【Index】
- 暑い時期にピッタリ「カッペリーニ風素麺に讃岐でんぶくを添えて × 香川県産スパークリング」
- ロゼワインのアテにお塩を選んでみる
- 香川県知事が語る
-姉妹島ミロス島との関わり
-地の利を活かした産業を大切に
香川県=うどん県
その他の表情(グルメ)を探して…
「香川県への観光の際に、必ず食べたいのは?」――この質問に対して、恐らく多くの人が“うどん”と答えることでしょう。コシの強い香川のうどんは全国の多くの人に愛され、食されてきました。ではあえて、うどん以外に食材を挙がるとしたら…どうでしょうか。小豆島産の素麺(そうめん)やオリーブ、このあたりが次に思い浮かぶかもしれません。
玄人(くろうと)となれば、オリーブを与えたオリーブ牛やオリーブハマチが挙がるかもしれません。伊吹島で生産された煮干「伊吹いりこ」や、幻の隠れフグと言われている「讃岐でんぶく(ナシフグ)」に加え、果物は…瀬戸内レモン、さぬきゴールド(キウイフルーツ)、小原紅早生(おばらべにわせ)みかんと豊富な食材でいっぱいです。香川県は一年を通して晴れの日が多く、日照時間が長い温暖な気候、『瀬戸内海式気候』であるため、この風土だからこそ産み出すことのできる食材(味)が多々あります。今回は香川県産ワインと、香川県の豊富な食材を活かしたフードペアリングを提案し、香川県の魅力を掘り下げていきたいと思います。
ゲストとしてお迎えしたのは2022年より香川県知事に就任し、デジタル技術を活用しながら、住みよく、訪問したくなる香川県の実現に尽力する池田豊人知事です。今回は、本連載「satokoの一杯逸品」のアンカーパーソンでワインスタイリスト藤﨑聡子さんが、1)讃岐のでんぶくを添えたカッペリーニ風素麺、2)豊島(てしま)の塩を添えた伊吹いりこ出汁のおにぎりに対して、小豆島産のスパークリングワイン、香川県産マスカット・ベリーAを使ったロゼワインのペアリングを紹介してくれました。
さて、どんな新しい“食”の出会いがあるのでしょうか。
暑い時期におすすめ。
満足感のある小豆島素麺 ×「島シャン」の泡で爽やかに!
藤﨑さん:本日の一品目は、「讃岐でんぶくを添えたカッペリーニ風素麺」をご用意させていただきました。讃岐でんぶく(ナシフグ)は、しっかり炒めた後、冷ましてほぐしたものを添えています。
味付けには生産量も少なく「幻の果実」と呼ばれる柚香(ゆこう)の入った香川県産のポン酢に、小豆島のオリーブオイルを加えて、なめらかな口当たりに仕上げました。ここに瀬戸内のレモンを搾ると、口の中がさっぱりとしますのでお好みで合わせてみてください。
池田知事:せっかくなので、レモンを加えていただいてみたいと思います。小豆島の素麺が他と異なるのは、ごま油を使用していることと、潮風に天日干していることです。これが独特なコシとなめらかさを形づくっているんです。
藤﨑さん:だからですね、小豆島の素麺は茹でる前からほのかに香るのです。その香りからこのお料理に合わせてみたく選んだのが、「小豆島産のスパークリングワイン『島シャン/ SHIMA CHAM 2022』」です。こちらは、瓶内で二次発酵させるシャンパーニュと同じつくり方をしていて、ブドウの香りと酸味が程よく、口当たりがドライなので、繊細な日本の料理にもほど良く寄り添ってくれるかと思います。いかがでしょうか?
