新潟県知事に在任している花角英世(はなずみ ひでよ)知事
CEDRIC DIRADOURIAN
新潟県・花角英世(はなずみ ひでよ)知事、1958年5月22日生まれ。
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胎内市・新潟市・南魚沼市・上越市と、ワインの産地が北から南へと点在している新潟県。その中でも歴史的に深いのが、1890年創業の県内初のワイナリーである「岩の原葡萄園」です。ここはO.I.V.(国際ぶどう・ぶどう酒機構)に登録された日本のワイン用ぶどうであり、醸造量が多い品種の1つである「マスカット・ベーリーA」を使用したワイナリーでもあります。

また、今もっとも新しく注目のワイン産地として、日本海に面した海岸地帯にあるワイン・リゾート「新潟ワインコースト」も有名です。ここには小規模ながら個性的な5つのワイナリーが集まっており、ワイン・リゾートとして年間30万人ものワイン愛好家が訪れるほどです。

自然豊かな新潟は、美味しい食材の宝庫としても全国的に知られているはず。作付面積も収穫量も日本一のお米「コシヒカリ」は有名ですが、最近では新潟ブランド米「新之助」といった銘柄も高評価を得ています。また、特産野菜や伝統野菜も盛りだくさんで、なかでもナスは全国作付面積1位を10年間も守り続けています。

5月中旬〜10月ごろまでさまざまな品種のナスを味わうことができ、「にいがた十全なす」をはじめとする11種類が伝統野菜に指定されるほど。ナス以外にも、「くろさき茶豆」なども指定されていて、その数は30種類におよびます。「ル レクチエ」や「越後姫(いちご)」などの果物、さらには「のどぐろ(アカムツ)」や「南蛮えび(ホッコクアカエビ)」といった海産物まで、四季折々の旬の食材を楽しむことができます。

今回、本連載「satokoの一杯逸品」のアンカーパーソンであるワインスタイリスト藤﨑聡子さんは新潟県のアンテナショップ「表参道・新潟館ネスパス」(※2023年12月閉館後、2024年4月に銀座移転)に訪館し、新潟県・花角知事のために「砂丘ごぼうの村上牛巻き 県産の枝豆とあきづきを添えて」と、糀谷団四郎の「銀印味噌」と新之助のお米を使った「焼きおにぎり」をご用意。これらに岩の原ワイン「ローズ・シオター2022」と「ヘリテイジ 2020」、加えて雪室熟成で注目の魚沼ワイン「レッドウルフ 2019」を自由にペアリングしていただきました。

福島県知事インタビュー内堀 雅雄氏

「土地の個性を表現する新潟県産ワインを求めて…」--ワインスタイリスト藤﨑聡子さん

岩の原ワイン「ローズ・シオター2022」と「ヘリテイジ 2020」、雪室熟成ワイン「レッドウルフ 2019」
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写真左から、岩の原ワイン「ローズ・シオター2022」720ml、3300円公式サイトで購入、岩の原ワイン「ヘリテイジ 2020」720ml、7150円公式サイトで購入、雪室熟成ワイン「レッドウルフ 2019」750ml、2640円公式サイトで購入

藤﨑さん:いつもは「このワインには、このお食事…」という感じでフードペアリングをご提案をしているのですが、花角知事には自由にペアリングを楽しんでいただきたいと思っています。ペアリングは方程式のように「赤ワインにはお肉」とか言われていますが、自由に合わせて自分が好きな味を見つけるほうが、もっとワインを身近に感じられると思いまして。今回は岩の原葡萄園の「ローズ・シオター2022」の白と「ヘリテイジ 2020」の赤、アグリコア越後ワイナリーの「レッドウルフ 2019」の赤をご用意しました。

花角知事:面白い提案ですね。ワインのお供としてはあまり目にしないメニューですが、見慣れた食材がたくさんあってうれしいです。まずは香ばしい香りに食欲をそそられた、味噌おにぎりから試してみます。お米は「新之助」ですか?

