2017年に『ペーパー・ハウス』の放送が始まって以来(スペインの放送局「Antena 3」からパート1と2が放送され、その後Netflixが独自に再編集し全世界へ配信)、俳優アルバロ・モルテは、てんてこまいの日々をおくってきました。

 これは歴史に残る作品であり、とりわけスペインで制作されたドラマとして初めて国際エミー賞を受賞したことは特筆に値します。さらにモルテが演じた“教授”という役は、私たち視聴者の記憶に強く焼きつけられるようなキャラクターだったので、彼をほかのプロジェクトで起用したい人たちがいても、その点について考えないわけにはいかないはず。

 しかし、そのときはやってきました。『ペーパー・ハウス』最終シーズンの撮影が始まったのです。

 新型コロナウイルス感染症などの影響でスケジュールが遅れに遅れ、2021年、春の公開には間に合わないかもしれません。しかし、そのような状況にもかかわらず、アルバロ・モルテは『エスクァイア』スペイン版との約束を守って、インタビューに応じてくれました。

 まだ撮影中のため、最終シーズンの話を聞くことはできません。俳優たち自身に脚本が渡されるにあたっては、Netflixのスタッフも一緒について来るのが常です。というわけで、私たちはこの際、セルジオ・マルキナ(『ペーパー・ハウス』の“教授”の役名)を演じているこの俳優について、もっと深堀りして、彼の知られざる一面に迫ることにしました。

 そのため、アリシア・シエラ(『ペーパー・ハウス』の登場人物)ばりに悪知恵を働かせて、二人の親しい友人から情報を得てきました。

preview for Álvaro Morte: la vida después del profesor

 映画監督のパウラ・オルティス(『De tu ventana a la mía(あなたの窓から私の窓へ)』『La novia(花嫁)』)は、次回作の撮影を行っているベネチアに滞在中でした。彼女は、モルテと同じ時期に下積みを経験して以来の友人で、私たちにこんなことを教えてくれました。

 「アルバロは素晴らしい作品をつくるために、いつも真剣に、誠実に、そして熱意をもって取り組んできたんです。私たちは昔からずっと、物語こそが世界を動かし、救済し、癒し、後押しするものだという信念を共有してきました。そして、これまでにいろいろなことを経験してきましたが、私たちの原動力になっているものは今も全く変わっていないんです」。

 もうひとりの友人で、モルテとは二十歳のころから付き合いがある作曲家のホセ・ビリャロボスによると、モルテは彼が演じるキャラクターと同じくらい完璧主義者で几帳面なところがあると同時に、とても繊細で、クリエイティブで、音楽を愛し、料理とDIYが趣味とのことで、「彼は温かい心とイギリス流ユーモアの持ち主だよ」と打ち明けてくれました。では、そろそろアルバロ・モルテへのインタビューを始めることにしましょう。

◇俳優アルバロ・モルテ(Álvaro Morte)独占インタビュー

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エスクァイア編集部(以下、編集部):ここのところあなたが演じているのは、とても真面目な役ですね。以前語っていた、コメディの才能はいつごろ発揮される予定でしょうか?

アルバロ・モルテ(以下、モンテ):うん(笑)。確かに私はコメディが大好きだね。「300ピストラス(=妻でスタイリストのブランカ・クレメンテと共同で設立したシアター・カンパニーで、“300丁のピストル”という意味」でこれまでに制作した4作のうちの3作は、コメディでした。

 コメディの可能性を追求したいと思っているし、信じてもらえないかもしれないけど、これでも私はなかなかのコメディアンなんです。

 『ペーパー・ハウス』の教授や『THE HEAD』(2020年6月にスペインを始めとする、30以上の国や地域で放送、配信されているテレビシリーズで、日本でも山下智久さんがメインキャストの一人として出演して話題に)のラモンといった役で、もっぱらシリアス・ドラマのイメージが強くなっているのはよくわかっていますが、『モンティ・パイソン』なんかも大好きだから、あんなバカバカしいコメディもぜひやってみたいね。

 あるいは、『裸の銃を持つ男』のような典型的なおバカ映画もね。ロマンティック・コメディも悪くないけれど、私が心底楽しめるのは、徹底的にくだらないやつだと思うんです。

編集部:でも、あなたの友人たちは、あなたが自分の仕事を真剣に受け止めていると話しています。この仕事を始めたころのモチベーションを、今でも保ち続けていますか?