池田知事:いろいろな香りがしっかり現れていて、美味しさが倍増しています。本日ご使用いただいている小豆島産のオリーブオイルは早摘みの青い実だけから採油したものなので、ポリフェノールの量が多いのです(ちなみにですが…笑)。そんなオリーブオイルと、程よい酸味がある『島シャン/ SHIMA CHAM 2022』スパークリングワインが良く合います。それぞれの良さを称え合ってさらに美味しくなっているように感じます。やみつきになりそうです。夏のような暑い日に試したい軽さと爽やさがありますね。
藤﨑さん:『島シャン/ SHIMA CHAM 2022』は、口の中に爽やかさを運んでくれます。だから暑い日はぴったりですね。普段、私は讃岐でんぶくをシンプルにごま油と塩コショウでソテーしていただくことが多いのですが…。それもとても美味しいのですが、今回はポン酢を活かしたかったので、ごま油ではなくオリーブオイルで整えました。
池田知事:だから満足感のある味わいでありつつ、後味があっさりと爽やかな印象で終えることができるのですね。とても美味しいです。
ブランド牛に果物…
香川県は食材の宝庫
藤﨑さん:ありがとうございます。私も含め、多くの人は「香川と言えば…うどん!!」と思い浮かべると思うのですが、香川県の食材がとても魅力的だということに最近、仕事で香川県へ訪問したときに改めて気づかされました(そして、ヘアメイクでいつもお世話になっているボタンさんも香川県出身なので、その魅力をいつも教えてもらっていたという背景もあります)。
だから今回は、そんな私の想いを読者の皆さまに伝えたいと感じ、あえてうどんを使ったフードペアリングにはしませんでした。もちろん、香川県のうどんは大好きなんですが…。
池田知事:確かに、特産となり得る食材が多くあるので、何を推していくのか…難しいという一面もあるのも事実です。
先ほどの小豆島のオリーブも特産物として、光栄なことに有名ですが、他にもそのオリーブのエサで育てたブランド牛「オリーブ牛」もまた美味しいんですよ。ぜひ、全国の皆さまに知っていただきたいと思っています。オレイン酸を多く含むオリーブの果実を混ぜた飼料を与えることにより、お肉の脂があっさりしていて重くないので、老若男女問わず召し上がっていただけると思います。
藤﨑さん:それは、ぜひ食してみたいですね。垂涎(すいぜん)ものです(笑)。他にも私が知らない食材がまだまだありそうです。ぜひ、教えてください。
池田知事:パッと思い出すのが、私が知事になってから大阪や東京の豊洲で法被(はっぴ)を着て香川県産食材の広報活動をしたときに、とても評判が良かったのが、2005年6月に品種登録された『さぬきのめざめ』という香川県オリジナルのアスパラガスですね。
藤﨑さん:以前、四国八十八か所霊場めぐり(お遍路)をしたとき、『四国というエリアは食材の宝庫だ』と、いう実感がありました。どの土地に行っても広く知られていない特産物があると…。間違いなく美味しい。お遍路とは食材探しにもつながるなという感覚もありました。加えて、アスパラガスですか…驚きです。この食材は北の大地の産物とイメージをしていたので。そう考えると土壌に合う食材って、生産者の研究で可能性が広がるのですね。
池田知事:そう言っていただけるとうれしいです。珍しい果物でいうと、『小原紅早生(おばらべにわせ)』と呼ばれる果皮が濃い紅色をしたみかんもあります。とても珍しくきれいなので、贈答にも喜ばれています。香川県オリジナルのキウイフルーツも人気で、甘く大玉の『さぬきゴールド』やひと口サイズで手で割って食べられる『さぬきキウイっこ®』をはじめ5種類が出回っています。
