アカデミー賞の作品賞、主演男優賞、音響編集賞にノミネートされているAmazonオリジナルの最新作『サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜』で、リズ・アーメッドが演じているのは仕事熱心なドラマーです。

 彼はツアー中に突然聴覚が不自由となり、新しい自分に適応する方法を学ぶために聾啞(ろうあ)者のコミュニティに加わります。

 最初のステップは部屋の中にひとり座って、自分の考えをつづっていくことでした。ですが、実はそれが最も難しいことだったのです。「これは一種の苦行だよ」と、仕事熱心なアーティストであるリズですら弱音を見せるところがあります。

 「ちょっと(新型コロナウイルス感染症の影響による)ロックダウンに似ているところがあるから、みんなにも共感してもらえるんじゃないかと思う。過去数カ月間というもの、多くの人が室内にこもることを強いられたわけだけど、いろいろな活動をする生活に慣れていた人たちにとって、それはすごく難しいことだったんだ」。

 私たちインタビュアーがリズと顔を合わせたのは、ハリウッドにあるジェームズ・ホテルです。彼は、映画『Invasion』の撮影でハリウッドに来ていたのです。

 この映画はロリー・コクレーンとオクタヴィア・スペンサーが主演の作品で、父親がふたりの息子を連れてエイリアンから逃れるというSFものです。そして、少なくとも彼にとってのロックダウン期間は終了していたので、映画はまた撮影が始まり、表面上は通常の状態に戻っていました。

 パンデミックが始まったばかりの頃のリズはというと、多くの人々と同じように自宅から外に出ることができず、「これが何を意味することなのか?」と深く考えたそうです。新型コロナウイルス感染症が白日の下にさらした、社会や人種的正義といった諸問題に関して。さらには彼自身が痛感した、「人は常に生産的であらねばならない」という性に近いことに関してを。

 「それが自尊心を持つことにつながるんだ。なぜなら、それこそがこのガタのきた資本主義というシステムから、われわれが教えこまれてきたことだからね」と。こういったことについて、リズは数字を示しながら長々と事細かに語ることができる人物です。そういう問題に対する熱意と関心を、彼は胸に抱いているのです。しかし彼は、決して悲観的ではありません。

 世界はバラバラになりかけているかもしれませんが、リズというアーティストにとっては、事態はいい方向へ動いているようです。「この混沌とした事態が、ある意味では自分が優先すべきことを明確にしてくれたんだ」と彼は言います。

 「現在の自分が置かれているクリエイティブな状況を、すごくポジティブにとらえているよ。以前よりもはるかに個人的な立ち位置で仕事ができていて、自分の本当の声や言葉が見つかったという気がするよ。いまは他人が望んでいることではなくて、自分が望んでいることをやっているんだ」と言います。

英国俳優,リズアーメッド,riz ahmed,映画,サウンド・オブ・メタル,amazon,sound of metal,
TAYLOR RAINBOLT

◇リズ・アーメッドの経歴とバックグラウンド

 1982年12月1日、ロンドン郊外ウェンブリーにてパキスタン移民の家庭に生まれます。オックスフォード大学を卒業。現在(2021年)38歳の彼の経歴を見ると、同世代のどんな俳優と比べてもひけをとらないほど多彩で充実した内容になっています。

 インデペンデント系の映画(『Four Lions』『グアンタナモ、僕達が見た真実』『ナイトクローラー』)、メジャー・スタジオの作品(『ジェイソン・ボーン』『ヴェノム』『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』)、エミー賞を受賞したテレビドラマ(『ザ・ナイト・オブ』)、さらにラッパーとしてのキャリアもありますが、そのことに関してはあまり知られていないものの、彼はその活動にもやりがいを感じていいるとのことです。

 「ぼくの音楽は商業的なものではないけれど、人々にどのように受け入れられ、どれほど深くつながっているかはちゃんと理解しています。これに対する評価は、『成功』をどのように定義するかによって変わると思います」と言います。

 この大忙しの時期に彼は3つのプロジェクト、映画2本とアルバム1枚に参加しています。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Sound of Metal – Official Trailer | Prime Video
Sound of Metal – Official Trailer | Prime Video thumnail
Watch onWatch on YouTube