モンテ:そうですね、人は進歩していくもので、ときにはいろいろな心配事に心を奪われることもあるけれど、真剣に取り組んでいるのは間違いないです。

 演技や物語の世界に出合って以来、私はずっとそれに情熱に傾けてきたし、だからこそ、それをとても真剣に受け止めているんです。

 でもそれは、くだらないことはやらないという“意味ではない”んです。なぜなら、私らがこの仕事をやっているのは、楽しむためでもあると思っているからね。私は俳優を始めたときからずっと、長い時間をかけて役に向き合っています。もしかしたら、そんなに真剣になる必要はなかったのかもしれないけど。

誰が何と言おうと、俳優こそ終生やっていきたいことだ

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編集部:プロの世界に引き込んだ役というのは、いったい何だったのですか?

モンテ:それはいまでもはっきり覚えています。なぜなら、それが私にとって最初の役だったからです。

 コルドバの演劇学校に入って、先生からホセ・ソリーリャの『ドン・ファン・テノーリオ』で小さな役をもらったんです。彫刻家の役です。名前もない役でね。最初にモノローグがあって、それからドン・ファンとのシーンになるんですが、その芝居は野外で行われることになっていたんですけど、雨が降ってきたため土壇場になって、場所の変更を余儀なくされたんです。

 私がステージに立つのはそのときが初めてで、入念にリハーサルを重ねてばっちり頭に叩き込んでいたのに、突然降り始めた雨のせいですべて変更になってしまったんです。

 「この星空の下で……」というのが私の出だしの台詞だったのに、頭上にあるのは、漆喰(しっくい)の天井というありさまだったんです。それでも精一杯演じて、出番を終えると、並べられた椅子が雨ざらしになったままの中庭に行きました。そこの舞台に立ったとき、胸にこみ上げてくるものがあったのを覚えています。

 私は、張りつめていたものが切れて、思わず泣きだしてしまったんですけど、そのとき気がついたんです……。そして思いました、「誰が何と言おうと、これこそ終生やっていきたいことだ」ってね。

編集部:これまでで、最も悪戦苦闘したのはどの役は何ですか?

モンテ:たくさんあります。私はいつだって、完全に満足することはないんです。

 ある程度キャリアを積んだ頃、「もうこれでいい、これからはここまで積み上げてきたものを楽しむんだ」って、自分に言い聞かせたんです。それから、私はどんなキャラクターであろうと優劣をつけないようにしています。

 どのキャラクターも、重要なことには変わりはないのです。だから私は、二番手の役を演じるのが大好きなんですよ。あるいは、「チチャ(chicha=南米アンデス地方でよく飲まれている酒)」を飲む暇がたっぷりあるような小さな役とか、私はこいつに目がなくてね。

 でも、最近の作品の中では、『ヴァレンシア/不倫と嘘』のオスカルはとても難しい役で、彼の頭の中をすべて理解するのにすごく苦労しました。

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 それから“教授”も、非常に興味深いキャラクターで、演じるのがとても楽しいんですよ。重層的な役どころで、演じるたびに新しい発見があるから。そう言えば、20代前半のベルナルダ・アルバを演じたこともありました。あの野獣のようなキャラクターの若き日を演じるというのは、なかなか貴重な体験でしたよ。

編集部:私たちがこれから観ることができるのは、世界中に何百万ものファンがいるシリーズ『時の車輪』(アマゾン・プライムで公開予定)のロゲイン・アブラーになりますね。また、ガラッと雰囲気が変わりますが、どんな気分でしたか?

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モンテ:このシリーズを愛するファンの方たちに対する責任を、ひしひしと感じています。自分なりのバージョンを演じるように心がけています。

 と言うのも、俳優という職業は自分が演じる役に、クリエイティブなものを持ち込むことだと思っています。小説の中に出てくるこのキャラクターは、『マトリックス』の影響を受けているような感じで、髪が黒く、いつも黒色に身を包んでいますね。

 エレガントで真摯なキャラクターなんです。私はそこに人間的な要素を持ち込むことで、そのイメージを少し壊してみたかったのです。ファンの方たちが気に入ってくれるといいんですけどね。

編集部:目下、『ペーパー・ハウス』最終シーズンの収録にどっぷり浸かっているところだと思いますが、自分が演じてきたキャラクターと別れるのはどんな感じですか?

