ここ数年間にわたり、社会正義に関する取り組みが非難されてきた米アメリカンフットボールリーグのNFLが、2019年8月13日(火)にラップ界の大御所で起業家でもあるジェイ・Zから、窮地脱出につながる(Hail Mary Passにも似た?)パスを受け取りました。

 「ニューヨーク・タイムズ」紙によれば、同リーグはジェイ・Zが代表を務めるエンターテインメント企業「ロック・ネイション」と提携したとのこと。同社はNFLの「ライブ・ミュージック・エンターテイメント・ストラテジスト」に就任し、同リーグのエンターテインメントや社会正義に関連するプロジェクトをコンサルティングすると言います。
 
 今回の提携により、ジェイ・Zはスーパーボウルのハーフタイムショーなどのイベントを主導することになりますが、より重要な点は、このリーグの将来についても彼に発言権が与えられるということです。NFLはこの数年の抗議運動や有名セレブたちによるスーパーボウル(NFLの頂点を決める試合)のボイコットを経て、現在もリーグを立て直そうと試みています。 
 
 ジェイ・Zは「ニューヨーク・タイムズ」紙に、「NFLは素晴らしく巨大なプラットフォームを持っており、それはあらゆる人々を包括するものであるべきです。彼らには変化を起こすために行動する意志があり、私たちが役に立てることでしょう」と語っています。

米アメフトリーグ「NFL」、ジェイ・Z率いるロック・ネイションとの提携により、イメージ刷新を図る
Getty Images
NFLのコミッショナーを務める、ロジャー・グッデル氏。

 この提携は規模・注目度の両面でユニークなものですが、同リーグが新たなパートナーシップや構想によってイメージ刷新を図るのは初めてのことではありません。NFLと言えば、今も昔も米国文化の象徴というべき最もパワフルで儲けの多いスポーツリーグの1つですが、NFLのコミッショナーを務めるロジャー・グッデル氏はここ数年、社会正義への取り組みや選手の扱い、経営幹部の多様性といった点でネガティブな評価を受けてきました。 
 
 グッデル氏はロック・ネイションとの提携について、「私たちに全面的に同意してくれるような人は求めていません。私たちが向上するために、何ができるのかを教えてくれる人を求めているのです。それこそがこの2つの組織の関係、そしてジェイと私の個人的な関係の軸となるものだと考えています」と述べています。 
 
 特にジェイ・Zと(元サンフランシスコ・49ersの)コリン・キャパニックの関係を考慮すれば、今回の提携には多くの問題もあります(キャパニックは2019年8月12日時点で、この件について言及していません)。キャパニックは2016年、国歌斉唱時に抗議のためにひざまずき、警察の暴力に対するリーグ全体を巻き込んだ抗議に注目が集まることとなりました。キャパニックはこの過程で、プロの世界から追放されたカタチとなり、現在もチームから契約を拒否されています。 

米アメフトリーグ「NFL」、ジェイ・Z率いるロック・ネイションとの提携により、イメージ刷新を図る
Getty Images
2018年まで、サンフランシスコ・49ersに所属していた、コリン・キャパニック元選手。

 ジェイ・Zは「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙に、「(キャパニックは)間違いなくこの話題を活気づかせました。私たちは『インスパイア・チェンジ(NFLの社会意識改革プログラム)』のプラットフォームの築き方について考えてみたい。そうすれば、将来似たようなことが起こったとき、キャパニックには自分自身を表現するプラットフォームがあり、それがフィールド上である必要はないかもしれません」と語っています。 
 
 NFLは2018年、同リーグでプレーする(フィラデルフィア・イーグルス所属の)マルコム・ジェンキンス選手と(かつてバッファロー・ビルズに所属していた)アンクワン・ボールディン元選手が設立したアドボカシーグループ「Players Coalition」とのパートナーシップを発表。社会変革に注力する同団体と7年間にわたって、多面的な取り組みで協力していくことを明らかにしました。

 この取り組みは「インスパイア・チェンジ」と呼ばれるもので、ジェイ・Zが「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙のインタビューで言及したプラットフォームのことです。このプラットフォームは貧困コミュニティを手助けし、教育や収入のギャップを埋めるために考案されたもので、黒人コミュニティ特有の社会不正に的を絞ったプログラムも提供されています。

preview for The Wealthiest Musicians in the Business Right Now

 NFLはこのプログラムに巨額の資金を費やしており、その額は2018年度に850万ドル(約9億100万円)、そして2019年度には1200万ドル(約12億7200万円)に達する予定です。これらの資金はビック・ブラザーズ・ビック・シスターズ・オブ・アメリカやオペレーション・ホープ、ドリーム・コープス、ユナイテッド・ネグロ・カレッジ・ファンドなど、複数のNPOに助成金として割り当てられています。 
 
 これ以前においても、NFLは2003年に「ルーニー・ルール」という規則を定めています。これはリーグの組織やチームの多様性の推進を狙ったもので、ヘッドコーチなどの要職の人選において、マイノリティーの候補者を含めるよう義務づけています。同リーグではその後、ピッツバーグ・スティーラーズのマイク・トムリン選手などを含め、複数のアフリカ系アメリカ人がヘッドコーチに起用されてきましたが、NFLの新シーズンでチームを率いる白人以外のヘッドコーチはわずか3人です。 
 
 NFLの新シーズンは2019年9月5日(木)に開幕される予定ですから、この提携についてはさらなる動きがあることでしょう。NFLとグッデル氏が求めるようなリーグの信頼回復となるかどうかは注目です。 
 
 現時点では、アスリートやミュージシャンがこのニュースをどのように受け取っているのかはわかりません。これまでのところ、ソーシャルメディア上のアスリートよりはメディアからの反応が多く、前者はこの提携について発言する前にさらなる詳細を待っているのかもしれません。 
 
 「ロック・ネイション」と契約するニューヨーク・ジャイアンツ所属のサクオン・バークリー選手は、「ニューヨーク・デイリー・ニュース」紙に、「コリン・キャパニックに関する話題をリツイートしたという理由で、ファンが離れようと気にすることはありません。ですが、私は誰もが自分の意見を持つことを尊重しますし、誰にでもその資格があります。人々には私が自分の意見を持つことも尊重してもらいたいところです」とコメントしました。 
 
 スポーツと音楽の2つのエンターテインメントによるコラボレーションによって、NFLのイメージ刷新は十分に図れることでしょう。2019年9月にNFLの新シーズンが開幕することもあり、各チームの動向はもちろんのこと、NFLがどのように信頼回復するのか注目です。

 

 
 

From Esquire US 
Translation / Wataru Nakamura 
※この翻訳は抄訳です。