Amazon primeで観る

 『サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜』は小規模の、当然のことながら静かな作品で、ドラムと手話を学ぶのに7カ月を要したそうです。

 「1本の映画の準備を、これほどがんばってやったのは初めてだったよ」。しかしその甲斐もあって、彼はこの映画でゴールデン・グローブ賞とアカデミー賞にノミネートされました。

 続く2020年に出演した『Mogul Mowgli』は、エネルギーと対立の中に刺激がある、『サウンド・オブ・メタル』よりもにぎやかで個人的な作品でした。彼はこの映画が初監督作となるバッサム・タリクと共に。脚本の執筆も手掛けています。演じているのは病(やまい)におかされたミュージシャンで、自己免疫疾患に苦しむゼッドというラッパーです。

 ゼッドとリズを切り離して語るのは容易ではありません。リズと同じく、ゼッドもパキスタン系イギリス人のラッパーで(劇中に流れる彼の音楽は、リズの最新アルバム『The Long Goodbye』からの引用となります)、アイデンティティや家系やアートや、「自分が本当は何者なのか?を発見したい」という移民ならでは思いなど、さまざまな問題で頭がいっぱいになっています。

 そして、ゼッドと同じようにリズのほうも、近年は健康問題で苦しんでいたそうです。具体的には教えてくれませんでしたが、そのせいで朝目覚めてしまうくらい深刻だったようです。

 「自分だけの、小さなコロナを抱えているようなものだよ。おかげで本当に大事なことは何かを考えたり、自分の死という問題に向き合わざるを得なかったんだ」。

 その結果、彼の仕事に大きな変化が生まれました。

 「より個人的な立ち位置にシフトしたんだ。仮面をかぶるのではなくて––ずっとそうしてきたんだ、ぼくはカメレオンだから––仮面の下にいる自分は誰なのか問いかけてみてはどうだろうってね。そのほうが、自分を叩いたり伸ばしたりしていろいろな仮面に押し込むよりも、文化の豊かさにつながるかもしれないってね」と言います。

英国俳優,リズアーメッド,riz ahmed,映画,サウンド・オブ・メタル,amazon,sound of metal,
TAYLOR RAINBOLT

自身の中にも印パ分離独立の残滓(ざんし)がある可能性

 ゼッドを自己免疫疾患という設定にしたことに関して、「それが細胞レベルで起きるアイデンティティ・クライシス(自己喪失)だからだよ。自分の身体が自分を認識できなくて、自分自身を攻撃してしまうんだ」と、リズは説明します。

 リズ自身も、長い間アイデンティティに関心を抱き続けてきました。ですが、今回は細胞生物学的なアイデンティティ、それもエピジェネティクス(トラウマが世代を超えて受け継がれるという考え方)によるもので、彼自身の中にも1947年のインド・パキスタン分離独立の残滓(ざんし)がある可能性をうかがえるのです。

 このとき、「人類史上最大の強制移住が実施されて、その中で数百万もの人々が殺害されたんだ。これが人間にどんな心理的影響を与えると思う?」。彼の「Once Kings」という曲の中に、次のようなフレーズが出てきます。

やつらがおれを仕留めたことは、おれのDNAが知っている。おれは1本の糸さ、おれの下から抜き取られたマットのね

 しかし、それが真実かどうかは彼にも確証がないようです。まだ、ancestry.com23andme(どちらも自分のルーツ探しができるサービス)で、自分のDNAを調査してはいないようなので。

 「それをやるべきときが来たんだ、って思うよ。移住は自分の来歴のタイムラインを断ち切ってしまうし、国としても個人としても、ぼくらはそのタイムラインをもう少し伸ばす努力をしなきゃいけないって思ってるんだ」。

 リズのこれまでの人生は、印パ分離独立のようなトラウマにとらわれるような環境ではありませんでした。むしろ、才能とチャンスと幸運に恵まれたものだったのです。

 リズ・アーメッド…自称「ウェンブリーのラグビー少年」で、奨学金を得てパブリックスクールで学び、ノースウッドのマーチャント・テイラー・スクールからオックスフォード大学に進学。そこでPPE(政治学、哲学、経済学を組み合わせた学位)を取得しています。

