映画『バットマン ビギンズ』(2005年公開)は、かなり野心的なプロジェクトでした。その理由はクリストファー・ノーラン監督が、それまで不死身の主人公が活躍する映画として知られていた「バットマン」シリーズに、生真面目さを持ち込もうとしたことだけではありません。 
 
 その後、『ダンケルク』などの作品も手掛けたノーラン氏は、『バットマン ビギンズ』の製作にあたって、何もないところから配役を考えなくてはなりませんでした。そして彼は実際に、この挑戦をとても真剣に受け止めたわけです。

 クリスチャン・ベール演じる主人公がなかなかバットマンに変身しないのは、実はそれが理由でした…。もちろん映画製作会社の幹部らは、そんな筋書きを面白くは思いませんでした。当然ながら資金を出している彼らは、「もっとバットマンの登場シーンを増やしてほしい」と思ったわけです。しかしながらノーラン氏は、「映画の中盤までバットマンを登場させない」という自分の決断についての、非の打ち所のない理由を用意していたのです。

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Getty Images

 2019年3月30日に、ハリウッドの映画館ユニバーサルシネマAMCで『ダークナイト』3部作の連続上映会が行われました。ゲスト出演したノーラン氏は、彼が他のアクション映画とくにリチャード・ドナーが監督した1978年の『スーパーマン』を分析した結果、「ヒーローがコスチュームを身にまとう、一般的なタイミングがわかった」と明かしていました。 
 
 これはつまり、映画会社側が不満を口にしたときにどう対応するかについて、ノーラン氏が予め答えを用意し、それを対応策として正確に実行したということになります。

 「『クリストファー・リーブズがスーパーマンに変身したのは、映画が始まってから53分後のことだった』と私は言うことができた…」とノーラン氏は語っています。 
 
 『ハリウッド・レポーター』誌によると、聴衆はノーラン氏のこの周到さに感心したものの、その後に彼が「ところでいまの53分というデータは、本当のことではありません。実際には、もう少し前に変身していたわけですが…」と、打ち明けたことでシラケてしまったそうです…。 
 
 また、ノーラン氏は、この映画のために俳優キリアン・マーフィーをオーディションしたときのことも話していました。マーフィーはバットマン役には選ばれず、結局、悪役のスケアクロウ役で登場していました。 
 
 「(バットマン役の)クリスチャン・ベールは、実は私が最初にオーディションした俳優でした。それで私は、そこからかなり強力な感触を得ていた」と、ノーラン氏は語っています。

 「キリアン・マーフィーのことは、ダニー・ボイル監督の『28日後…』で演技を見たことがあった。彼は『バットマン ビギンズ』のスクリーンテストを受け、実際にとても素晴らしい演技をした。それで私たちは、彼をスケアクロウ役で起用することにしたのです」と、ノーラン氏は当時を振り返りました。 
 
 「バットマン」に関するトリビアは、それだけではありませんでした。

 『ダークナイト』の中で、バットマンがバットモービルをジョーカーのゴミ収集トラックにぶつけるシーンがあります。このシーンに関して彼は、「実はミニチュアのバットモービルを使っていた」とも明かしたのです。それは、「あれがミニチュアだったことには、誰も気づかなかったと思う」と自信を持ってのコメントでした…。 
 
 『バットマン ビギンズ』は、以前の「バットマン」作品とは違うダークな大人向けの作品となっていますが、確かにバットマンの姿はあまり見受けられないものでした。きっとノーラン氏は、3部作の最初の作品ではヒーローとしてのバットマンより、変身するブルース・ウェインの人物像に焦点を当てたかったからでしょう。 
 
 今でも大人気を誇る、「ダークナイト」シリーズ3部作。彼のつくり上げた作品の世界観とバットマンの男らしさは、今後、永遠に語り継がれることでしょう。

 
 
From Esquire UK 
Translation / Hayashi Sakawa 
※この翻訳は抄訳です。

preview for 10 Years Later, 'The Dark Knight' Leaves A Complicated Legacy