モンテ:2シーズン目が終わったときは、当初はそれで打ち切り、終了するはずだったから、私も大きな喪失感を味わいました。

 だから、お別れを済ませてしまったあとで、再び(Netflixで)復活するって聞いたときには、すごくうれしくて。それ以降、私は同じ喜びをもう一度味わえるチャンスと考えて、このキャラクターを演じてきたんです。だから、今は終わることを考えないようにしているんです。考えるとすごく悲しくなるからね。今という瞬間を生きることに集中して、すべてのシーンを楽しもうとしているところです。

編集部:この数カ月というもの、新型コロナウイルス感染症の影響により私たちは生活の中で、いろいろなことをキャンセルしなければならない事態に見舞われてきました。あなたが個人的に、いちばん残念に思っていることは何ですか?

モンテ:人と接触する機会が、失われたことですね。今日ここに来ても、あなたをハグすることもできないんだから、嫌になってしまうよ。

 つらい思いをしている方や命を落としてしまった方のことは言うまでもありません。でも、これからだんだん変わっていくことになるんだろうなって思っているんです。人と人が見つめあう方法が変わるとか、スキンシップができなくなるとか。

質の高いものを作るために海外へ行くという必要性はあまり感じていないんです

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編集部:『ペーパー・ハウス』の成功を受けて、海外での仕事がいくつか続いています。これまでかなりのオファーが来ているのではないですか?

モンテ:『ペーパー・ハウス』が、私に国際マーケットへの道を開いてくれたことは間違いありません。とは言え実際、海外でいくつか仕事をやってきましたが、「外へ出ていかなきゃいけない」っていう気持ちは全く持っていないんです。

 今年(2021年)になって、『Riot Control』『Homeland』『Poison』を観たけれど、この3本に限って言えば、とても雑につくられているように思えたね。いま、スペインでやってるのがめちゃくちゃ面白い仕事で、質の高いものをつくるために海外へ行くという必要性はあまり感じていないんです。

編集部:これからの予定は?

モンテ:『300丁のピストル』の撮り直しを楽しみにしているところです。これは、パンデミックのために中断しているプロジェクトで、なんとかして続けたいと思っています。

 ほかにもいくつかプロジェクトがあって、いまはまだ詳しく話せないですど、私はプロデューサーで、中には監督をやるものもあるんです。そして、私は劇団を率いているし、映画監督はものすごくやりたいですね。

編集部:あなたが素晴らしい料理人で、DIYにも熱中しているという情報を得ています。もしかしたら、ほかにも隠れた才能も?

モンテ:そんなことないよ! 料理するのは好きですけれど、料理人というほどでは。せいぜい失敗するのを恐れないで、サルモレホをつくったりする程度です。

 DIYに関しては、こっちのほうも大した腕前ではないんですけれど、私みたいな職業の場合、作品のあっちをいじったりこっちをいじったりして、永遠に完成できないような気分をいつも味わってるから、自分の手で最後まで仕上げられるようなことをやる必要があるんですよ。

編集部:将来のことや、年齢を重ねていくことに不安を感じますか?

モンテ:逆に“歳を取らないこと”には不安を覚えるけれど、特にはないですね。

 それに役を選んだり、プロジェクトに参加するときは、数年先にそれが人々の目にどう映るかを考えるんです。でも、私は予言者でも救世主でもないし、そういう才能についてはからっきしなんですよ。私がビットコインを大量に保有していると言ってる方がいるけれど、それはきっぱり否定しておきますね(笑)。たぶんですけどね。

編集部:続編はあると思いますか? 20年後の『ペーパー・ハウス』とか?

モンテ:教授”が自宅から指揮をとって、ウォルター・マッソーやジャック・レモンみたいなおじいちゃんたちが実行、みたいな。おもしろいね! キャラクターを生かしておいて、20年後にはいったいどうなっているだろう?って考えたりしてね。

Model Ana Chirila (Traffic Models) · Photography assistant: Eduardo Navarro · Styling assistant: Ona Goeree · Make-up and hairdresser: José Carlos González · Make-up and hairdresser assistant: Miriam Hernández · Production: Mariana González · Acknowledgments: BAUHAUS, IKEA.

Source / Esquire ES
Translation / Satoru Imada
※この翻訳は抄訳です。

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