※本記事はオランダ人女性ウェンディ・ゲイツさんによる寄稿です。

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 「そんなに怒った顔しないでよ」、「笑って」、「まあまあ、そうかっかせずに」、「そんなに怒ると幸せ逃げちゃうよ」、(いまの時代これを言うとセクハラで訴えられかねませんが…)「怒ると美人が台なしだよ」などと、女性の形相についてよく触れてくるひとがいます。よく思い出してみてください。あなたも同僚や近所に住む隣人、自分の奥さんや彼女に一度でも言ったことはありませんか?

 これまで私は、そう言われるたびに素直に聞き入れていました。いわゆる“陽気な”タクシーのドライバーや、エレベーターで乗り合わせただけのそれほど近しい仲でもない同僚まで、どんな人に言われても、少し頭をうなずかせて口角をあげていました。

 なぜそうしていたのか? 理由を説明することは難しいのですが、「そういった発言をしてくれた人の存在を噛みしめるため…」としか言ようがないかもしれません…。

 しかしなぜ、そんな私がこの記事のタイトルにあるように、「言ってはいけない」と声をあげるようになったかと言うと、こんなある出来事がきっかけでした。

 ある日、スーパーマーケットの駐車場を歩いていると、トヨタ「ヤリス」に乗った男性が窓を開けて私に向かってこう叫んだんです。「おネエさん! なんでそんな怖い顔してるの! もっと笑って!」と…。

 私の顔が彼らにどう見えるか、教えてくれるのは素晴らしいアイディアであるという前提のもと、まったく知らない人にそんなことを言われたらどうすればいいのでしょうか? そもそもあの男性には、そんなコメントをしないままクルマを走らせるという選択肢はなかったのでしょうか?
 

私に話しかけてくれる、すべての人に感謝しますが…

 そして、そのように言われて、ニコリともしようとしなければ「この女はクレージーだ」と扱われるでしょう。ですが、笑顔へと「修正」することが本当に正義なのでしょうか?

 この類の発言は、なによりも瞬間的な判断力にかかっています。

 まず、突然話しかけてきたあの男性は、私の通常の顔を知らないにも関わらず、「怒っている」と判断しました。そして、他人の表情をコントロールしようとします。「私に向ける顔の表情を調整してほしい」という意味が、その言葉の裏にあります。さらには非常に性差別的です。「女性は笑顔でなければいけない」という…。

 このとき、私はまるで手懐けられているペットのように扱われていないか?と感じたのです。そして、「女性は常に微笑みを浮かべた女神のような存在でなければならない」という世間のイメージが、いまもなお強く根強いていることを再確認できたわけです。

 「こんな発言をする男性は少数派だから…」と、あまり心配しても仕方のないことでしょうか? もしくは、私が少し話を誇張していると思っている…そんな方もいらっしゃるかと思います。もちろん、そんな不躾(ぶしつけ)な発言をする心配が必要のない方もいらっしゃるかと思いますが…。

 先ほども述べましたが、私に会話を振ってくれた人には感謝の意を持っています(例えば、『大丈夫ですか?』など気遣うカタチで)。しかし、「そんなに怒らないでよ」、「笑って」などという切りだしは、あまり良くない会話のスタートと言えるのではないでしょうか…。

 この記事を、最後まで読んでくださりありがとうございます。しかし、「じゃあもう、何て話しかけたらいいのかわからなくなった!」と思ったあなたへ、こんな言葉を捧げまます。

 「まあまあ、そんなに怒らないでよ…」

Source / ESQUIRE NL
Translation / Misuzu Horiuchi
※この翻訳は抄訳です。