毎年夏になると、「ワインについての議論」がどこからともなく聞こえてきます。

 暑くなったら、よく冷えた飲み物を飲みたくなるものです。が、それは美味しくその飲み物の飲むためでしょうか? それよりも、われわれは単にリフレッシュを求めているだけではないでしょうか。なぜなら、凍結したものを口に含んだときには大抵、味覚も臭覚も曖昧になりがちになるからです。

 それではここで、ワインに氷をいれた場合はどうなるでしょうか?…という議論を始めましょう。

 ワインと氷に関するこの問題を解決するため「エスクァイア」スペイン版は、スペインのメディアや講演会、YouTubeなど各方面で活躍するワインの専門家でありワイン・テイスターとして人気のサンティアゴ・リバス(通称:サンティ)さんにうかがいました。彼はユーモアに長けていますが、ワインに対しては敬意をもって、軽々しい情報など口にすることもない信頼の厚い人物です。

 そうしてワインのプロであり、自らもワイン愛好家であるサンティは、氷とワインに関するいくつかの疑問を解消してくれました。また、氷を入れることを推奨しているわけではありませんが、氷を入れるためのいくつかの例外についても教えてくれました。

 では、その詳細をお話する前に、サンティからのお願いにも似た言葉を先にご紹介しておきましょう。

 「どうしても『喉をリフレッシュしたい』っていう場合は、ビールやカクテルを飲んだほうがいいですよ」とのことです。


冷たいワイン?

 まず覚えておいていただきたいのは、ワインとひと口に言っても非常に幅広い種類があるということです。そして、ワインというワードを聞くと、多くの人は赤ワインを思い浮かべるでしょう。そして「赤ワインは常温で、冷やしてはいけない」、という掟とも思える言葉が同時に頭に浮かぶはずです。

 一般的に、未開封のワインの保存に適した温度は赤・白・ロゼ・スパークリングワイン問わず、摂氏13~15度程度で変化が少ないことが理想と言われています。そして赤ワインに関しては、「常温で冷やしてはいけない」とされています。ですが、「常温」とは何度のことでしょう? 答えは一般的に同14度前後と言われています。つまり、保存のときと同じ温度になります。なので夏には、セラーできちんと保存された赤ワインを飲む場合には、ヒンヤリとした感覚も味わえるかもしれませんね。

 ですが、セラーで保存するほどこだわらず飲みたい人にとっては、その赤ワインは夏の室温と同じに。だとすれば、渇いた喉に対してはきっと物足りなくなるでしょう。併せて、その赤ワインにとっても、「物足りない」と言うより「忍びない」環境に置かれていた…ということになりますが。

 話は逸れましたが、もとに戻します。

 前述のように何種類もあるワインの中には、冷やして飲むべきものもあるということをここで再確認しておきましょう。もう皆さんの中にはご存知の方も少なくないと思われますが、「シャンパーニュなどのスパークリングワインは、冷やして飲むべきワインです」と、サンティは教えてくれました。

 つまり、それぞれのワインにはそれぞれの愉しみ方があるということです。冷たいワインを飲みたいときには、「スパークリングワイン」や「シェリー」にしたほうが良いでしょう。またそれらは、「白ワインよりも少し冷やしてから飲むのが理想的」と言われています。

 ちなみにシェリーの最適な温度は、極甘口で摂氏6度前後、中甘口では同7~10度ほど、辛口で同10~13度くらいが目安と言われています。また シャンパーニュに関しては、食後に飲まれることの多い甘口は同4度まで冷やすのがおすすめとのこと。「あまり冷やすと、味がぼやけるのでは?」とお思いの方もいるかもしれませんが、シャンパーニュの場合、甘味の中で適度に酸味が際立つ飲み口になるということです。一方で辛口に関しては、同6~8度ほどに冷やしたものがおいしいということです。

ワインに氷を入れるのは…例外もある

 では次に、温度や冷蔵庫の話は置いておいて本題に入りましょう。「このワインは、氷を入れて飲んでもいい」という例外はあるのでしょうか?