 このような裕福な上流階級の社会––彼がそこに居心地よさを感じたことはめったになかったようです––に適応するためには、“コードスイッチング(=異なる言語体系を使い分けること)”を多用することが必要だったわけですが、それが一種の下準備になっていたのです。

 「ぼくはかなり早い時期から、演技をやっていたようなものさ」と語る彼は、後にウインザー城に女王を訪ねたときや、イギリス議会上院の委員会で多様性に関するスピーチを行ったときにも、似たような場違い感を味わったと言います。

 「だけど人生においては、新しい境地に切り込んでいきたいってときには通常、自然と居心地悪さを感じるようなところに身を置くことになるんだよ。人生の大きな部分を占めているのは、そのような不快感と付き合っていくことなんだ。もしもぼくが快適ゾーンから外れたところにいるとすれば、それは自分が正しい場所にいるということになるわけさ」。

 リズが演技を始めたのはほんの偶然からで、大学の友人にすすめられるまでは全く興味がなかったそうのです。オックスフィード大学を卒業したあとにドラマスクールに行くことは、奨学金を得てすらお金がかかるすぎることが確認できたので断念したそうです。その代わりにロースクールへ願書を出すことに決め、彼の両親も喜んでいたわけですが、ウェストエンドの太っ腹なプロデューサーが彼の前に現れて、必要なお金の不足分を出してくれたというのです。

 そうしてドラマスクールを卒業すると、すぐにマイケル・ウインターボトム監督の『グアンタナモ、僕達が見た真実』で主役の座につきます。リズも認めているように、まさに幸運につぐ幸運で、彼はそのお返しをするべく新人アーティストの支援を行っています。 

◇イギリス系アジア人の重圧と責任

 リズのキャリアで見逃せないのは、いくつかの重要な文化的変化と軌を一にしていることでしょう。

 例えばイスラム教徒たちに対する、世間一般の考え方です。9・11以降、イスラム教徒に対する警戒心が高まると、リズに対する注目度も同様に高まっていきました。彼自身も「ガーディアン」紙に寄稿したエッセイなどで、「テロリストの役にぴったりだった」とコメントしているように、これは実に皮肉なことでした。爆発物を捜索中の空港警備員と一緒に自撮りしたことのある俳優なんて、そう多くはいないでしょう。

 また彼は、アジア系俳優全般に対する見方が変わっていく中で、自分が果たす役割の重要さを痛いほど感じていたそうです。

英国俳優,リズアーメッド,riz ahmed,映画,サウンド・オブ・メタル,amazon,sound of metal,
TAYLOR RAINBOLT

弱い立場にいる人に
関連するものごとは、
弱い立場にいるあなたにも
関連するということ

 リズは以前、ハリウッドの大手エージェンシーであるCAAに、「業界における移民の活動は、3つのステージに分かれる」と話したことがありました。

 ステージ1がステレオタイプを演じることで、ステージ2がステレオタイプと一緒に演じること、そしてステージ3で、ようやくステレオタイプから解放されるというわけです。リズはステージ1を大幅に省略していて、例えばクリス・モリス監督の風刺の効いたきいた『Four Lions』のような、ひねりのある作品に出演して注目を集めました。

 最初彼は、クリス・モリスのことはまったく聞いたことがなく、役を引き受けるように説得されても、「この映画はイスラム教徒をからっているのではないか?」と半信半疑だったそうです。しかしモリスは、『Four Lions』はその正反対であることを主張。「褐色の肌のジェームズ・ボンドになるためのステップだ」と言って彼を説得したそうです。

 もちろん、現在の彼はステージ3(ステレオタイプからの解放)で確固とした立場を築いており、『ナイトクローラー』や『サウンド・オブ・メタル』のように全くアジア系ではない役や、アジア系とかイスラム系といったレッテルを超越した役を演じることができます。なぜなら、彼が演じるのは極めて個人的な特定の役だからです。

 「アートが個人的なものになればなるほど普遍性を持つ」というのは一種のパラドックスであり、ゆるぎない真実と言えるわけですが、そこがまさにリズの居場所だったのです。「弱い立場にいる人に関連のあるものは、弱い立場にいるあなたにも関連するということだよ」というわけです。

