福島県知事インタビュー内堀 雅雄氏
CEDRIC DIRADOURIAN
福島県・内堀 雅雄(うちぼり まさお)知事。1964年3月26日生まれ。2001年福島県生活環境部次長、生活環境部長、企画調整部長を経て、2006年12月から2014年9月まで福島県副知事。2014年11月福島県知事に就任。現在3期目。
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観光に垂涎グルメ、
持続可能な社会を目指す
福島県に魅せられて…

読者の皆さんは「福島県」と聞いて、なにを思い浮かべるでしょうか? 歴史好きであれば日本で唯一、赤瓦(あかがわら)をまとった天守閣をもつ「鶴ヶ城(会津若松城)」や江戸時代における会津西街道の「大内宿」、国の重要無形民俗文化財に指定されている「相馬野馬追(そうまのまおい=相馬地方で3日間にわたって行われる祭典)」がまず挙がるかもしれません。他にはどうでしょうか? およそ8000万年という年月が創り出した鍾乳洞「あぶくま洞」や、映画『フラガール』の舞台となった「スパリゾートハワイアンズ」も有名ですよね。

筆者(近間)にとっては、「福島県」と聞くと…再生可能エネルギーと水素関連産業に注力し持続可能な社会を目指す県であり、取り組みも積極的というイメージが強いのです。その理由は、以前、スペイン駐日大使に取材をさせていただく機会があり、そのときにスペイン駐日大使から、「2023年4月には内堀福島県知事がスペイン・バスク地方に訪れ、水素エネルギーに関する協定を更新したばかりです」というお話をうかがってから 、筆者のなかで福島県は、再生可能エネルギーの推進を牽引する存在だと感じているわけなのです。

さて…「グルメ」においても、福島県は魅力が満載です。「喜多方ラーメン」や「円盤餃子」、「なみえ焼きそば」をはじめ、ねぎ1本を箸代わりに使う「大内宿」の名物「ねぎそば」などは、訪れたら一度は食べたいご当地グルメです。また、お正月やお祝い事などで食べられる「こづゆ」、するめいかとにんじんを甘辛いタレに漬けた「いかにんじん」など…、個性豊かな郷土料理も人気を集めています(筆者近間の母方の実家は福島県ですので、ご当地グルメは詳しいのです!!)。

そして忘れてならないのが、品質が高く評価されているフルーツ。“フルーツ王国”と謳(うた)う福島県だけあり、初夏はさくらんぼ、真夏は桃 、秋は梨やブドウ、冬は蜜入りりんごや、あんぽ柿 など…年間を通してさまざまなフルーツを楽しむことができます。

「なんだか、お腹が空いてきましたね?」

福島県産のワインと
ご当地グルメのマリアージュ

豊かな水資源に恵まれている福島県は、良質な米と水を使った日本酒も有名。数多くの酒蔵があり、「廣戸川」をはじめとする人気銘柄もたくさんあります。それなのに…「福島県のワイン?」と思うかもしれませんが、最近はワインづくりも積極的に挑戦している県のひとつであります。他県に比べると規模はかなり小さいものではありますが、本連載「satokoの一杯逸品」のアンカーパーソンでワインスタイリスト藤﨑聡子さんも太鼓判を押すほど、その味は確か。

福島県産のワインとグルメ旬の食材が織り成す魅惑のマリアージュ
CEDRIC DIRADOURIAN
(写真左から)かわうちワイナリーの『ヴィラージュ シャルドネ2022』3150円購入はこちら(公式サイト)、アイプロダクツ株式会社が手掛けるワイナリーWINERY JUNの『ロゼ スパークリング2021 マスカットベイリーA』

今回、福島県・内堀知事にご提案するのは、1)福島県産の「たけのこ」や「ねぎ」をふんだんに使った「いわきねぎ塩焼きそば」と白ワインのペアリング、2)福島県産の旬な「さくらんぼ」とロゼ スパークリングを組み合わせたデザート感覚の“大人のフルーツポンチ”。これらが、どのようなマリアージュを生み出すのか考察していきましょう。