藤﨑さん:はい、そうです。味噌おにぎりには今回は炒(い)りごまを混ぜています。

花角知事:味噌の味がしっかりしていますし、ごまも香ばしくていいですね。まずは岩の花葡萄園の白から試してみます。

味噌おにぎり
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糀谷団四郎の「銀印味噌」と、「新之助」のお米を使った焼きおにぎり

藤﨑さん:糀谷団四郎の「銀印味噌」は、しょっぱさと甘さが絶妙なバランスで熟成されているので、私は白が面白いかな、と。味噌の熟成からくる甘みを意識しています。

花角知事:このしっかりとした味噌には、確かにキリッとした白がよく合いますね。ちょっと赤も試してみますね。

藤﨑さん:もちろんです。例えば、今日1日いろいろなことがあって、こういう気持ちの状態でお味噌を舐めたら、赤ワインが欲しいと感じるかもしれませんし…。逆に白だと、すっきりはするけど甘みも感じるので、もうひと頑張りできるかもしれないですし。ペアリングに正しいとか間違いとかはなくて、「どっちが好きか」という話になると思うのです。

花角知事:これは白も赤も、どちらも合いますね。白はさっぱりするので強い味噌を中和してくれて、赤は味噌の強さをさらに煽(あお)るような感じがします。

藤﨑さん:「レッドウルフ 2019」はカベルネソーヴィニヨンとメルローのブレンドタイプですが、「すごく素直だ」と感じました。これぞ雪室熟成の旨みを存分に味わえる赤ワインだと思います。

花角知事:アグリコア越後ワイナリーはまだ歴史は浅いですが、品質もどんどん上がっています。新潟ならではの雪室熟成を早くから売りにしていたワイナリーです。藤﨑さんに、ひとつお聞きしたいことがあります。今回のワインセレクトには、「新潟ワインコースト」にあるカーブドッチが入ると思っていました。選ばなかったのは、なにかお考えがあってのことなのですか?

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藤﨑さん:昔、日本のワインの産地を巡る機会があったんですね。テイスティングをしながらひたすらワイナリーを回って、もちろん5軒のワイナリーが集まる「新潟ワインコースト」にもうかがいました。道を一本隔てただけの土地なのに、作り手の考えで違う品種が栽培されていまして。ピノ・ノワールの方もいれば、イタリア品種の方もいます。そうなると、「この土地のテロワールはなんなのだろう?」と感じてしまったのです。しかもカーブドッチはスペイン品種を手掛け始めようとしていたタイミングでしたし。例えば、フランスのブルゴーニュに行ったら、道を一本隔ててもみんなピノ・ノワールをつくっています。でも、カーブドッチのエリアは、ありとあらゆる品種があるわけです。ぶどうが育っていける環境を考えたときに、これはどういうことなのだろうという自分の中の疑問があって、「私にはまだハードルが高い、もっと勉強してからじゃなきゃダメだ」と思ったんです。

花角知事:なるほど、そういうことでしたか。「新潟ワインコースト」の創業者は、ワインリゾートをつくっていくという大きな志を持っていらっしゃる。そのことは私も素晴らしいと思っていますが、藤﨑さんがおっしゃられた、『この土地のテロワールってなんなの?』という問いはあり得ますね。ここからは私の想像で、現在は「挑戦段階なのか?」と思っています。20年30年したら、「この土地ではこれだ」というものが見えてくるのかと…。

藤﨑さん:私もそれは感じています。感じるからこそ現在はまだわからなくて…、今回は基本に戻って別のワインを選んでみました。

花角知事:ところで、岩の原ワインですが、創業者の川上善兵衛さんは日本のワインぶどうの父と呼ばれている人物で、新潟の気候風土に適したぶどうを求めて品種改良に挑み、「マスカット・ベリーA」などを世に送り出しています。もともとは庄屋さんだったのですが、冬は雪に閉ざされる農民たちの収入を安定させるために、私財を投げ売ってワインづくりに取り組みました。なにより彼が立派だったのは、抱え込まなかったこと。開発した品種は全て、国内全域に開放したのです。今では赤の日本ワインは、「マスカット・ベリーA」がよく使われている品種となっていますよね。

藤﨑さん:はい、知れば知るほどすごさを感じます。では次に、よかったら生のお味噌も試してみてください。また違った味わいを楽しめると思います。

花角知事:生のお味噌も合いますが、私はご飯と一緒に食べるのが好きですね。ご飯をはさむことでワインと味噌がぶつからないですし、味がより複雑になる気がします。

藤﨑さん:お米って本当に偉大ですよね。お食事ごとにワインを楽しむのもいいですが、今回のように自由にペアリングすると、知事のように好きな合わせを見つけられます。それもペアリングの醍醐味であり、楽しさだと思います。

花角知事:確かにそうですね。また違った楽しさがあります。同じ赤でも全然違いますしね。この味噌おにぎりには、越後ワインの「レッドウルフ 2019」を合わせるのが私は好きです。

藤﨑さん:それは今日の発見でしたね。どうぞ、いろいろと実験してみてください。

旨みが凝縮した新潟県の旬の食材とワインを自由に味わう|エスクァイア日本版
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「砂丘ごぼうの村上牛巻き 県産の枝豆とあきづきを添えて」

花角知事:枝豆を添えたのは、箸休めとしてですか?

