2024年の年明け早々、これまでエスクァイア日本版でおすすめのジンを紹介してくれたAntonicが、東京八王子蒸溜所と一緒に新たなジンをプロデュースするという知らせを受けました。その名は「SUNSETOWN(サンセッタウン)」。聞けば、なんと音楽をテーマにしたジンということです。

ジンで音楽をどのように表現するのか? それに、一体どんな味わいなのか…? 気になった筆者は、2024年2月26日(月)の発売に先駆けて行われた商品発売記念イベントへ。そこで、Antonicの店長 本多勇陽さんと東京八王子蒸溜所の蒸留家 中澤眞太郎さんに話をうかがいました。

本多さんと中澤さん
写真左から、本多さんと中澤さん。イベントが開催された東京八王子蒸溜所にて。本多さんは若くして日本初のジントニック専門店「Antonic」の店長に、中澤さんは老舗の合成樹脂製品メーカーの3代目でありトロンボーン奏者であり蒸留家というユニークな経歴の持ち主です。

概念をジンで表現する難しさ

編集部:愛をテーマにした「ディスティレリ・ド・パリ」とのコラボレーションに続き、ユニークな取り組みをされていますね。今回のこのジンを造るきっかけはどこにあったのでしょうか?

本多さん:「ディスティレリ・ド・パリ ジン スミ」のときはオーナーたちの衝動的な想いが強かった側面もあるのですが、Antonicでは今、「Distributer(ディストリビューター)として蒸留家のクリエイティブに火をつけ新たな商品を生み出していく」という取り組みも始めています。

「じゃあ、自分ならどんなジンを蒸留家さんと一緒に造りたいか?」を考えたときに、「自分が好きなアメリカ音楽をテーマにしたジンをつくりたい」と思いました。そしてこのテーマにするなら、トロンボーンの演奏家である中澤さんが手がける東京八王子蒸溜所しかないとも…。そこで、中澤さんにコンタクトをとったというわけです。それが、2023年の夏の終わりのことでしたね――。

中澤さん:「音楽をテーマに」というジン造りのアプローチは、今までに聞いたことがなく、率直にまず「面白い!」という印象を受けました。とは言え、アメリカの音楽とひと口に言ってもそのコンセプトが広すぎるので、実際に蒸留所までお越しいただき、話し合いながらテーマを“60~70年代のアメリカ”というところまで少しずつ絞り込んでいったんです。

東京八王子蒸溜所
ここが東京八王子蒸溜所。1階が蒸留所で通りに面した大きなガラス窓からは蒸留器やタンクが見えるようになっていて、2階はテイスティングができるお洒落なバー空間が広がっています。普段は非公開ですが、蒸留所見学&テイスティングツアーが、不定期開催かつ予約制で開催されています。

編集部:なぜ、その時代の音楽にされたのでしょうか?

本多さん:私が少し昔の音楽が好きで、その背景を掘り下げていくと、60~70年代のモータウンレコードの音楽が原点になっていることに気づいたんです。そこで、中澤さんと「ひとつの時代をつくりあげた、あのモータウンサウンドをテーマにしよう」と決めました。

編集部:香りや味ではなく、音楽というテーマをジンで表現するのは、これまた難しいことかと思うのですが…。

中澤さん:一般的にコラボレーションをするときは、素材や造り方などを話し合って決めるのですが、Antonicさんは造り手に委ねるというスタンスで…。試作を持って行っても味わいの具体的なコメントは特になく、「出来上がるのを楽しみにしています」といった具合でした(笑) 。強いてあげるなら、リクエストは「ジントニック専門店なので、ジントニックにしたときに美味しいと感じられるもの」というものぐらい。あ、あとは「東京八王子蒸溜所で造らないようなジンを造ってほしい」というのもありましたね。

だからこその難しさはありましたが、最終的に私が考えるモータウンサウンドを表現したジンが出来上がったとは思っています。アプローチはまた違いますが、表現をするという点では演奏と通ずるところがあるようにも感じられました。

蒸留器
アメリカ・シカゴにあるKOVAL蒸留所と同じく、ドイツのKothe社製の蒸留器。KOVAL社は、北海道で出会ったクラフトジンに感銘を受け、ジンを造ろうと一念発起した中澤さんが修業した蒸留所です。2022年1月より「トーキョーハチオウジン CLASSIC」「トーキョーハチオウジン ELDER FLOWER」を発売し、「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション2022 洋酒部門」でそれぞれ金賞・銀賞を獲得しています。

自然と身体が
動き出すような
心躍る味わい

編集部:モータウンサウンドらしさというのは、どのように表現したのでしょうか?