福島県知事インタビュー内堀 雅雄氏

双葉郡川内村で丁寧に育った「シャルドネ」×うるち米の「塩焼きそば」が織りなす絶妙なバランス

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ワインスタイリスト・藤﨑聡子さん

藤﨑さん:本日ご用意いたしました1つ目のワインは、福島県双葉郡川内村「高田島ヴィンヤード」が産地のシャルドネ100%、かわうちワイナリーの『ヴィラージュ シャルドネ2022』です。日本のワインは酸味を意識しているものが多い中、このワインはすごく穏やかで、つくり手の人柄が表れていると思いました…って、お会いしたことはないですけどね(笑)。

「白ワインを作る工程はとても難しい」と私は思っていて、例えば…欧州の多くの国でシャルドネを使用した白ワインが生産されており、それぞれが好みの味を持っている人が多いため、白ワインの中でも特に難しいと感じています。

そのような世界的な背景がある中でも、かわうちワイナリーの『ヴィラージュ シャルドネ2022』は、世界の名だたるシャルドネにも負けていないしブレない骨格の味わいを感じました。丁寧に栽培された優秀なシャルドネだと思っています。

内堀知事:川内村のワインを選んでいただいて、とてもうれしいです。ありがとうございます。

双葉郡川内村は、2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故の影響で全村民が避難を余儀なくされたエリアでした。震災後、比較的早い段階で帰ることができるようになったのですが、村民の方の帰還はなかなか進みませんでした。そして、田んぼや畑を除染しないと農業ができないという、とても大変な地域でもありました。

そんな過酷な背景もあったのですが、“新しい産業をはじめよう!!”という前向きな取り組みのひとつとして、ワイン造りを始めることになりました。ただ、ブドウを育てようにもなかなかうまくいかなくて、何年も御苦労されたと聞いています…。上手くいかなくて、苦労して、ようやく自分達の土地に合ったブドウをちゃんと作れるようになって、やっとワイナリーをオープンできるようになりました。

藤﨑さん:一般的にブドウは栽培をはじめて、根づくまでに少なくても4年はかかります。とは言え、4年目に理想的なブドウができるわけでもなく、軌道に乗るまで7、8年かかると言われています。かわうちワイナリーがとても苦労された歴史をもつこと、そしてようやくワインを完成させたことは、メディアの記事で拝見していました。これは飲むべきワインだ、と思った次第です。

内堀知事:そうでしたか。かわうちワイナリーは、全村民が避難を余儀なくされた地域で、さらにブドウの生育にあまり適していない土地でワイン造りを始めるというマイナスからのスタートでした。全く何もなかった川内村でブドウを作って、ワイナリーを造って、そしてワインを完成させ、しかもそれを量産していく、このストーリーは、正に「チャレンジ」そのもので、大好きなんですよ。

いわきねぎ塩焼きそば
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「いわきねぎ塩焼きそば」1190円いわきの逸品サイトで購入

藤﨑さん:シャルドネ100%、かわうちワイナリーの『ヴィラージュ シャルドネ2022』のフードペアリングとして内堀知事に今回ご提案するのが、「いわきねぎ塩焼きそば」です。具材は福島県産の「たけのこ」と「ねぎ」、「キクラゲ」を選びました。これらの食材は、日本橋にある福島アンテナショップ(日本橋ふくしま館 MIDETTE)で見つけました。酸味が強いと思っていた『ヴィラージュ シャルドネ2022』は、想像以上に優しい口当たりだったので、ねぎの甘みやたけのこの旨味などと合うと思いました。ぜひお試しください。

内堀知事:シャルドネとのペアリングに、塩焼きそばが出てくるとは…意外でした(笑)。とても合いますね。ねぎとたけのこ、きくらげ、そして塩焼きそばの旨味が口の中に美味しく広がったところにシャルドネが入ってくることで、さらに爽やかさが増すんですよね。とても素直な白ワインなので、塩焼きそばとぴったりですね 。

藤﨑さん:味つけには付属の粉末スープを使わず、お塩とお醤油を使いました。『ヴィラージュ シャルドネ2022』をテイスティングしたときに、シンプルな味つけが合うと思って…。それにこの味つけなら、ご年配の人も小さなお子さまも一緒に楽しめますよね。

内堀知事:さすがsatokoさん! シンプルな味つけだからこそ、食材とシャルドネの旨味がより引き立っています。すごく贅沢な食べ方だと思います。こういったアイデアは、どこから出てくるのですか?