 サンティは夏の野外パーティーでの逸話を思い出しながら、特定の例外について話してくれました。

例外は、もちろんあります。ただし、それは非常に局所的なものであり、ローカライズされたものと言うべきでしょう。ある年の6月初旬、ワイナリーに行ったときのことです。ブドウ畑での試飲において…それだけ聞くとオシャレですが、試飲するには条件がそろわない気候だったのです。暑さと日差しの強さのせいで、ワインを試飲するには十分な温度ではなかったのです。プロのテイスティングなので、私はそこで問題を取り除くためにあることをしました。それが…氷を入れることだったのです。氷がワインの熱さで溶けてもその味を薄め、さらに濁さないよう質の良い氷を2~3個入れ、その液体がある程度冷えたと思ったらその氷を取り除くんです。こうすれば、誰も反対できないはずです。つまり、ワインに氷を入れることは、そんな特定の状況下でしか行うべきではないと思ってもいます。

 ここでは2つの重要なニュアンスがあります。重要なのは、①氷で飲み物を薄めないこと、②コンビニやスーパーで売っている透明度の高いロックアイスを使用すること、です。そして、飲む時点でもその氷をワイングラスの中に残したままにするのではなく、飲み物を冷やしたら取り除く…ことです。繰り返しになりますが、これはワインが熱すぎる場合のみの対処法となります。

ワインは完成されている

 では、氷を入れてワインを飲むことは、そんなにおかしなことなのでしょうか? ワインの品質や価格に関係なく、どこのバーでもワインをロックで飲むということは異常なのでしょうか? この質問に対しサンティは、はっきりと答えてくれました。

水で薄まったワインが欲しい人はアルコールではなく、炭酸水などソフトドリンクを飲んだほうが良いでしょう。

 さらに勇気を出して、サンティを怒らせない程度に…ワインを使用したカクテル「サングリア」について、聞いてみることにしました。「なぜサングリアには氷を入れても良くて、ワインは氷なしが良いのでしょうか?」という質問に対しても、サンティは遠慮なく答えてくれました。

サングリアは「ソーダみたいなもの」と言っても過言ではありません。それは退屈な時間をしのぐための飲み物であり、ワインは別のものです。そのまま飲むことを目的とした完成品なんです。なので、温度の問題に関してはグラスの外部、そして環境、あるいはボトルの中で解決して楽しんでください。もし条件に合わないのであれば、他のものを飲んだほうがいいですよ。

glass of red alcoholic cocktail drink with mint leaf and lime or lemon slice on dark blurred background side view copy space
Artur Kozlov//Getty Images
サンティが抱く、「氷を入れてもワインを飲みたいと思っている人」のイメージは、こんな感じなのかもしれません。

ワインの冷やし方、冷やすタイミングは?

 ここで確認すべきことは、なにもサンティはワインを冷やすことに反対しているわけではない、ということです。彼は氷が溶けた水によって、そのワインが薄まってしまうことに強く反対しているという事実を、ここで皆さん見落とさないようにしてください。

 ワインを冷やして飲みたい場合には、ボトルごとアイスバケツに入れたり、冷蔵庫に入れてしばらく置いておくという選択肢もあることを覚えておきましょう。また、透明度の高い氷を入れて、溶ける前に飲み物から取り除くこともサンティは1つの方法として実践していますので。

 私たちは夏にはよく冷えたワイン、冬には温めたホットワインと、求めるものが四季によって変化します。しかし、ワインの保管方法は前述のように、一定の温度や湿度が保たれた空間が求められます。ワインを最高の状態で飲みたい場合には、アイスバケツに入れたり温めるようにしたりして、そのワインの最適な温度となるよう努めてください。

vino con hielo, ¿sí o no
Christine von Diepenbroek

 もうひとつサンティさんが指摘したことは、われわれの多くが「夏にはアルコール度数の強い赤ワインよりも、白やスパークリングワインなどが飲みたくなる」ということ。論理的には好みの問題だといいます。そんな中、季節関係なく赤ワインを飲み続けたいという人へのアドバイスは、「赤ワインは、極端な温度調整はしないほうがいい」ということになります。赤ワインに温度変化を与えると、大切な中身に多大な影響を及ぼす可能性があるからです。つまり、味を変えたくないのであれば、ワインセラーなどから取り出した状態で飲むのが理想となります。

氷入りを前提としたワインはありますか?

 この記事の本題に戻りますが、スパークリングワインのように冷やして飲んだほうが美味しいワインがあります。さらに進んで、「氷を入れて飲んだほうがいいワイン」というのは存在するのでしょうか?

その答えはイエスです。モエ・エ・シャンドンの「アイス アンペリアル」のような非常に特殊な商品に限った話にはなります。繰り返しになりますが、すべてはワインの種類によるのです。あなたが手にしたワインが、どのように設計されているのか? それを知るのが一番だと言えますね。

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Source / ESQUIRE ES
※この翻訳は抄訳です。

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