パンデミック2年目にして私(筆者:ケリー・マクリーン)は、テレビを観るのが上手になりました。Huluにより製作・配信された『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』で拷問シーンがいつあるのかを知っていますし、Netflixにより製作・配信された『オザークへようこそ』では、次に誰が死ぬのかを推測するコツを知りました。

これらの番組は大好きですが、サスペンスシリーズや悲劇ものを繰り返して観ていると、「このドラマのシーンよりもパンデミックのほうがマシだ」と現実逃避しているような気分になり、ちょっと寂しい気持ちにもなってしまいます。

そんな中、友人が『愛の不時着(Crash Landing on You)』という韓国のドラマをすすめてくれたとき、新鮮かつ奇妙な感じがしました。「Crash Landing(クラッシュランディング=不時着と訳せれば、胴体着陸とも訳せるのですから…)」だけでも素晴らしいタイトルですが、そこに「on You(あなたに)」ですから…。このタイトルだけで、無限に広がる愛のカタチを物語っているのです(邦題で言えば…「不時着」だけでも素晴らしいタイトルですが、「愛の」という形容によって重要な意味を放ちます。ですが、英題のほうがかなり素敵に思えます!)。そんな期待と共に私は、ロサンゼルスのコリアタウンで暮らしていたころを懐かしみながら、夫のジェームズと再生ボタンを押していました。

Netflixのオリジナルシリーズでは、韓国の財閥令嬢で実業家のユン・セリ(演:ソン・イェジン)がパラグライダーで飛行中に竜巻に巻き込まれ、韓国と北朝鮮の軍事境界線にある非武装地帯に不時着するところから始まります。偶然、一帯を監視していたセクシーな北朝鮮の兵士に発見され、運良く彼の胸に胴体着陸するわけです。この作品の脚本には、北朝鮮からの亡命者が参加しているため、北朝鮮についての情報が異様に豊富なところも面白いところです(ありえないほどのロマンチックな偶然や、大胆なキャンプはさておき)。

そうして、Netflixの韓流ドラマの世界に飛び込んだ私ですが、これがBTSのプレイリストのように果てしなく、中毒性があることもわかりました。

私たちはいま、『It's Okay to Not Be Okay(サイコだけど大丈夫)』(英題と邦題が違いすぎて難ですが…)にハマっています。この作品をざっくりと説明すると、有名な反社会的児童文学作家が、自分が入院すべき施設で働く精神科看護師と恋に落ち、母親の幽霊に取り憑(つ)かれた屋敷に住むという展開。

このドラマは、ファッションだけでも見る価値がありますし、目に見えて明らかなプロダクトプレイスメント(広告商品を取り込み、より自然に生活者に訴求する手法)もあります。重要な会話をサンドウィッチチェーンのサブウェイでしたり、そのシーンには発作が起きるほどの緑と黄色のロゴが散りばめられています。そして年齢や経済的地位に関係なく、すべての登場人物が新車の「ボルボ」に乗っています。しかも、ボルボ対ボルボのチェイスシーンが何度もあります。

「ボルボの鍵を持つことは、最高の信頼の証です」と言っているかのようで、その点はとても露骨です。これも、グリニッチビレッジを舞台にしているからでしょうか? この地区は19世紀末期から20世紀半ばにかけては「芸術家の天国」や「ボヘミアニズムの首都」として知られていました。ここはビート・ジェネレーションやカウンターカルチャーの東海岸における中心地であったので、それにふさわしい皮肉なパフォーマンスアートのように演出したのかも…と、ちょっとひいき目の推測もできます(笑)。

エピソードの長さは、1話がディズニー映画1本分くらい。そして、大抵は16話くらいあります。1シーズンで16本の映画です。これはすごいことです。しかし、ハリウッド作品を見慣れた人々の中では、もう少し調整が必要だという意見もあるでしょう。