藤﨑さん:食べてみたいなと思う食材を何度も使って、どんな味わいが合うのだろうか…と、ずっと実験しています。そういったことが好きなんですよね(笑)。

内堀知事:いろいろと試行錯誤を重ねながら、ということですね。この塩焼きそばは、胡椒(こしょう)の効かせ方も絶妙です。食べた後に少し胡椒が残りますが、それをシャルドネが流してくれるので、次から次へと食べたくなってしまいます。

藤﨑さん:もちもちとした食感が、アクセントにもなっていますよね。このペアリングを気に入っていただけて、とてもうれしいです。かわうちのシャルドネとの相性は抜群でした。

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内堀知事:かわうちワイナリーの物語はまだスタートしたばかりで、これからなんです。世界の名だたるワイナリーに比べると規模は小さいですが、伸びしろはたくさんあると思っています。今年(2023年)の年末には、スパークリングを造り始めるとうかがっています。

藤﨑さん:それは素晴らしいですね。世界的にもスパークリングワインは人気を集めていますし、世界展開も楽しみですね。

内堀知事:やっぱり、新しいことにチャレンジしてみよう、挑戦してみようということはとても重要です。

福島は、震災以降、ローマの“FUKUSHIMA”として世界的に認知されるようになりました。ローマ字のFUKUSHIMAには凄くネガティブなイメージがついて回っていて、海外の方とお話をすると、「住めるんですか」と言う人もいるくらいです。現にこうして多くの県民が住んでいて、ゼロから挑戦して、自分達で生きようとしている姿が、ローマ字のFUKUSHIMAだからこそ、逆に凄く伝えやすいというところもあります。県民の皆さんが新しいことにチャレンジする姿を通して、ローマ字のFUKUSHIMAの定義を変えていくことが大事だと思っています。

そして、「食」は私たちにとって大事ですよね。生きる喜びでもあるし、健康そのものでもあります。いいワイン、いいお酒を作って、その土地の食とペアリングして、笑顔で食べてもらう。正に復興そのものだと思います。

藤﨑さん:そうですね。福島県は美味しいものがたくさんありますし、それを現地で食べることが私も大切だと思います。だからこそ、海外の方も福島県に訪れてほしいですね。

福島県知事インタビュー内堀 雅雄氏

日本固有の黒ブドウ品種「マスカットベイリーA」を使ったWINERY JUNのロゼは驚愕の爽やかな味

ロゼ スパークリング2021 ヤマ・ソービニヨン
CEDRIC DIRADOURIAN
WINERY JUN『ロゼ スパークリング2021 マスカットベイリーA』、『ももふる』セット(桃5品種)2400円(税込)購入はこちらから

藤﨑さん:今回、内堀知事にご提案させていだく限られた時間の中で、デザートも用意してみました。夏も本番に近づいてきたタイミングで、今回は喜多方にあるアイプロダクツ株式会社が手掛けるワイナリーWINERY JUNの『ロゼ スパークリング2021 マスカットベイリーA』に、旬の福島県産さくらんぼと白桃シャーベットを組み合わせたフルーツポンチをご用意してみました。このロゼは、『日本橋ふくしま館 MIDETTE』で最後の1本でした。

ここのつくり手が素晴らしいと思ったのは、日本固有種の黒ブドウ品種「マスカットベイリーA」を使ってロゼで仕上げてきたことです。マスカットベイリーAは、しっかりとした味わいで固い味の印象があるブドウ品種です。ですので、一般的には赤ワインに仕立てる傾向があるのですが、アイプロダクツはギリギリまで皮を絞って色をつけたロゼに仕上げているわけです。その情熱に、私はとても感動しました。

内堀知事:実はこのワイン、私は知りませんでした。今回ご紹介いただけるとのことでしたので、先週一度飲んでみました。やはり料理として頂く前にワイン単体で飲んであげないと、という気持ちがあったので。