藤﨑さん:もちろん箸休めで添えましたが、私自身がすごく枝豆が好きなんです(笑)。今年(2023年)の夏は本当にいろいろな枝豆を食べましたが、新潟の枝豆は味が濃いですね。今回は、新潟県のアンテナショップ「表参道・新潟館ネスパス」から仕入れました。やはり人気食材で、手に入れるのが大変でした(笑)。

花角知事:新潟の枝豆は40種類くらいあって、一番早いのは5月の連休明けからスタートする「弥彦むすめ」です。そして10月の半ばくらいまで、いろいろな枝豆が楽しめるんですよ。ちなみにこの枝豆は塩茹でですか?

藤﨑さん:塩は一切使っていないです。他の素材も味が強いので、枝豆も塩気があると苦味に変わるかなと思って。塩分は旨みを助けるのと同時に、苦味や甘みにも変わる複雑な食材ですから…。今回は最初の1分は火を止めてから熱湯に泳がせて、その後に火を入れて1分半ほど茹でてざるにあげています。あと、さやから出している枝豆は空炒りをしています。

花角知事:そのせいかもしれないですが、さやから出している枝豆のほうが、特に味が濃い気がします。同じ枝豆でも、こういった違いが楽しめるのはいいですね。

藤﨑さん:ぜひ村上牛の肉巻きも試してみてください。こちらはすき焼き用のお肉を使っていて、中にごぼうを入れました。村上牛はお肉の味がすごく濃厚なので、味を組み立てていったときに、ごぼうが強すぎるのはどうなのかなと思って…。今回はピーラーしたごぼうを千切りのように細く切り、お出汁とお醤油、そしてちょこっとお酢を足して煮ています。えぐみが抜けて旨味だけを閉じ込めたところに、村上牛のすき焼き肉を巻きました。

花角知事:すごく手が込んでいますね。確かにこちらの肉巻きは、ごぼうも存在感があるのに肉の旨みのほうが引き立っています。そしてごぼうの噛(か)みごたえが、その旨味の絶妙なアクセントになっていますね。

藤﨑さん:お肉と言えば赤と言われていますが、ここではあえて白を合わせるのも面白いかもしれないです。お肉は甘みがありますし、最後の仕上げに白ワインと相性がいいお醤油でゆっくり火を入れているので…。

花角知事:「ローズ・シオター2022」を合わせると、なんかこう果実の香りがすごく立ってきたような気がします。もう1つの箸休めの梨は「あきづき」ですか?

藤﨑さん:わぁ、うれしい! タイミングよく「あきづき」を購入することができました。梨とワインは同じ果実なので、どう化学反応が起こるかしら、と興味津々で。結論、梨は「意外と万能選手だな」と今日思いました。もともとは梨をソースにしようかとも考えましたが、お肉の旨みが強いので、おろしてしまうと甘みが引き立ってしまって。ご用意した村上牛には試したときにトゥマッチと感じたので、今回はあえてシンプルに、そのまま添えてみました。

花角知事:確かに最近のフルーツは、どんどん糖分が上がっていますよね。梨だけでなく、りんごやぶどうもそうですね。「甘みが強い」という意味では、全部当たりと思えてうれしいことなのですが、「それでいいのかな?」と思うこともあります。

続いて、赤でも試してみますね。

藤﨑さん:「レッドウルフ 2019」も「ヘリテイジ 2020」も、すごくバランスがいい印象を受けました。

花角知事:どちらも肉巻きとの相性が抜群ですが、ワインを単品で飲んでみると、「レッドウルフ 2019」は優しく、逆に「ヘリテイジ 2020」は蒸留酒のようにゆっくり楽しむことにも合っている気がします。それにしても今回のペアリングは、いろいろと発見があって本当に楽しいです。

藤﨑さん:そういうことですよね。難しく考えなくていいですし、タブーもないのです。ワインとお料理を自由に組み合わせることで、ワインの個性も自分で発見できますし、それがペアリングの本当の楽しさだと思います。

福島県知事インタビュー内堀 雅雄氏

「住んでよし、訪れてよしの新潟県」を目指して…

旨みが凝縮した新潟県の旬の食材と、ワインを自由に味わう
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エスクァイア日本版:今回のペアリングを通して、新潟県のお米や野菜をはじめ食材がとても豊かなこと…、ワインにおいては今後の成長も楽しみなことがわかりました。そして花角知事が誰より新潟県の魅力を知っていて、さらに愛していることも。ここからは知事として、特に力を入れていきたいことをお訊(き)きします。