私たちがひたすら絶賛した後、友だちのダンにすすめると、『愛の不時着』の最初のエピソード観て、「もっと刺激がないと、1話を観きることはできない…」と言ったのです。確かにストーリーテリングはゆっくりと、徹底的に、そして禅的に行われます。クライマックスのシーンはさまざまな視点から再生されるので、同じ話を何度もしてくる酔っ払いのおばさんとの会話に閉じ込められているような気分になることもあります。ですが、そこで忍耐で凌(しの)ぐことができれば、最後には登場人物たちと共に過ごした長~い時間が心をさらに共鳴させ、登場人物それぞれに芽生えた愛情は絶頂へと達するでしょう。そうかと思ったら物語は、最終話へと向かい始めます。そうなると、それが近づくにつれ、まるでリアルな別れ話が自分に身に迫っているかのような寂しさに苛(さいな)まれていくのです。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
『愛の不時着』予告編 - Netflix
『愛の不時着』予告編 - Netflix thumnail
Watch onWatch on YouTube

(友人の)ダンが夢中になれなかったのには、もう1つ深い理由もありました。それは、ベッドシーンがないことです。ですが、このヌード不足を補うのが、韓国料理のフードポルノです。食事シーンを観ているだけでカルビチムが食べたくなり、食欲が性欲をマウントするのでした。確かに、20数時間に及ぶテレビドラマのロマンチックなクライマックスが、草原でのイチャイチャだったのには(少々)青ざめました。ですが、2020年までのテレビドラマで当たり前となりつつあった「セックス & バイオレンス」のオンパレードの後では、その無邪気さ自体が実に斬新に感じられたのです。

そんな韓国ドラマに夢中になっているのは、私たちだけではありません。パンデミック前から、すでに世界的に大ヒットしていた韓流ドラマはこの長いおうち時間の間に、爆発的に人気を博していったのです。K-POPや韓国の美容製品と並んで、もはやドラマも「韓流」というカテゴリーで地球全体を席巻しています。

『サイコだけど大丈夫』は、南米の国々、ロシア、カナダ、オーストラリア、そして私のリビングルームでも、Netflixで最も視聴された番組の10位に入っています(2021年8月末時点)。

韓流は北朝鮮にも上陸し、国民の南の隣人に対する見方、そして自分自身に対する見方を変えつつあるようです。北朝鮮では韓国ドラマを密輸するブラックマーケットが存在しており、これには金正恩(キム・ジョンウン)も目をつむってはいません。北部で韓国のメディアを観たり所有したりすると、5年から15年の労働キャンプ(労働を強いる強制収容所)に送られることになるのです。それでも人々は「続きを観たい」という気持ちから、その危険を理解しつつも観てしまうということです。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
サイコだけど大丈夫 | 公式予告編 | Netflix
サイコだけど大丈夫 | 公式予告編 | Netflix thumnail
Watch onWatch on YouTube

これらの韓国ドラマの魅力は、一体何なのでしょうか。

目を見張るようなファッションでしょうか? K-POPサウンドトラック? 韓国の海岸の映画のような景色? 頻繁に観ることのできるドラマティックな手首の掴み方? 正直なところ、私にはわかりません。そもそも私が韓流ドラマに惹かれたのは、自分のコンフォートゾーン(快適な空間=ありきたりの空間とも言えます)から抜け出したいと思ったからです。登場人物がなぜトマトの苗に向かって話しかけているのか? 韓国の職場ではそんなに怒鳴られることがあるのか? といったことを考えるのが、とても好きなのです。そして、さまざまなことを疑問に思うことが好きだからでしょう。

昨日は、『サイコだけど大丈夫』の主人公たちがついにキスをするシーンを観ました。驚いたことに夫は息を呑み、両手で口を覆って呆然としていました。殺人シーンにもセックスシーンにも平然としている巨漢の夫が、スクリーン上のキスに少年少女のように息を呑んだのです。

私たちはその瞬間、遠く離れた、スパイシーなヌードルにあふれる、1回のキスが最も重要な意味を持つ国にいるような気分になれるのです。そこがサブウェイであっても…。

そして今日もソファから、下着姿でスーパーで買った「라면(ラミョン=辛ラーメン)」をすすりながら、私たちは再びその世界へ旅ちます。その世界は、あなたのすぐそばにあります。

Soure / ESQUIRE US
※この翻訳は抄訳です。

esquire japan instagram

Esquire Japan Instagram