福島県産のワインとグルメ旬の食材が織り成す魅惑のマリアージュ
CEDRIC DIRADOURIAN

藤﨑さん:飲まれてどうですか? すごく爽やかですよね。

内堀知事:そう思います。香りも強い。湿気が高い時期に飲むと、爽やかな風が口の中で広がる印象でしょうか。フルーツを入れると、また違った味わいですね。

藤﨑さん:ロゼは冷えたままのほうがシャープな味わいを保てるので、桃は『ももふる』という瞬間冷凍させたシャーベットを使用しました。

内堀知事:シャーベットの桃が溶けていくと、味がどんどん変わっていく感じがします。さくらんぼを入れることで、目でも楽しめるのがいいですね。

藤﨑さん:福島は季節ごとにさまざまなフルーツが楽しめるので、今回は大人向けのフルーツポンチをぜひともつくりたかったんです。県産のロゼとフルーツを一緒に楽しめるのは、福島ならではと思いましたので。

内堀知事:satokoさんのお心遣いに感謝します。ちなみに、このロゼを作っているアイプロダクツは、再生可能エネルギーにもこだわっているんですよ。

藤﨑さん:それは素晴らしいですね。ここでも再生可能 エネルギーが活用されているのですね。さすが、福島県です。

福島県のイメージを
「再生可能エネルギー先駆けの地」に!!

内堀知事:福島県がここまで再生可能エネルギーにチカラを入れているのには、きちんとした理由があります。それは、第七版の広辞苑の中にあります。これは2011年以降にできた改訂版なのですが、そこで「福島県」を引くと、以前にはなかった「東日本大震災と福島第一原発事故により被災」と書かれているのです。これは紛れもない事実ではあるのですが、福島県の知事として、そう定義づけられるのはやはり抵抗があります。その定義を、「再生可能エネルギー先駆けの地」に変えたいと思っています。

藤﨑さん:再生可能エネルギーにチカラを入れているのには、そのような理由があったのですね。

内堀知事:福島県は「2040年頃を目途に県内エネルギー需要の100%に相当するエネルギーを再生可能エネルギーから生み出す」ことを目標に掲げており、2011年に宣言もしています。

現時点の再生可能エネルギー導入量を、県内における電力消費量と比較してみますと、約87%に相当する量を再生可能エネルギーで生み出していますが、さらに、大阪万博が開催される2025年までには100%にする目標を掲げています。ただ、エネルギーは電力以外にも、自動車に使われるガソリンや、都市ガスなどもありますよね。それらを合わせた福島県内のエネルギー需要全体と比較すると再生可能エネルギーで賄(まかな)えているのはまだ47%です。この数値を100%にするのは簡単ではありません。

藤﨑さん:アイプロダクツのような企業は、関連会社の会津電力で再生可能エネルギーによる発電を行いワイナリー事業をしていますよね。このように、企業も積極的に再生可能エネルギーに取り組んでいるということは、福島県にとって大きな強みになると思います。

内堀知事:われわれは2025年までに100%とする目標を掲げ、取り組みを進めていますが、その取り組みを一緒に進めているパートナーの一人が佐藤彌右衛門さん(現大和川酒造会長、会津電力特別顧問、アイプロダクツ取締役)です。佐藤さんは、元々大和川酒造でおいしい日本酒を造っていましたが、震災後、エネルギーの地産地消として太陽光発電に積極的に取り組み、さらにはその土地で採れたブドウを使ってワイン造りを行うなど、自分達の地域で生み出した再生可能エネルギーでおいしいものを造って自給自足できるようにしていこうという想いが、このロゼワインに込められているんです。

藤﨑さん:その想いは、ぜひとも伝えていきたいですね。福島県は、水素エネルギーの普及拡大、将来における水素社会の実現を推進するために活動もされていますよね。

水素エネルギーは、
共創型のプラットフォーム
としての副次的効果も

内堀知事:再生可能エネルギーと言えば、太陽光発電や風力発電をイメージしますが、これからの主流は「水素」です。水素にはいくつか魅力、メリットがあり、その一つが、水や化合物の状態で地球上に尽きないほど存在しているということです。再生可能エネルギー由来の電力で水の電気分解を行い、水素を製造することで、製造時にもCO2を排出しないクリーンなエネルギーを生み出すことが可能になるのです。