藤﨑さん:果物の宝庫でもあるのですね。
豊島産のお塩をアテに、
県産ロゼワインを合わせてみる
藤﨑さん:二品目は、伊吹島のいりこをパウダーにしてつくったおにぎりと、香川県産マスカット・ベリーAを100%使用したロゼワイン『瀬戸の曙』のペアリングです。少し甘口な印象がありますが、いりこの海の味とロゼの抜ける爽やかさが合うと思います。
そして、おにぎりには…瀬戸内海に浮かぶ小さな島・豊島(てしま)にある「てしま天日塩ファーム」でつくられた2種のお塩を添えてみました。ひとつは夏の強い日差しを浴びて一気に育つお塩『夏しお』、もう一方が暑さがひと段落した頃につくられる『秋しお』です。『夏しお』と『秋しお』の違いに加え、ロゼワインとのペアリングも楽しんでみてください。
池田知事:お塩とワイン…それもロゼとのペアリングなんておもしろいですね。まずは、おにぎりをいただきます――。ごま油といりこがとても合います。いりこのおにぎりの甘味に、ロゼのフレッシュな味わいがマッチしてます。お米とロゼなんて不思議な組み合わせだと思いましたが、新しい感覚です。
藤﨑さん:おにぎりは、香りとして小豆島で1858年に創業したかどや製油さんのごま油を少しだけ加えてみました。ロゼとも合わせやすくしています。お塩もトライしてみてください。
池田知事:『夏しお』のほうは、少し辛い塩味がありますね。強い印象です。一方で『秋しお』は全く違ってまろやかな甘みを感じることができます。お塩だけでここまで違うとは、面白いですね。
藤﨑さん:「てしま天日塩ファーム」でつくられるお塩は、海水をくみ上げ、火入れを一切せず太陽と瀬戸内海の風のみで天日干しでつくられているので、塩味だけでなく甘みや苦みのバランスを感じることができると思います。私も実際に「てしま天日塩ファーム」を訪問したことがあるのですが、その違いに驚きました。お塩だけでこんなに個性が違うなんて…と。ミネラル成分が豊富なお塩だからこそ、ロゼとも合いますよね。いりこ、ごま油、ロゼワイン、そして塩。素材それぞれのポテンシャルの高さが伝わる気がします。
香川県・小豆島に
ギリシャの風が吹く…
エスクァイア日本版:今回は、多くの香川県の特産品の魅力をひも解いていきました。「食」は境界線を簡単に超えて、シームレスにさまざまなモノ・ヒト・コトをつなげてくれます。「食」を知ると、実際にその土地に足を運んでみたくなるものです。
特産物のひとつとして、「日本のオリーブ栽培発祥の地」香川県・小豆島は知られていると思います。気候風土が温暖で、雨の少ない地中海によく似ているようですね。「小豆島国際友好協会」として、エーゲ海南西部に位置するギリシャ領の島・ミロス島と姉妹島提携を結んでいますが、その活動についてお聞かせいただけますでしょうか?
池田知事:今から50年ほど前に、小豆島バスの堀本文次社長が地中海を意識して、ギリシャ風のオリーブ神殿と平和の鐘を建立したんです。その15年後に、その鐘の絵葉書をみたギリシャの地中海海亀保護協会の会長であるリリー・E・べニセロス女史は、オリーブの花をモチーフにした鐘塔の屋根の飾りが「ウミガメに似ている!!」ということで関心を示し、当時の町長と香川県知事宛てに姉妹島提携の提案が届いたんです。それから姉妹島の提携が始まったというわけです。
エスクァイア日本版:姉妹島としては、どのような活動が行われているんでしょうか?
