マニキュア、つまりネイルのカラーリングはミニスカートやハイヒールのようなファッションコード同様にこれまで、女性の社会的・文化的解放を支えてきたと言えるでしょう。そうして1960年代のパステルカラーのネイルポリッシュから、1990年代〜2000年代初頭にかけて爆発的に流行したネイルピアスまで、さまざまなトレンドを交差させてきました。つまり、支配的なブルジョア的美意識の否定、時に有害な男らしさからの解放、そして個人の自由という絶対的な原則の肯定まで――。
ですが、ここで論じたいのは、男性のマニキュアについてです。
そもそも、「マニキュアを塗った男性を排除する」という風潮に変化が訪れたのは、ダークウェーブやパンク、エモムーブメントなどといった若者のカウンターカルチャーがひとつのきっかけと言えるかもしれません。1980年代、ダークウェーブキッズやパンクキッズは功利主義的な社会に対して、表面的なものや順応主義がまん延することへの拒絶感を原動力に、立ち向かうことを決めました。
髪や爪を黒く塗ることは、友人の前で見せびらかすための美的な気まぐれではなく、体制に疑問を投げかけるための正確なコードでもありました。今日、ダークやパンクは遠い過去の出来事となり、例え男性がネイルを披露していたとしても、それにショックを受ける人も少なくなったはずです。
この10年で急速に進んだ
男のネイルの民主化
このように、ネイルに対する男性の感覚が根本的に変わったとすれば、それはこの10年間に美容とコスメの世界が社会の波に支えられ、刺激されながら進化をとげたおかげでもあります。このムーブメントは、いわゆる「ユニセックスフレグランス」を禁止することから始まったと推察できます。これは性差別に近い表現であり、幸いにも、現在では絶滅の危機に瀕(ひん)した状況と言えるでしょう。これと同じことが、ネイルデコレーションの世界でも起こっていると感じています。
ファッションの世界では、2014年にファッションデザイナーのマーク・ジェイコブスが初めて男性用のマニキュアを発表し、それが細い導火線となり、その後数年で世界的なトレンドとなりました。
2019年、デヴィッド・ベッカムは俳優のリズ・ハーリーの息子の洗礼式に、妻のヴィクトリアとおそろいの鮮やかなピンクのマニキュアで出席しました。マシン・ガン・ケリー、タイラー・ザ・クリエイターはステージ上だけでなく、日常生活でもマニキュアを塗ることに慣れています。
中には、自身のマニキュアブランドまで立ち上げたアーティストもいます。フェデス、アキッレ・ラウロ、サンジョヴァンニ、ダミアーノ・デイヴィッド、モーガンといったイタリアのミュージシャンも、正直なところブルーヴァーティゴ(1995年にメジャーデビューしたオルタナ系ニューウェイブバンド)の時代からすでにマニキュアを塗っています。アーティストの爪に色を塗ることは、常に(暗黙の了解として)許されてきたのです。
それは“メニキュア”にとどまらない
そんなセレブリティたちに触発されるように、今日ではメニキュア(「男性」+「マニキュア」の造語)は固定観念から解放され、自己主張したいと願う男性の間に広まりつつあります。
さらに言えば、それはマニキュアだけではありません。Z世代の間ではネイルシールも流行の気配を見せています。基本的にオリジナルデザインのステッカーで、創造力を自由に発揮できるのです。簡単に貼れて、施術の待ち時間も必要ありませんし、初心者はもちろん、オリジナリティのあるネイルアートを楽しみたい人にもうってつけですから。
Translation / Kotaro Tsuji
Edit / Ryutaro Hayashi
※この翻訳は抄訳です