2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックの聖火台の炎にはメイド・イン・浪江(浪江町:福島県浜通りに位置し、双葉郡に属する)の水素が使われていました。実は浪江町や双葉町は避難指示が解除されましたが、生活に必要となるお店はまだ十分に営業しているとは言えないのが現状です。そうなるとそこで暮らしていくのは難しいですよね。若い人は車でどこにでも買い物に行けますが、年配の方はそれが難しいです。

そこで、食料品や日用品等を扱うイオン東北とトヨタ自動車、そして福島県、双葉町と浪江町が連携して、水素自動車で移動販売を行う事業をスタートさせました。イオン(スーパーマーケット)の生鮮食品や野菜などをトヨタの水素自動車で、お店のない地域に移動販売しているのです。

水素自動車はガソリン車に比べると、走行時に環境破壊へとつながる窒素酸化物などの発生が少なく、二酸化炭素などの有害ガスも排出しません。 また、走行音が静かで、燃料補給に時間と手間が掛からないというメリットもあります。「水素の移動販売車が被災地を支えている」と言っても過言ではないのです。移動販売が来ることで、地域の人たちが自然と集まって挨拶をするきっかけにもなっています。

藤﨑さん:環境に良いだけでなく、コミュニティー形成としての副次的効果もあるわけですね。

内堀知事:さらには、日本初となる水素のキッチンカーが導入されました。普通の自動車のキッチンカーは、一般的に、走行中にガソリン式の発電機は動かせないため、走行時は冷蔵庫に電源を通すことができません。ところが水素のキッチンカーの場合は、走行時も電源を通すことができます。そうなるとどこにでも行くことができるわけです。

例えば、お客さまが畑から収穫した野菜を使って、畑の中でシェフが腕をふるう…など。環境に優しい自動車が、食にも人にも優しい。水素自動車は、理想的なキッチンカーといえるのです。

藤﨑さん:まさに地産地消ですね。それこそ「食」を通して復興にも貢献できるのは、地元の人はもちろん、他県からの旅行者にとってうれしいところでもありますね。

内堀知事:県では、「ホープツーリズム」と言いまして、他県からの観光客の方などに福島の被災地に来ていただいて、「福島の今」を感じてもらい、自分事として捉えていただく取り組みを進めております。

例えば、浪江町に行って、おいしいものを食べていただいて、再生可能エネルギーの導入状況などを見ていただくことが被災地の応援になって、かつ参加した方々の成長にもつながっていく、これがホープツーリズムなんですよ。ホープツーリズムで訪れていただいた方々にも福島のワインなどを飲んでいただくことで、食を通じた復興もあるんだということを感じていだだけると思います。

藤﨑さん:私は東京生まれで東京しか知らない人間ですけど、地域のよさって、実際行ってみると凄く感じますし、逆に行ってみないとわからない、知らないことがありますよね。

内堀知事:正にその通りで、行ってみないとわからないことはたくさんあります。その一例がJR只見線です。東日本大震災のインパクトがあまりにも大きくて、比較するとあまり知られていないのですが、実は同じ2011年7月に、福島県の会津地方で新潟・福島豪雨という非常に大きな災害がありました。

只見川の沿線を中心に大きな被害を受けまして、特にJR只見線は橋りょうの流出や土砂崩れによる線路の崩壊などにより、長らく不通となっていました。

地元の人は車中心の生活ということもあって、この只見線、2011年以前は乗る方が多いとは言えない路線でした。JR東日本さんも廃線の候補に挙げているくらいの路線でした。豪雨災害で不通になり、再開するにしても、JRさんからすると赤字路線でしたので、当初は、不通区間を廃線にして代替バスを走らせることを提案されました。

県と地元市町村が悩みに悩んだ末、自治体側で線路などの鉄道施設の維持管理を行い、JRさんは鉄道車両の運行のみを行う「上下分離方式」という方法で存続させることを決定しました。そして2022年(令和4年)10月、やっと再開することになったのですが、今、ものすごい人気になっています。