 その好例がアルバム『The Long Goodbye』で、彼はここで“ブリトニー”という名で擬人化したイギリスとの破局を描いています。

 「ある日帰宅したら、家の鍵が取り換えられていて、『荷物をまとめて出ていけ!』って言われたときの気持ちが、どんなものかわかるだろ。ウインドラッシュ世代(1948年から1971年の間に、カリブ海の国々からイギリスへやってきた人々)が経験していることが、まさにそれなんだよ」ということ。

 時折腹を立てつつも、それ以外のときは傷つきやすく、ときにショッキングな一面も見せる、そんな作品です。リズがある曲のためにつくった短編映画は、なかなか観る機会がありません。ですがそれは、彼が実際に見たイギリスで一斉検挙されたイスラム教徒たちに関する悪夢を映画にしたものになります。

 彼とイギリスとの関係は、リズにしてみればいいように利用されているようなものかもしれません。

 「まるでヨーヨーのように、『好きだ』と言ってすり寄ってきたかと思えば、『嫌いだ』と言って離れていくといったことが、イギリスと元植民地の住民との間で続いているんだ。植民地からぼくらを追い出しておいて、第二次大戦後には戻ってきて『再建を手伝え』とか言ったりね。このコロナ禍、EU離脱でも同じようなことが起きてるよ––“イギリスをよりイギリスらしく”という台詞を口にしたのと同じ政治家が、今度はいろいろな人種のエッセンシャル・ワーカーを称賛したりしてね」と、リズは言います。 

◇EU離脱 ― リズ・アーメッドのイギリス愛とは?

 もちろんEU離脱に際して、愛国的な動きが高まるのを目撃したときには、失恋のような悲しさを味わうこともあったそうです。長年この国で過ごしてきたのに、仲間外れにされたような気分だったということ。

 「イギリスはぼくの故郷なんだ。だから、オンラインで不満が高まっていくのを見たり、また、自分たちの政府からそんな言葉が出てきたりすると、傷ついたり、異なった段階の悲しみを感じたりするよ。否認、怒り、取引(精神科医のエリザベス・キューブラー=ロスが提唱した、否認、怒り、取引、抑うつ、受容という、悲しみを受け入れるまでの5段階)ってやつさ」と語るリズ。

英国俳優,リズアーメッド,riz ahmed,映画,サウンド・オブ・メタル,amazon,sound of metal,
TAYLOR RAINBOLT

Q:しかし、そもそも失恋というのは、愛情に根差したものです。彼のイギリス愛とはどんなものなのでしょうか?

 「ぼくは故郷を愛しているし、ぼくの故郷はイギリスなんだ。イギリスという国については、ぼくらがその気になれば広くもなるし、狭くもなると思うよ。ぼくらのような者がいなかった頃へのある種ノスタルジアにすることも可能だしね。現在のイギリスを形成した、現実を反映したものにすることだって可能だね。それは、世界の広い範囲に及んでいるとも言えるね––これはナショナリストというよりは、グローバリストのポジションに近いものさ。なぜなら大英帝国では決して、陽は沈まないんだからね。ぼくはゴリゴリの愛国者というわけではないし、ぼくらが直面している諸問題、例えば気候変動とかテクノロジーとか、あるいは税金回避なんかのことを考えると、こういう国家観は時代遅れだという気もするね。だからぼくが、『イギリスを愛している』と言うときは、イギリスをイギリスらしいものにしているすべてを愛しているという意味なんだ」、とリズ。

Q:とは言え、破局は双方に責任があるわけですが、この場合、リズのようなイギリス系アジア人には、どのような責任があると思いますか?

