※本記事は、医学博士で精神科医のグレゴリー・スコット・ブラウン氏が愛犬との実体験をもとに寄稿された記事です。

 昨(2020)年の秋のことです。多くの方たちと同様に、私(筆者ブラウン氏)もペットとして犬の「カイ」を我が家に迎え入れました。

 やんちゃ盛りの10カ月、ラブラドール・レトリバーとゴールデン・レトリバーのミックスです。仕事のオンライン診療を続ける中で、先方の画面の端に猫ちゃんの尻尾が見えたり、どこかでワンちゃんの鳴き声が聞こえたり、そうこうしているうちに、自分でもペットが欲しくなってしまったのです。必要だったのかもしれません。

◇アニマル セラピーの心理的効果

 メンタルヘルスの専門家であれば誰しも、アニマル セラピー(ペット セラピー)の効果はよく知っているはずです。

 ストレス解消が期待できるだけではなく、認知症やうつ病などの症状改善へと導くことも多くの研究で報告されているということで、医療や福祉などさまざまな分野で取り入れられています。

 実のところ精神科医である私は、うつ病や不安神経症、PTSDなどの診断を受けた患者たちの心の支えととして、「ペット承認の念書を書いてほしい」と常々頼まれる立場にいたのです。

▽多幸感を与えてくれるホルモン「オキシトシン」

 ペットを飼うことでストレスが軽減され、世の中とのつながりも実感できるようになることは多くの研究の結果として出ています。なぜか?と言えば、親密さを覚えることで生じるホルモン、「オキシトシン(Oxytocin)」の分泌に関係しているとの考察が有力です。

 例えば、犬を撫(な)でると脳内でオキシトシンが分泌され、コルチゾールなどのストレスホルモンが減少し、そのことによって血圧が低下するといった効果があることの結果も報告されています。このようなメリットもさることがながら、ペットと暮らすことは一般的にコレステロールや中性脂肪の低下など、身体的な健康とも密接に関わっているという報告もあります。

 そのような科学的知見については、もちろん私も承知していました。でも、それよりもなによりも私は、単純に一緒に駆け回ってフリスビーで遊ぶ、そんな相棒との暮らしを求めていたのです。

 幼い頃にはペットを飼っていたこともありました。9歳の頃、両親が一匹の子犬を連れて帰ってきたのです。小さなチワワではありましたが私はフリスビーを投げ、一緒に楽しく遊んだものでした。しかし今回、改めて自分で飼うなら、もっとスポーティな犬種がいいと考えたのです。ペットとの日常はどんなに楽しいのだろう、そう思うだけでわくわく興奮しました。

◇愛犬との実生活

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Courtesy of Dr. Brown
写真左から、ラブラドール・レトリバーとゴールデン・レトリバーのミックス「カイ」と、筆者ブラウン氏。

 正直なところ、「カイ」との生活を始めて最初の数週間は、セラピー効果を感じることなどさっぱりできませんでした。カイに「お座り」を教えようとしたところで、妻の靴に噛みついたり、私のデスクにおしっこをひっかけたり、そんなことばかりだったのです。

 カイを迎え入れてすぐに私は、彼女(カイ)が私に何をもたらしてくれるのか以上に、「ペットと暮らすことがいかなるものであるか?」を 自分が何も知らなかったということに気づかされました。

 私と同じく精神医療の現場で働く仲間たちも、全く同じことを言っていました。ペットを飼うことで得られる効果のうちには、科学的な裏づけのあることもあれば、まだまだ知らなければならないことも山積みとなっている、ということに気づかされたのです。

◇ペットが誘い込む新たな世界 ― 非言語の意思疎通

 言葉が通じない代わりに必要となるジェスチャー、ご褒美の与え方、彼女を不安にさせてしまうこちらの表情など、「カイ」をトレーニングしていく中で、彼女ではなく、むしろこちらにこそ非言語のコミュニケーションについて、学ばされることが多いのだということに気づきました。