災害前の状況から一変して、県内外からのツアー客、団体客で、座れないぐらいにぎわっています。みんな駅弁などを食べずに、真剣に車窓から風景を見て、純粋に只見線に乗ることを目的にツアーに来ています。只見線のいいところは、沿線にいる地元の方々が乗客に手を振ってくれることです。

私も実際に乗ったとき驚いたのですが、手を振ってもらえるととてもうれしいし、乗客の方もそれに応えて手を振り返す、そして「ありがとう」って言うんです。沿線にいる方々には聞こえないと思いますが、きっと届いているはずです。このような只見線の状況や、交流の姿は、正に、その場に行ってみないとわからない例の一つですよね。

藤﨑さん:仙台から福島県の海側を通って東京に戻る電車があるのですが、それも観光列車にしてほしいなと思います。仙台をでて、福島の海沿いを走ると、震災後の福島の今の姿を見ることができて、5時間くらいかかりますが、のんびり乗れると思います。

食材の話に戻りますが、福島のさくらんぼは本当においしいですよね。味見もたくさんしました。

内堀知事:ぜひたくさんの方々に召(め)し上がっていただきたいと思います。福島にはその他にも様々な食材があります。「ゆうやけベリー」という福島県が作ったオリジナルのイチゴもその一つです。先日イギリスの農業担当大臣の方に食べていただいたのですが、「人生で1番おいしいイチゴだった」とおっしゃっていただきました。

イギリスは昨年まで福島県の農林水産物に輸入規制をかけていた国なのですが、その国の大臣が、福島のイチゴを食べてみて、そのおいしさに衝撃をうけ、御本人の中で定義が変わったのだと思います。このような定義を変える戦いを今後も続けていきたいと考えています。その時「食」というのはとてもわかりやすいので、海外の方でも一口食べれば、福島の状況を実感できると思うんです。今後も、この「食」を通して、福島の定義、イメージを変えていきたいと考えていますし、今、一番力を入れているところです。

福島のワインは伸び盛りで、まだまだ伸びしろがあると思います。福島に来ていただいて、ワインを飲んでいただき、また次の機会にも福島に来ていただいて、再びワインを飲んだときに、初めて飲んだときと全然違うぞって驚かせたいなと思っています。

藤﨑さん:今回は食べることの楽しさや、地方にどうやって足を運ぼうかなどの点であらためて勉強になりました。また近々、福島県においしいワインとグルメを楽しみにうかがいたいと思います。本日は、ありがとうございました。

Photograph / Cedric Diradourian
Hair and make-up / Saeko Azuma
Interviewer / Kyoko Chikama
Edit / Hikaru Sato

《Profile・経歴》
藤﨑聡子(Satoko FUJISAKI)
ワインスタイリスト

…1997年ワイン専門誌「ワイン王国」創刊、編集・作家担当・広告業務を担当。2003年ワインスタイリストとして独立。以後、男性ファッション誌、女性ファッション誌でシャンパン、ワイン、料理制作、スタイリング、レストラン紹介などを連載・執筆。

世界的に発刊されているワイン漫画『神の雫』では、シャンパン女番長としてワインと食材のマッチングコラムを2年半にわたり執筆。これはフランス、上海、北京、香港、台北、ソウル、アメリカで翻訳され現在も発売中。単行本では24巻から36巻まで収録されている。

レストランのワインリスト作成、メニュー開発、またスタッフに対するワインセミナーもジャンルを問わず手掛ける一方、ファッション撮影ではインテリアコーディネート、フードスタイリングなども担当構成。2014年12月、シャンパン100種類、メインディッシュは餃子、唐揚げをリスティングするラウンジ・Cave Cinderellaを東京・西麻布にオープン。

フランス・シャンパーニュ生産者組合団体・シャンパーニュ騎士団より2007年シュヴァリエ・ド・シャンパーニュ、2009年ジャーナリスト最年少でオフィシエ・ド・シャンパーニュを叙任。シャンパン、餃子、唐揚げ、ポテトフライ、ゴルフをこよなく愛する。