著名な友人、家族、宮廷関係者、そしてコメンテーターが私たちに加わります」と紹介した当日の特別番組のゲスト、俳優のアジョワ・アンドーは、「あれだけ多様性に満ちていたウエストミンスター寺院から、一転してずいぶんとまあひどく白い(terribly white)バルコニーになりましたね」と指摘。招待客には多様性と言いながら、一族からはいまだに白人以外の人種を排除している(ように見える)王室の矛盾に対し、「今後若い世代が成長していく中で、彼らにどのような影を落としていくのか心配です」と続けました。

非常に冷静な批判的視点に基づいたコメントで、彼女を支持する声も多いものの炎上。「白人への人種差別だ!」といった直情的なつぶやきから、「白人一家なんだから当然じゃないか。日本の皇室だって"日本人"しかいないだろう」という、人種と国民を同一視した別番組のコメンテーターの問題発言まで引き出してしまう事態に…。

invictus uk film premiere outside arrivals
Ian Gavan//Getty Images
アジョワ・アンドー(Adjoa Andoh)。Netflixの人気シリーズ『ブリジャートン一家』では公爵夫人を演じる。

さらに現場からケイト・ギャラウェイがリポートしている最中に、マイクがカメラ外の声を拾ってしまう放送事故も発生。しかもその声の主が、「ビ〇チ」という禁断の単語を使ったことで「カミラのことを言っている?」といった憶測も飛び交っていました。

このように、さまざまな「放送事故」に見舞われた唯一の民間放送局による世紀の戴冠式中継。いずれにせよ王室礼賛一辺倒にならない報道の「多様性」により、一部報道では今や6割とも見積もられる「王室不支持派」の人々のガス抜きも果たしているように見えます。そんな英国メディアですが、見習うことは多いかもしれません。