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 NASAが火星探査機「オポチュニティ(Opportunity)」の探査ミッション終了を発表したとき、私は一瞬言葉を失ってしまいました…。

 その理由はわかりません。こうなることは、誰もが予想していたはずです。どんな人であれ、気づかないうちに関係が悪化し、取り返しのつかない状況に陥ってしまったという経験はあることでしょう。

 もちろん、この探査ミッションの終了は誰かのせいというわけではありません。NASAも「オポチュニティ」も悪くはないのです。このような関係は道半ばで崩壊してしまうことは常であり、流星と同じように発火し始めればすぐに燃え尽きてしまうわけですから…。

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 ではここで、人類と「オポチュニティ」の関係について、その始まりから説明すべきかもしれません。「オポチュニティ」は、2000年代半ばに火星に配備された2台のローバー(探査車)のうちの1台です。

 当初、このローバーは90火星日(「ソル」とも呼ばれます。1火星日は約24時間40分)のみ稼働し、移動距離は1100ヤード(約1キロメートル)ほどになると予想されていました。その後15年が経ち、最終的には運用終了となりましたが、「オポチュニティ」による火星探査は極めて大きな成功を収めたことをわれわれは忘れてはならないでしょう。 
 
 ですが、そんな風に聞くと、別れを告げるのはなおさら辛い気持ちになるものではないでしょうか? どんな関係にも終わりがあるものです。が、人類と「オポチュニティ」の関係と同じように、あらゆる関係は「自分たちは違うかもしれない」、「自分たちは例外かもしれない」というような、ある種の盲目的な希望とともに始まるものでもあるので、ここは悲しまずに「さようなら」を言いましょう。

 「オポチュニティ」は実際、もう1台のローバー「スピリット(Spirit)」とともに火星探査を開始しました。ですが、この話の中では「スピリット」は無関係となります。「オポチュニティ」と「スピリット」は単にすれ違っただけの関係に過ぎません。「スピリット」は5マイル(8キロメートル)ほどの探査の後に役目を終えることになりましたが、「オポチュニティ」は違うのです。このローバーは、実に勇猛果敢だったのです。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Opportunity: NASA Rover Completes Mars Mission
Opportunity: NASA Rover Completes Mars Mission thumnail
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 人類と「オポチュニティ」の関係は、初めての長期的な恋愛関係のようなものです。

 誰かと長く付き合うことは、信じる価値のある何か、心の一部を預ける価値のある何かを手に入れるということになります。もちろん、この関係が崩れてしまえば、それは失われてしまうわけです。しかし、長期的な恋愛関係となると、そんなリスクを冒す価値はある…と言えるでしょう。

 そもそも、生きている実感を得られる様々なリスクを伴わない人生に、何の意味があるのでしょうか。

 だからこそ人類は、この「オポチュニティ」に投資したわけです。そして、このローバーは火星中を探査して20万枚以上の写真を撮影し、この星に水があったことを示唆する赤鉄鉱を発見したのです。「オポチュニティ」は火星に関して、過去のローバーによるあらゆる探査プログラムにも増して、多くのことを人類に教えてくれたのです。


 とは言っても…再び言わせてもらいますが、ほとんどの恋愛関係と同じように停滞し、マンネリに陥ることもあったのは事実です。

 恋人同士が「愛してる」と伝え合うことを忘れてしまうように、人類も多くの科学的発見をもたらしてくれた「オポチュニティ」への感謝の気持ちをしばしば忘れてしまったのです。

 このローバーが火星に湖の存在していることを示唆する痕跡を発見したこともありました。が、人類の反応はイマイチでした。そして、彼らはついには自分たちが火星に行くことにこだわった理由さえ、すっかり忘れてしまったのです。

 そうこうしているうちに「オポチュニティ」は、前輪の操舵が効かなくなり、256MB(メガバイト)のメモリも使えなくなってしまいました。もはや人類にとって、関係を始めたパートナーではなくなってしまいそうな…という恋愛で言うなら危機的状況であることを認識しながらも、われわれも当時は火星に対して夢中ではなくなっていたのでした。  


 長く付き合ってきたパートナーを捨てた人は、反省と展望を繰り返すのです。まずは、「こんなことはもう嫌だ。こんな関係はもうごめんだ」という考えが頭の中を渦巻くでしょう。ですが、今回の場合はこうです…。自分の時間の大部分を占めてきたこの関係に、ようやく心の中でけじめをつけることができた…というときに「彼女が逝ってしまった」というニュースが届くわけです。
 
 「オポチュニティ」は過去1年間、火星全体を覆った砂嵐により音信不通となっていました。NASAはこの1年、メッセージを送り続けてきましたが、このローバーからの応答はありませんでした。数カ月の試みで1000回以上の信号が送られた後、NASAはついに人類と「オポチュニティ」との関係に終わりを告げたのでした…。 
 
 私はオフィスの窓から外を見つめながら、音信不通になった元恋人たちとの関係に思いをはせます。「本当に大事なときに、どうして2人は『愛してる』という言葉を言い忘れていただろうか」と…。

 人間と人間の関係であれ、人間と機械あるいは機械と機械の関係であれ、あらゆる関係を強く保つものは、当事者たちの絶え間のない努力にほかなりません。そうして私は、胸に手を当てて空を仰ぎ、人類に素晴らしい「機会=Opportunity」を与えてくれた「オポチュニティ」にささやかな感謝の気持ちを送る次第です。 


 今度は地球へと意識を向け直し、自分が手にしているものに常に感謝を忘れないよう心に刻むのでした…。
 

 
From Esquire US 
Translation / Wataru Nakamura 
※この翻訳は抄訳です。


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