毎年カンヌ国際映画祭のレッドカーペットの頭上に燦然(さんぜん)と輝き、映画祭の象徴ともなるポスターヴィジュアル。76回目となる2023年は、カトリーヌ・ドヌーヴが採用されました。

写っているのは、リゾート地として知られる南仏サントロペ近くのプラージュ・ド・パンプローヌに立つドヌーヴ。1968年6月1日にアラン・キャヴァリエ監督の『別離(La Chamade)』撮影時に写真に収められたものですが、この年にはゼネラル・ストライキ「5月革命(Mai 68)」が起こり、その撮影が一旦中断されたという、いわくつきの映画でもあります。

カンヌ国際映画祭, 2023, 76,
Jack Garofalo/Paris Match/Scoop

カンヌを変えた激動の1968年

1968年の5月革命に参画した多くの若者たちの流れに同調したジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーらヌーヴェル・ヴァーグの旗手が、この年の第21回カンヌ国際映画祭の会場に乗り込み、中止に追い込みました。いわゆる「カンヌ国際映画祭粉砕事件」です。そこにはクロード・ルルーシュ、ルイ・マルといったパルム・ドール受賞監督もいたことでも知られており、このとき、フランス監督協会が映画祭公式とは別に独立した部門「監督週間(Director’s Fortnight)」(2023年日本からは平井敦士監督『おゆ』が選出)を立ち上げ、現在に至っています。

international cannes film festival 1968
Gilbert TOURTE//Getty Images
第21回カンヌ国際映画祭で記者会見に応じる監督たち。(左から)クロード・ルルーシュ、ジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、ルイ・マル

現在、マクロン大統領による「年金制度革命」と称した年金受給年齢引き上げの強硬策に端を発する、激しいストライキが続くフランス。 激動の年1968年を背景にもつ瞬間を、ここであえて2023年のメインヴィジュアルに据えた第76回カンヌ国際映画祭。ストライキの影響が何らかの形で現れるかどうか…目が離せません。 

protest in toulouse against the macron's pension reform for the 9th day of strikes
NurPhoto//Getty Images
年金受給年齢を62歳から64歳に引き上げる政策に異を唱え、マクロン邸の前でデモを行う若者たち。手にするボードのスローガンは、「64を押しつけるなら、こっちはMai 68(五月革命)だ」の意。