多くの研究により、「紫外線を浴びすぎると人の健康に影響があることがある」と叫ばれるようになり、「日焼け」に対する考え方が少々変わってきた昨今ではあります…。が、ひとたび夏になると、水着を着て日焼けした肌を求めにビーチへと通い、日が暮れるまで夏の日差しを楽しむ暮らしへの憧れが強まるものではないでしょうか。

 その最も理想的と言える生活を体現しているのが、1999年(日本では2000年)に公開された映画『リプリー』です(原作は1960年公開の映画、『太陽がいっぱい』と同一)。

 イタリア・ナポリの地中海で、美女(グウィネス・パルトロー)を連れて悠々自適に過ごす様子を観れば、誰だってトム・リプリー(マット・デイモン)のように「ディッキー・グリーンリーフ(ジュード・ロウ)に成り代りたい」と思うはずです。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
The Talented Mr. Ripley (1999) Trailer #1 | Movieclips Classic Trailers
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 アントニー・ミンゲラが監督・脚本を手がけたこの作品のストーリーおよびキャラクター設定の奥深さもさることながら、公開から20年以上経った今でも色褪せないのが、映画の中のキャラクターが着こなしたファッションです。コスチュームデザインを手がけたのは、ゲイリー・ジョーンズとアン・ロス。彼らは、当時の典型的なブルジョアスタイルを完璧に仕立て上げ、南イタリアのポジターノやナポリで休暇を過ごす優雅で美しい人々を表現することに成功したわけです。これらの夏のメンズファッションは、いつの時代でも通用する永遠の着こなしと言えるのです。

 この作品における富裕層ディッキーのようなキャラクターを、本質的に表現するために彼の衣装は慎重に選ばれたはずです。

映画『リプリー』のジュード・ロウとマッド・デイモン
The Talented Mr. Ripley

 物語はこのようにして始まります。

 孤独で貧しいリプリーは、ニューヨークのとあるパーティーでディッキーの父、造船業界の大物ハーバート・グリーンリーフに息子と同じプリンストン大学の同窓かと間違われます。とっさにリプリーは嘘をつくと、ハーバートは「イタリアで遊び呆けている息子を連れ返して欲しい」とリプリーに依頼するわけです…。

 そうして、イタリアへと飛んだリプリー、すぐにディッキーと接触します。ですが、どう見てもプリンストン大学の出身とは思えないリプリーの服装や挙動に対し、すぐにディッキーは勘づくのでした。しかし、思いがけずディッキーに気に入られたリプリー。一時的にディッキーと行動を共にするチャンスを掴むわけですが、それは束の間のこと…。

 1950年代を描いたこの作品ですが、アイビーリーグの1つであるプリンストン大学の出身と言えば、当時アメリカを筆頭にトレンドとなったアイビールックが欠かせないもの。ニットポロ、ルーズリネン、ボタンダウン、ローファー、エスパドリーユ、キャンバスプリムソール、程よい短さの短パン、そして時々活躍するつば広ハット…。

 しかしリプリーは、どこか冴えない青年のままでした。彼とディッキーに共通していたものと言えば、綺麗なブロンドヘアくらいだったのです。しかし次第に、リプリーのファッションも変わっていくのが確認できるはずです。  

 ラグジュアリーかつ厄介な空気を放つジュード・ロウの着こなしは、裕福であり世界を席巻するほどの自信家である彼の性格を如実に表していました。

映画『リプリー』のジュード・ロウ
The Talented Mr. Ripley

 映画でジュード・ロウが着用した衣装は、全てニューヨークの仕立て屋であるJohn Tudor(ジョン・チューダー)で誂えさせたものでした。

 「衣類は少数でしたが、どれも互いに組み合わせることができるアイテムばかりでした…ディッキーは2つのジャケット、ショートパンツとリネンパンツを持っています。この作品では、彼が金持ちの青年であったことをリアルに反映させる必要があったのです。そして、それらのどれもが…例えばローマでつくられたものではなかったとしても、彼が着こなせばそう思われたに違いようなスタイルに仕上げる必要があったのです」と、コスチュームデザイナーのアン・ロスはインタビューで話しています。

 1950年代を描いたこのハリウッドの回想作は、すぐに世界的な影響をも与えました。彼が着る夏素材の半袖の黒いシャツと白いパンツは、2020年夏のメンズウエアでも通用するほど大衆化しました。さらに、この映画の象徴的シーンでもあるビーチでの水着もまた魅力的です。ニュートラルトーンとパステルカラーを基調とした彼のスタイルは、夏の日焼けした肌にしっくりと馴染むのです。

映画『リプリー』のジュード・ロウとグウィネス・パルトロー
The Talented Mr. Ripley

前述しているように、映画『リプリー』は公開から約20年以上も経過しているにも関わらず、このフォーマルとインフォーマルの中間にあるエレガントなスタイルは、現在のストリートウエアでも十分に通用します。

 彼が見せた数少ないアイテムからの着こなしは、永遠の夏の定番アイテムによる着こなしの妙技と言っても過言ではないでしょう。作品の中でジュード・ロウは、「GUCCI(グッチ)」のローファーを着用しています。これが証明するようにメンズにおける「GUCCI」のローファーはタイムレスなアイテムのひとつとして、1953年の誕生から現代まで多くの人に愛されている逸品であることの証明にもなります。

映画『リプリー』のジュード・ロウ
The Talented Mr. Ripley

 アメリカ風プレッピーが復活の兆しを見せているここ数年、映画『リプリー』におけるジュード・ロウのファッションは、メンズウエアの理想となるはず。「ラコステ」、「ジャックムス」、「マルニ」など、さまざまなブランドでこのレトロなファッションは再注目されつつあります。ちなみに時代は、スキニーパンツからワイドパンツが主流となっていることはファッション通ならご存知のはずです…。

 ジュード・ロウが演じたディッキーは、自由気ままで唯我独尊の性格であったように、その着こなしにも「自由」で「楽」で、さらには「見栄えの良いもの」で表現されていたのです。つまり、近未来的なストレッチの効いたスキニーパンツではなく、かつて存在していたワイドパンツ…。現代の我々にとってそれは、魔法のような衣服と言えるでしょう。

Source / ESQUIRE ES