2017年6月15日に都内で開催された
「LINE CONFERENCE 2017」。
コミュニケーションアプリの
国内トップ企業・LINEにとって、
1年に1回開催する最も重要な事業説明会だ。
 

この記事は、「東洋経済オンライン」
(東洋経済新報社)が2017年6月19日に
掲載した記事の転載になります。

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出澤 剛(いでざわ・たけし)、1973年生まれ。1996年早稲田大学卒業後、朝日生命保険に入社。2001年にオン・ザ・エッヂ入社、2007年ライブドア社長に就任し経営再建を果たす。2015年4月より代表取締役社長CEO。 Photography/大澤 誠

 会場には報道陣や関係者など1000人近くが訪れ、LINEの次なる成長戦略に耳を傾けた。発表されたサービスの背景には、どのような意図が隠れているのか。
 
 特に注目を集めた点について、出澤剛社長を直撃した。


――カンファレンスで最も目を引いたのが、クラウドAIプラットフォーム「Clova(クローバ)」と、クローバを搭載するスピーカー端末「WAVE(ウェーブ)」だった。呼びかけるだけでおすすめの音楽をかけてくれる、周辺の天気の情報を教えてくれるなどの機能が披露された。
 
 発表の場で舛田(淳取締役)が「わが子を世に出すような気持ち」と言っていたが、実際に人間とのやり取りから学習し、どんどん賢く育っていくので、本当に生き物に接している感覚を持っている。
 
 
――AIスピーカーにはアマゾン、グーグル、アップルが続々と参入しているが、各社のコンセプトを見るかぎり、まだはっきりとした違いがない。クローバはどんな特徴を打ち出していくのか。

 LINEアプリでのコミュニケーションを音声化して使える、というのをキラーコンテンツにできると思っている。他社のAIスピーカーを見ていると、継続的に使ってもらうことにはまだ課題があるようだ。つまり、興味本位で買ってはみるが、毎週、毎日使う必然性がない。


シリコンバレーの会社が強いとは限らない

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Clovaについて説明する舛田氏。「わが子を世に出すような気持ち」と語った。 Photography/大澤 誠

  
 スマホの歴史を振り返っても似たようなもので、爆発的な普及はキラーコンテンツとなるアプリが出た後だった。それがゲームアプリであり、コミュニケーションアプリだ。AIスピーカーの普及にもそういう存在が求められているし、コミュニケーションアプリがその役割を果たす可能性は大いにある。
 
 また、日本人に合わせた使い勝手を追求していくことにも強みがあるだろう。単に日本語の音声認識能力を磨くだけではなく、使えるサービス、使えるデバイスの両方を広げていく必要があり、その点クローバは、トヨタ自動車、ソニーモバイルコミュニケーションズ、タカラトミーをはじめ、これまでの日本でのビジネスの蓄積を生かして、提携の話を進められている。こうした点は、一概にシリコンバレーの会社が強いとは限らない。
 
 とはいえ、やはり音声認識は肝になる部分。投入のタイミングを逸して別の会社にシェアを取られてしまえば、そこにどんどんデータが溜まり、差を付けられる。ローカルの企業の強みが生かせる今の時期にしっかり参入して、実際の音声に触れさせることが重要だ。

10代を取り込む強さ

――アマゾンやグーグルのファンにはガジェット好きの人が多そうだが、LINEにそうしたイメージはない。初期段階の販売、普及でもたつく懸念はないか。
 
 うーん……。そこは非常にいい指摘で、実際に社内で練っているところ。先行販売の時期にはアーリーアダプターといわれる先鋭的な層に向けた施策も考えているが、やはりLINEアプリの普及の過程に似てくる気はしている。つまり、主婦層の方など、普段あまりPCを使わない層に広がっていく形になるのではないか。そのためにも、初回限定版(音楽再生機能のみを搭載)の価格は1万円と、ライバルのものより安い水準にした。
 
 ただ、端末を売ることがわれわれのやりたいビジネスではない。クラウドAIプラットフォームを育て、提携企業のIoTデバイスに頭脳として入っていくこと。この部分が非常に重要だと思っている。
 
 
AIスピーカーで先行するのは米アマゾン

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LINEは明確な違いをユーザーにアピールできるか。 Photography/大澤 誠

 
――収益化についてはどのように構想しているか?