中澤さん:アメリカの、そしてモータウンのカルチャーを感じられるような素材選びをしていきました。

スピリッツに関しては、もともと私たちのジン造りでは原料にコーン由来のニュートラルスピリッツを使用しています。コーンと言えば、アメリカで広く栽培され、アメリカの人々にとってなじみ深い食材。そこで、今回もコーンスピリッツを使いました。

ボタニカルでいうと、アメリカの飲料でよく使われるライムやレモン、チェリーパイとしても馴染み深いチェリーを選んでいます。また、モータウンの始まりにはジャズが関わっていることから、ジャズ発祥の地とされているニューオーリンズに着目して、ニューオーリンズのあるアメリカ南部料理で使われているスパイス類なども使用しています。

基本はオーケストラでクラシックを演奏しているのですが、ジャズをやることもありますし、若い頃にアメリカに住んでいたこともあったので、そのときの記憶も引き出しながらアメリカらしさを表現していきました。

ボタニカル
Antonic
蒸留で使われるボタニカルたち。多様な音が厚みを持って詰め込まれたモータウンサウンドをイメージ、し24種類のボタニカルを選定したということです。

編集部:実際に、初めて口にしたときはどうでしたか?

本多さん:「とにかく美味しい…」。まず浮かんできたのはそんな印象でした。お店でジンを選ぶときも、「純粋にジントニックで美味しく飲めるか?」という選び方をしているのですが、まさにジントニックにしたときの味わいが素晴らしかったです。そして、モータウンのサウンドや当時の情景が浮かんでくるようで…。自分の好きな音楽がこのような形になったことに、とても感動しました。

存在しない画像
発売記念イベントでは、ジントニックやジンソーダなどの他、本多さんが考案した3種類のカクテルも用意されました。

編集部:ラベルも面白いなと思ったのですが、レコードを思わせるデザインですよね。

本多さん:実はこれ、レコードのセンターラベルの実寸なんです。モータウンのセンターラベルは各レーベルで個性豊かなデザインが多くてラベルに採用しようと思っていたのですが、見事にサイズが合いまして。

サンセッタウンのラベル

上半分は中目黒の街の地図で★マークはAntonicのお店の位置になっているのですが、モータウンレコードのセンターラベルだとこの地図デトロイトの街になっています。音楽好きな人が見たら面白がってくれるのでないでしょうか。

編集部:クリエイティブかつ音楽性にあふれたジンですが、お二人はこのジンをどのように味わってほしいでしょうか?

中澤さん:ゆっくりと音楽を聴きながら、その味わいを楽しんでほしいです。音楽とジンの結びつきを今回こうした形で提案することができたので、音楽 × ジンという新しい楽しみが広まっていったらうれしく思います。

本多さん:実は、このジンのためにモータウンレコードの楽曲を集めたプレイリストをAppleMusicで公開していまして、商品発売記念イベントで購入してくださった方には「楽曲と一緒に聞いてほしい」と思い、プレイリストのQRコードをお配りしていました。かなり膨大な楽曲でこれからもまだ追加していく予定ですが、中でもスティーヴィー・ワンダーはサンセッタウンのイメージと近い気がしています。まずはジントニックで、楽曲と一緒にぜひ味わってみていただけたらと思います。

サンセッタウンとジントニック
「サンセッタウン」のテイスティングノート
  • 原料:ジュニパーベリー、アメリカンチェリー、アーモンド、オレガノ、タイム、クミンなど計24種
  • 香り:フレッシュな柑橘系の爽やかさにスパイスが香る
  • アルコール度数:45度

購入はこちら