 カイを招き入れる際、「この子はもしかしたら、何らかのトラウマを抱えているのかもしれない」と忠告を受けていました。

 生来の臆病者で、追いかけても無駄だと思わせるほどの勢いで逃げ出されたことだってありました。どうしたら戻ってきてくれるのか? そのことを理解するためには、彼女がいったい何をこちらに伝えようとしているのか? その声に注意深く耳を傾ける必要があることにも気づきました。

 ひざまづいて呼び寄せようとする私のもとに、彼女は帰ってきてくれました。そんな日々を重ねる中で、自分の患者たちの発する言葉にならない微かなサインに意識を向けるようになり、より深く共感することが可能であるのだと学んだのです。

 相手がうなずきながらこちらの話に耳を傾けている際には、より踏み込んだ話をすることができます。こちらの問いかけに対し長い沈黙があれば、その話題は避けるべきかもしれません。

◇ペットの存在によりもたらされる関係性

 さて、ペットや子どもを育てながら暮らすためには、当然のことながら相手に合せた生活のメリハリというものが必要になります。

 しかしそれ以上に、「カイ」がこちらの生活リズムを回復させるための役割をしっかりと担ってくれていることに気づかされたときの驚きは、相当大きなものでした。今となっては携帯アラームのスヌーズをセットしたり、起き抜けにインスタグラムをチェックしたりする代わりに、毎朝7時半きっかりに「カイ」が私の目を覚ましてくれるのです。

 彼女がいなければ、私は目覚めてなお、ベットでゴロゴロする生活を続けていたに違いありません。と共に、ジョギングをする仲間を得ることにもなりました。

◇ペット(愛猫)の存在により気づかされるモノゴト

 テキサス州オースティン在住の、ディクソン・パーネルという心理療法士の友人がいます。彼の飼っている2匹の猫は、彼の仕事や日常にあまり興味を示すことがないようです。

 でも、私の「カイ」だってそうです。自分が遊びたいと思ったら、私の都合などお構いなしにワンワンと主張するばかり。邪魔をされて困ることだってありますが、ボールを投げたりして遊び相手となる3分間、私はコンピュータから離れ、新鮮な気分を取り戻して、集中力を高めることにもなるのです。

 ペットは私たちとは、全く異なるリズムで生きています。じゃれあうことを求め、おやつを欲しがり、遊ぼうと誘い、あちこちに寝場所を見つけ、自由気ままに生きています。友人のディクソンは愛猫が熟睡する姿、そして栄養を求め、身体を精一杯に動かす様子を眺めることで、「仕事上のストレスや気の重くなるようなニュースなどに害されることなく、バランスを維持できている」と言います。

◇ペットが気持を落ち着かせてくれる

 「カイ」は私にとって、最高のパートナーとなりました。しかし人によっては、動物と深いつながりを得ることで、さらに大きな影響を受けこともあるようです。

▽愛馬との暮らしを精神科医が考察

 精神科医でもあるドリュー・ランジー氏は、愛馬である「シンコ」の世話に時間をたっぷり使うことで、「落ち着いてモノゴトを考えられるようになりました」と言っています。

 特に自分よりも、20倍もの力を持つ馬のような動物を相手にする際は、「冷静にならざるを得ないのだ」と彼は説明しています。「(愛馬の)シンコ」の力に対抗することなどできませんし、逃げていく「シンコ」を押し留めることなど毛頭できません。互いの心を通わせることが、何より重要となるのです。

◇まとめ:ペットの暮らしから受ける恩恵

 私の場合、「カイ」との生活を始め、彼女の世話を見ながらこちらも世話されているような日々を送るようになり、そして1年が経過した今、やっと彼女を思うように走らせることができるようになりました。また、(いつもではありませんが)投げたテニスボールを取ってきてもらえるようまでの関係を築くことができています。

 人間社会の複雑な問題のあれこれについて、ペットが私たちより詳しく理解しているなどと言うつもりはありません。ですが、ペットと暮らすことによって得られる恩恵の多さを、ここで知っていただきたいと思うのです。

Source / Men’s Health US
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。