 すると彼は、少し考えてから答えました。

 「それはなかなかいい質問でもあるね。利用する・されるという関係では、その関係をつくり出した共同責任を負わなければならないからね。おそらく、それまでの世代に例えて言えば、『ケーキをいっしょに焼いたんだから、本当ならみんなで分けてしかるべきなのに、その切れ端をもらってありがたがっている』といった、誤った感覚でもあったんだ」とリズ。

 さらに続けて「でも、それはいまだから言えることだよ。前の世代の人々が、じっと耐え忍んでいたのも無理はないよね。だってもし、『それはおれのケーキだぞ』なんてことを言おうものなら、殺されかねないからね。だから、いまから考えてみると、『ちょっと待て、やっぱりこれはまずいぞ』という認識は、徐々に生まれてきたものなんだろうなって思うよ」。

 しかし詰まるところ、リズは楽観主義者と言っていいのかもしれません。彼にはイギリスに対する優しさがあり、彼が記憶している穏やかで寛大な国へのノスタルジーが感じられるのです。

 「ぼくが思うに、失われたのは––そして取り戻さなければならないのは––常識だね。人は怖くなると背中をピタッと壁にくっつけたくなるように、仲間意識が強くなるものさ。でも、ぼくらならそれを克服できるかな。単にそれは、達成時期をどの辺に定めるかという問題に過ぎないって思うんだ。状況が好転する前に、厳しさが増す可能性はあるけれど。でも、『必ず良くなる!』って信じ続けていなければならないって考えているよ!」。

自己愛と独立心の感覚

英国俳優,リズアーメッド,riz ahmed,映画,サウンド・オブ・メタル,amazon,sound of metal,
TAYLOR RAINBOLT

 『The Long Goodbye』の最後にリズは、自己愛と独立心の感覚を表現しています。

 「言ってみればこれは、自分がどれだけイギリス人で、未来のイギリスはどのような姿であるべきかについて、会話を交わすようなものだって思うんだ。だけど、それはきみ自身の問題だ––ぼくは自分のことをやっているだけさ。きみの承認を受ける必要はないんだ」。

 リズがここで語っている「自分のこと」とは、何を意味しているのでしょう?

 彼はすでに多くのことをやってきたし、もちろん将来性も大いにあります。とりわけ、アジア系の俳優がこれまで以上の自由と機会を獲得したあかつきには、クリス・モリスが言った“褐色の肌のジェームズ・ボンド”だって、もはや夢物語ではないのですから。

 「それは誰にもわからないね。より多くのことが可能になる世界を、ぼくらが目指しているのは確かだけど」。

 しかしリズは、自分のやりたいことについては明確なビジョンを持っており、すでにそれを行っています。『Mogul Mowgli』の最後で、リズの演じるゼッドは歩くことができなくなってしまうのですが、言わばそれは、パンデミック下で私たちが体験したことの再現であって、リズはそれを「ぼくらはみんな互いにリンクしているんだよ」という言葉で表現しました。いまのところ彼は、自分のキャリアや仕事や人生について、そのように考えているのです。

 「あるとき、ふっと思ったんだ––ぼくはもうすぐ40代になる。「功成り名遂げる(こうなりなとげる)ってどういうことなんだろう? 他人を置き去りにすることになっても、自己中心的に、野心的にやっていくことだろうか? それとも、自分が引き継いだ贈り物と負の遺産を、もう少しいい形にして次へ受け渡すということだろうか? 人はキャリアをスタートさせるときに、“ぼくはこんなことや、あんなことをやってやるぞ”といった将来図を描くものだ。でもいま、ぼくが考えているのは、みんなでどういう方向へ進めるだろうということなんだ。どうすればボールをもっと遠くへ飛ばせるだろう? そうすればほかの連中もボールを遠くへ飛ばすことができて、互いにもっと先に進めるはずだってね」。

 彼はよく、こういうことや自分の目的や使命について考えています。彼はさまざまな種類の成功を手にしてきました。商業的な成功も批評的な成功も、静かだけど熱い、ファンからの反応もありました。そしていま彼は、自分が何をいちばん強く望んでいるのか、はっきりわかっているようです。

 「創造性というのは、集団で交わす会話だ。大事なのはコラボレーションであり、シェアするということ。資本主義者の神話というのがあるよね、アイン・ランド(ロシア出身のアメリカの小説家、思想家)の下に降りてくる者のイメージ––それはスティーブ・ジョブズであったり、あるいはモーセであったりするわけだけれど、彼らは福音を携えて降りてくる。でもぼくにしてみれば、大事なのは会話だよ。ぼくらはみんな、ぼくらより前にいた人たちの肩の上に乗っているのだから」。

Source / Esquire UK
Translation / Satoru Imada
※この翻訳は抄訳です。