国内外を問わずワイン業界における「サステナブル」を意識した取り組みが広がっています。しかし、長いときをかけて受け継がれ…その伝統的な製造方法を大切にするワインづくりにおいて、質(味わい)を維持しながら、刷新していくことは各メゾンにとっては簡単ではないことが想像つくことでしょう。

1912年、フランスのシャンパーニュ地方エペルネ近郊のダムリーで創業したシャンパーニュメゾン「テルモン(Telmont)」は、(ワインボトルを900gから835gへの軽量化をいまから10年前に実現している)仏ガラスメーカー「ヴェラリア(Verallia)」社とタッグを組んで、従来の標準ボトルより35gより軽い800gのボトルを完成させました。

ワインボトルの役割【おさらい】

ご存じの通り、ボトルの形や大きさはワイン(赤・白・シャンパーニュ)の味わいに大きな影響を与えます。 ワインボトルの役割は、簡単に大きく分けると…、1)「安全に保存するため」であり、2)「瓶のなかでよりよく熟成をさせるため」という役割があります。

特に発泡性のあるワイン…シャンパーニュ(やスパークリングワイン)の場合は泡を閉じ込めるために、一般的にボトル全体は比較的、分厚く重くできている傾向があり、ほかのワインボトルと大きく違う特徴として挙げられます。

シャンパーニュボトルの軽量化は並大抵のことではない

「ボトルの重量を軽くするだけ…」と言うと簡単に聞こえそうですが、ボトルの形状を変えないで、さらにシャンパーニュボトルの耐久性も維持させながらの軽量化は、難しい道のりです。「テルモン」のCEOであるルドヴィック・デュ・プレシ氏(Ludovic du Plessis)は、「ボトルの底は衝撃を受けすぎるため手を加えるのが難しいので(ボトルの)肩部分から減量化を図りました」と説明しています。

そしてシャンパーニュボトルには、車のタイヤにかかる圧力の約2倍の力がかかると言われいます。このガス圧に対する強度を落とすことなく、標準ボトルより35gより軽い800gの軽量化実現するには、技術力も必要ということです。

ボトルの軽量化は輸送時の二酸化炭素排出量の削減につながる
Termont

「テルモン」はこれまでに3000本のボトルサンプルを使用して、二次発酵だけでなく、デゴルジュマン(澱抜き)、ラベリング、輸送、温度テスト、そしてシンガポールへの出荷テストまで実施…、このような数々の安全テストを経て 軽量化した800gの新たなシャンパーニュボトルを完成させました。 ちなみにこの軽量化されたボトルが使用されたシャンパーニュ『レゼルヴ・ド・ラ・テール』は、(最低3年間の熟成期間を経て)2026年に発売予定となっています。

ボトルの軽量化は輸送時の二酸化炭素排出量の削減につながる

さて、なぜここまでボトルの軽量化にこだわるのか。なぜ、環境に良いのでしょうか。それは、ボトルが軽ければ輸送時の燃料が少なくすみ、結果として二酸化炭素の排出量を削減につながることが期待できます。

ボトルの軽量化は輸送時の二酸化炭素排出量の削減につながる
Termont

データをオープン化する
「テルモン」の取り組み

【1】エコデザインの普及

特注ボトルとギフトボックスは、そのデザインや特別感で私たち消費者を魅了する一方で、重たくCO2排出量が多いという問題点が挙げられるため、「テルモン」は2021年から廃止を決定しています。「すべてはボトルにあり、ボトル以外に何も必要なし」という方針に基づいて、外装材やギフト包装材の製造と使用をしていません。

そして、(メゾン製品の15%を占めている透明ボトルの使用を2021年に廃止し)非リサイクルガラスの透明ボトルに代わって最大87%がリサイクルガラスのグリーンのボトルを採用。

【2】再生可能エネルギーへの転換と二酸化炭素排出量の削減

ボトルに使用するガラスは、主なCO2排出源のひとつです(「テルモン」はシャンパーニュ製造時に排出されるの二酸化炭素量全体の約24%がガラス瓶が占めていた)。ボトルの軽量化の実現により、ガラスの溶解や製造工程におけるCO2排出量をボトル1本あたり約4%削減できるというわけです。

そして環境適応エネルギーを採用し、メゾン敷地内に太陽光発電システムを設置し、さらにメゾンで使う車は全て電気自動車に切り替えています。

【3】テロワールと生物多様性の保全

メゾンが所有するブドウ畑の100%オーガニック認証の達成を目指し、パートナー生産者の56.5haにおよぶ畑のオーガニック認証取得も支援し、全ブドウ畑が2031年までに100%オーガニック認証されることを目指しています。今後3年の間に畑の周辺に2500本の低木を植えて「虫のホテル」をつくることにより、種の多様性を守るとともに二酸化炭素を継続的に吸収する仕組みをつくっているとのこと。

「伝統」と「ラグジュアリー」…“サステナブル”との共存を目指して

世界の有名ブランドやトップメゾンなど…ラグジュアリーブランドのサステナブルへの取り組みは、ときに難しいと思う人もいるかもしません。なにせ「伝統的」と「贅沢な・豪華な」という単語と、「環境問題」とは相対するワードのように聞こえるからです。

しかし、「テルモン」の取り組みのように実際にシャンパーニュボトルを、従来のガス圧に耐えられる耐久性を維持しながら軽量化する(二酸化炭素排出量の削減)という困難を成功させた事例もあります。 こういった「テルモン」の成功例だけでなく、シャンパーニュ地方における各メゾンが積極的に二酸化炭素排出量を減らす取り組みが昨今行われている中、各生産者が軽量化されたボトルを採用することでシャンパーニュ地方全体はもちろん、世界のワイン業界にも大きな良い影響を与えることができるでしょう。