 まずは普及させることが先決。大事なのは、われわれが主戦場とする韓国や日本でナンバーワンになること。AIがもたらす社会変革はスマホがもたらしたものより大きくなり、マーケットも大きくなるのは間違いない。いろいろなビジネスの可能性が見えてくるはずだ。

10代の取り込みについては、確実に役に立てる

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LINEショッピングには100以上と多くのブランドが参画する。 Photography/大澤 誠
 
 
――LINEが力を入れている、ほかのアジア諸国での投入の可能性は?
 
 今はまず、日本と韓国に集中していく。ただ、やるからにはグローバルで考えており、LINEが(コミュニケーションアプリで)高いシェアを誇る国々に出ていきたい。
 
 
――EC関連の新事業「LINE SHOPPING」も発表された。アパレルをはじめ多数のブランドの商品を検索・比較することができる一方、購入のためのカートや決済機能はLINE側に設けず、各ブランドの購入サイトに送客する仕組みとなっている。このサービスでは「入り口に徹する」とのことだが、どのような経緯でこうなったのか?
 
 最近、これまで巨大モールやファッション専門ECサイトに出店してきた企業が自社サイトに回帰する流れがある。自前のサイトを運営したほうがブランドの世界観を表現できるし、顧客データを蓄積・分析できるためだ。クラウド化が進み、インフラのコストが下がったことも後押ししている。
 
 そういう時流を考えると、われわれが全部やるより、各社のサイトに誘導するほうが多くのブランドから共感を得られるだろう。若年層の取り込みに課題を感じている会社は多く、特に10代を取り込むための効率的な手段を見いだせていない。その点で、われわれは確実に役に立てる。
 
 半年前から取り組んできた試験運用では、ユーザーにもかなりアクティブに使ってもらえており、非常に手ごたえを感じた。ユーザーにとっては、LINE経由で簡単に買い物ができ(スタンプ購入などに使える)LINEポイントをためられる点にメリットを感じてもらえたのだろう。

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カンファレンスにはなんと高市早苗総務大臣が登場した。 Photography/大澤 誠

 
――かつて「LINEMALL」(個人間の商品売買サービス)を展開していたが、2016年に撤退した。ECに再挑戦する意味をどう考えているのか。
 
 個人間の売買とは構造の違いがあり、発想の原点が違っている。どちらにしろ、ECはLINEが「スマートポータル」を標榜するうえで欠けているパーツであったことは確か。今回発表したものに限らず、EC領域では引き続き新サービスの可能性を探っていく。
 
 
――AI領域でトヨタとファミリーマート、公式アカウントの領域で総務省「マイナポータル」との提携も発表され、澤田貫司ファミリーマート社長、高市早苗総務大臣も登壇した。LINEの会社としての立ち位置、ステージが変わってきた実感はあるか。
 
 非常に尊敬すべき、歴史の長い会社や組織とパートナーシップを結べたうえ、トップがわれわれの発表の場にお越しいただけるのもうれしい。そういうことができるまでになってきたなと、しみじみするところはある。
 
 提携の話はこちらから持ちかけるもの、先方からお声かけいただくものと両方あるが、まず広告やアカウント運営で使っていただき、成果に満足してもらい、そこから長い付き合いとなり、さらに深い提携の相談をしやすくなるという好循環ができている。このような関係性は重要な資産だ。
 
 あらゆる会社、国や地方の行政機関が、テレビや雑誌に触れない若年層へのアプローチに課題を抱えている。そんな中で、もっともリーチしやすいツールはLINEだろうという共通認識ができあがってきた。これはLINEにとって大きなチャンス。ユーザーに新たな使い方を知ってもらって、生活にいっそう浸透させていきたい。

長瀧 菜摘 :東洋経済 記者
2017年6月19日掲載分