花角知事:新潟県の食材に興味を持っていただけてうれしいです。私が知事に就任した5年前に、「住んでよし、訪れてよしの新潟県」をキャッチフレーズに掲げました。まず「住んでよし」というのは、われわれが住んでいるこの新潟に愛着がある、満足している、そういった状態のことです。ただ、私はもう少し上を目指していて、新潟県に住んでいることを誇りに思い人様に自慢したくなるようにしたいのです。また、新潟県の魅力を伝えることで、多くの人が「訪れてみたい」と言ってくれるようになる。そして、実際に訪れ「本当にいいところだね」と言ってもらえると住んでいる人もさらにうれしくなる。そういった県にしたいのです。特に新潟の人は昔から真面目で控えめな人が多く、あまり自己主張をしない県民性です。でもそうじゃなくて、食の豊かさや自然の美しさ、さらには歴史や文化といった語り尽くせない新潟の魅力を、もっともっと自慢していこうという思いです。

エスクァイア日本版:それによって県民満足度も、さらに上がりそうですね。

花角知事:同時に新潟県に訪れる人も増やしたい、交流人口を拡大したいという思いもあります。少子高齢化が進んで人口も減少し、一部の都市部以外の多くの地域が疲弊していると言えます。その解決策となるのが、やはり人が訪ねてくることです。そうすることで、新潟県の魅力がさらに広がり、もしかしたら移住も検討してもらえるかもしれない…。千客万来じゃないですが、まずは「交流人口を増やすことが重要」と考えています。

エスクァイア日本版:交流人口を増やすために、具体的にどういった取り組みをされているのでしょうか。

花角知事:イベントもその1つですね。新潟県には大きなイベントがいろいろとあります。例えば越後妻有(えちごつまり)地域で、2000年から続いている「大地の芸術祭」。これはアートディレクターの北川フラムさんが総合ディレクターを務めるモダンアートの祭典で3年おきに開催されており、2022年は60万人ほどの方が訪れてくれました(2022年の来場者は、57万4138人と発表されています)。また、「長岡花火」もそうですね。こちらは新型コロナウイルス感染症以前は6年連続で2日間ののべ来場者数は100万人を超えていて、新潟県の夏の風物詩になっています。

また、「佐渡島の金山」は世界遺産の登録を目指しています。なぜ佐渡が「文化の島」と言われているのかというと、江戸時代に金山で栄えたことが背景にあります。国内各地から佐渡へ人々が集まった際に、各地の文化も持ち込まれた…。そのことが、そう呼ばれている理由かと思います。佐渡には現在も数多くの能が残されており、日本全国の能舞台の1/3は佐渡にあると言われています。能楽師ではなく、普段は農業をやっているおじさんやおばさん、さらには子どもたちが、そのシーズンになると神社の境内にある舞台に立ちます。つまり、能が佐渡の方たちの生活の一部になっているのです。人を呼ぶために行っているわけではありませんが、そのシーズンを楽しみに佐渡を訪れてくれる方がいるのであれば、それはとてもうれしいことです。

こうしたさまざまな新潟県の豊かな魅力を多くの方に知ってもらい、そして訪れてもらうことで地域も潤う。こういった交流人口を増やす政策や事業を進めていきたいと思っています。

Photograph / Cedric Diradourian
Hair and make-up / Botan
Interviewer / Kyoko Chikama

Profile・経歴
藤﨑聡子(Satoko FUJISAKI)

ワインスタイリスト

…1997年ワイン専門誌「ワイン王国」創刊、編集・作家担当・広告業務を担当。2003年ワインスタイリストとして独立。以後、男性ファッション誌、女性ファッション誌でシャンパン、ワイン、料理制作、スタイリング、レストラン紹介などを連載・執筆。

世界的に発刊されているワイン漫画『神の雫』では、シャンパン女番長としてワインと食材のマッチングコラムを2年半にわたり執筆。これはフランス、上海、北京、香港、台北、ソウル、アメリカで翻訳され現在も発売中。単行本では24巻から36巻まで収録されている。

レストランのワインリスト作成、メニュー開発、またスタッフに対するワインセミナーもジャンルを問わず手掛ける一方、ファッション撮影ではインテリアコーディネート、フードスタイリングなども担当構成。2014年12月、シャンパン100種類、メインディッシュは餃子、唐揚げをリスティングするラウンジ・Cave Cinderellaを東京・西麻布にオープン。

フランス・シャンパーニュ生産者組合団体・シャンパーニュ騎士団より2007年シュヴァリエ・ド・シャンパーニュ、2009年ジャーナリスト最年少でオフィシエ・ド・シャンパーニュを叙任。シャンパン、餃子、唐揚げ、ポテトフライ、ゴルフをこよなく愛する。