池田知事:パンデミックの影響で約4年ほど休止していますが、中学校等の学生がお互いに留学するなど文化交流が行われてきました。また、ギリシャ駐日大使はよく小豆島を訪問してくださっていますね。
始めこそ、意識せずしてつくった鐘ではありますが、こうして今でも親交があるのはお互いの気候が似ていて、食も関係しているからだと思います。
エスクァイア日本版:その代表が“オリーブ”ということですね。
池田知事:1907年に農商務省が三重、香川、鹿児島の3県を指定してアメリカから輸入した苗木で試験栽培を始めました。三重と鹿児島で栽培されたものは成長し、開花したのですが、結実は不良に終わったと聞いています。しかし、香川県の小豆島に植えられたものだけが順調に育成し、栽培後2年ほどで結実し、大正時代初めには設備が整えられ搾油をスタートしました。
ですが、1959年のオリーブ製品の輸入自由化により安価な外国産のオリーブオイル、テーブルオリーブスが大量に輸入されるようになり、国内の栽培は急速に減少します。一時は、小豆島を中心とした香川県と岡山県の一部の地方の特産物としての生産にとどまっていました。その後、平成に入ると健康食品ブームやイタリア料理などの食生活の変化により再びオリーブ製品が脚光を浴びるようになり、国産オリーブの需要が高まっていったという歴史があります。
エスクァイア日本版:地理的に恵まれ、食材が豊富な香川県。「食べること」からつながる香川県の魅力を掘り下げてきました。では最後に、“食”以外のことで現在知事が活動していらっしゃる中で今後特に力(チカラ)を入れていきたいこと、将来のビジョンについて教えてください。
池田知事:日本全体の将来を考えると、“地方の産業”ってとても大事だと改めて感じています。産業を続けていかないと、人は育っていかないと思っています。香川も例外なく人々の発展のために産業振興を頑張って行かないといけないですが、何ができるかを考えたときに「海を生かした産業」というのがこの土地には昔から根づいています。
その典型が造船です。船は今も昔も使われ続けていて、(当たり前なことですが)地球上で貿易や交流が行われ続ける限り将来的にも必要とされ続ける産業です。
そして船をつくるには、海沿いである必要があります。それも瀬戸内海のような穏やかな海と、さらに技術の蓄積がないとできません。そういった香川県だからこそできる産業を、今後も大切に伸ばしていけたらと思っています。
また、クレーンをはじめとした建設現場の重機の産業です。重機は読んで字の如く重量があるので、運ぶのに苦労するものです。ご存じのとおり陸でつくっても運ぶのに、コストがかかってしまいますよね。だからこそ海沿いでつくって運ぶのですが、それも災害が比較的少なく勾配の少ない香川県沿岸の特徴が適しています。だからこそ現在まで発展してきていて、これからも大切にしていきたい産業です。
エスクァイア日本版:課題や改善点はありますか?
池田知事:課題としているのは「人材」です。香川県では人手不足に悩まされている現状があります。そこに産業があったとしても、人がいないと発展しません。そのためにも食という魅力や、多面的な視点から「この県に住みたい」と思っていただけるような魅力を発信していきたいと思っています。今回この記事を通して少しでも多くの皆さまに香川県のことを知っていただけると幸いです。
Photograph / Cedric Diradourian
Hair and make-up / Botan
Interviewer / Shane Saito
《Profile・経歴》
藤﨑聡子(Satoko FUJISAKI)
ワインスタイリスト
…1997年ワイン専門誌「ワイン王国」創刊、編集・作家担当・広告業務を担当。2003年ワインスタイリストとして独立。以後、男性ファッション誌、女性ファッション誌でシャンパン、ワイン、料理制作、スタイリング、レストラン紹介などを連載・執筆。
世界的に発刊されているワイン漫画『神の雫』では、シャンパン女番長としてワインと食材のマッチングコラムを2年半にわたり執筆。これはフランス、上海、北京、香港、台北、ソウル、アメリカで翻訳され現在も発売中。単行本では24巻から36巻まで収録されている。
レストランのワインリスト作成、メニュー開発、またスタッフに対するワインセミナーもジャンルを問わず手掛ける一方、ファッション撮影ではインテリアコーディネート、フードスタイリングなども担当構成。2014年12月、シャンパン100種類、メインディッシュは餃子、唐揚げをリスティングするラウンジ・Cave Cinderellaを東京・西麻布にオープン。
フランス・シャンパーニュ生産者組合団体・シャンパーニュ騎士団より2007年シュヴァリエ・ド・シャンパーニュ、2009年ジャーナリスト最年少でオフィシエ・ド・シャンパーニュを叙任。シャンパン、餃子、唐揚げ、ポテトフライ、ゴルフをこよなく愛する。