映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』のコンピューター・グラフィックスを駆使してつくり出した大掛かりなアクションシーンや、HBOの大作ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の血しぶきの飛びちるシーンが満載のファイナルシーズンのことで、世間の話題は持ちきりです。

 そのため最近では、ポップカルチャー分野のそれ以外の話題について、誰かと話をする余地はほとんどありません。ただし、マーベル映画に登場するサノスや『ゲーム・オブ・スローンズ』に出てくるドラゴンの話にうんざりしている皆さんには、まったく別の世界にスポットライトを当てたNetflixの新しいドキュメンタリー・シリーズがあります。このシリーズで取り上げられているのは、「ストリート・グルメの世界」という私たち人間の領域の事柄です。 
 
 『ストリート・グルメを求めて』というこのシリーズを手がけたのは、Netflixで2018年に配信されて高い評価を集めたドキュメンタリー・シリーズ『Chef's Table』のプロデューサーである、デビッド・ゲルブ氏とブライアン・マックギン氏のふたり。そして番組の主役は、世界でもっとも活気に満ちた各都市にある街角や露天の市場で見つかる料理や伝統、そして(これがいちばん重要ですが)そうした料理の背景にいるつくり手の人たちです。 
 
 ストリート・グルメのつくり手たちは、高級グルメ料理をつくる人たちとは異なり、いつも注目を浴びているとは限りません。それでも、彼らのつくる料理のほうがずっと大切なと思っている人たちもいます。彼らにとっては、ミシュラン三つ星の評価を受けたシェフにも勝るとも劣らない存在であることでしょう。

Food, Street food, Cook, Cuisine, Dish, Cooking, Indian cuisine, Malaysian food, Chinese food,
Courtesy
大阪の回に登場する居酒屋のご主人TOYOさん。

 シーズン1で取り上げられているのは、アジア各地の大都市のストリート・グルメですが、これはプロデューサーたちが各地を旅して回った結果と、そしてNetflixが持つデータとを勘案して決めたことだそうです。

 ゲルブ氏がグルメメディア「Eater」に語っているように、同番組のプロデューサーらはNetflixの担当チームから、「『Chef's Table』の視聴者の多くがアジアのユーザーであった」ことを教えてもらったそうです。まさに、「みんなが欲しているものを彼らに与えよ」ですね。 
 
 アジアのストリート・グルメを取り上げるという判断は、期待以上の成果をあげているように見えます。彼らは単に「訊ねる」というやり方で、さまざまな人生の物語を見つけ出しています。

 そして、それらの物語は語られ、多くの人へと拡散されるものになります。例えば、ベトナムの回に登場するトゥルオクさんは、彼女の父親が編み出したカタツムリのレシピの力を借りて息子を大学へおくり出しました。また、大阪の居酒屋の主人であるTOYOさんはとても明るい性格の人物ですが、彼の場合は生き延びるためだけに料理を始めたそうです。 
 
 こうしたエピソードの中には、2018年に亡くなったアンソニー・ボーディンの精神がしっかりと息づいています。ゲルブ氏とマックギン氏はグルメメディア「Food & Wine」に対して、番組制作のインスピレーションの源としてボーディン氏を挙げています。この最新シリーズに欠けているのは、優れたシェフ兼テレビ番組司会者であったボーディン氏本人の存在だけです。

 そして、取り上げられた料理人たち(の物語)からは、全く何も省かれていません。彼らのずっと先延ばしにされていた人生のクローズアップを見ると、皆さんは笑ったり、泣いたりすることでしょう。そして同時に地元の屋台で料理をつくっている人たちのことを、それ以前よりずっと大切に思えるようになるでしょう。 
 
 シーズン1にはバンコク(タイ)、大阪(日本)、デリー(インド)、ジョグジャカルタ(インドネシア)、嘉義(台湾)、ソウル(韓国)、ホーチミン(ベトナム)、シンガポール、セブ島(フィリピン)といったアジア各地のストリート・グルメが登場しています。 
 
 『ストリート・グルメを求めて』は、Netflixで現在配信中です。 

 

 

From Esquire US 
Translation / Hayashi Sakawa 
※この翻訳は抄訳です。