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 米世論調査サイト「ファイブサーティエイト」の報告によれば、ケネディ暗殺は「単独犯ではなく、複数犯によるもの」であったと考えている米国人の割合は、61%にも達したといいます。

 しかし、こういった陰謀論にもまもなく別れを告げるときが来るかもしれません。2017年10月26日(米国時間)、ケネディ暗殺事件に関するおよそ3600件もの機密書類が初めて公開されるためです。これらの書類に記された情報は、この事件に関するあらゆる馬鹿げた説を覆すことになるかもしれません。 

 とはいえ、残念ながら、おそらく多くのインタビューやその他の書類は事件の核心に触れるものではないでしょう。「タイム」誌の記事の中では、「最終的に公開予定のほとんどの情報については、Assassination Records Review Board(暗殺記録再評価委員会)が1990年代に検証した際に、『暗殺への関連性が低いもの』として分類したもの」とされています。 

 そうは言っても歴史家たちは、間違いなくこれらの文書を熱心に読み込み、20世紀史上もっとも悪名高い犯罪の謎を解くための手がかりを探そうとするでしょう。 

 こういった検証は彼らに任せておきましょう。今回は、ケネディ暗殺事件をめぐる陰謀論のうち、最も知られている5つの陰謀論をご紹介します。


茂みのある丘に2人の狙撃手がいた説

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 1964年、ウォーレン委員会(ケネディ大統領暗殺事件を調査するために設置された委員会)は、ケネディ暗殺がリー・ハーヴェイ・オズワルドによる単独の犯行であると結論づけました(また、オズワルドを2日後に殺害したジャック・ルビーも、単独犯であったとされました)。

 しかし、この事件が狙撃手単独によるものであったいう結論は、ほとんどの人々が受け入れていないようです。 

 長年話題になってきたこの陰謀論については、米下院に一定の責任があるといってもいいかもしれません。下院の暗殺問題調査特別委員会は1976年、ケネディとキング牧師の暗殺について再調査を行い、「ケネディがパレード中に暗殺された場所を見渡せる『茂みのある丘(grassy knoll)』に、“おそらく”二人目の狙撃手がいた」という結論を出したのです。つまり、一人による衝動的、個人的な感情から起きた事件ではなく、なんらかの作戦のある事件であったことを想像させるわけです。 

 1982年、今度は全米科学アカデミー弾道音響委員会という別の調査委員会が証拠を検証しました。

 そして、同委員会は信頼できる音響データをもとに「二人目の狙撃手がいた」という結論を否定しています。しかし、この曖昧ではありますが、陰謀あっての事件である論議は、現在もまだ続けられています。

怪しげな傘の男説

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 「快晴の日に、傘を持ち歩く人などいるだろうか」という疑問を抱いた「Umbrella man(傘の男)」陰謀論を信じている人々は、日焼けの心配をすることなど毛頭、考えることはないでしょう。

 1963年11月22日、ルイス・スティーヴン・ウィットはディーリープラザに黒い傘を持ってきていました。そして、ケネディ大統領の車が通過する際、彼がこの傘を頭上にかかげる様子が、有名なザプルーダー・フィルム(エイブラハム・ザプルーダー氏のケネディ暗殺事件を偶然記録した映像)に映っていたのです。この不審な動きについては、「狙撃手に合図を送っていたのではないか」という説や「傘から毒矢を発射したのではないか」という説があったといいます。 

 しかし、事実はまったく面白みのないものでした。1978年、ウィット氏はインタビューで「単に大統領を嫌っている」ことを明らかにしました。 

 自ら保守派と呼ぶウィット氏は、傘がケネディ家にとっての「痛い部分」であると聞きつけて、これを持っていったようです。この傘は、第二次世界大戦前のドイツに対する宥和政策を支持していた英国首相のネヴィル・チェンバレンを示唆しています。ケネディの父であるジョセフ・ケネディはそんなチェンバレンを支援していたため、ウィット氏はこの傘が皮肉になると思ったのです。

マフィアとの対立説

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 ケネディは、組織犯罪と無縁というわけではありませんでした。実際、1960年の米国大統領選では、ケネディがマフィアの手を借りて、重要なイリノイ州の票を確保したという話も一部では信じられています。しかしながら3つ目の陰謀論は、ケネディ家とマフィアとの対立に関するものです。 

 両者の対立をもたらしたのは、次の2つの事柄であると考えられています。

 1つ目は、ケネディがキューバのフィデル・カストロ政権の転覆に失敗したことです。これにより、マフィアはカストロに閉鎖されていたキューバのカジノを再開できないことになりました。

 2つ目は、ケネディの弟であるロバート・ケネディが、司法長官としてマフィアの撲滅を目指していたことです。ロバートは、マフィアとの癒着の疑いがあったジミー・ホッファ(全米ドラック運転手組合会長)を厳しく追及しました。  「ロバート・ケネディは、自分のせいで兄が暗殺されたのではないかと考えていました…」と、伝記作家のエヴァン・トーマスは語っています。

 「『(ケネディ暗殺は)マフィアを起訴しようとするロバート・ケネディの試みと、カストロ暗殺計画の失敗が最悪の形で裏目に出た結果の意図せざる副産物であった』、というのが識者たちの考えです。

 ボビー(ロバートの愛称)は『兄ではなく自分が殺されるだろう』と考えていました。そして彼は今、寒気がするような恐ろしい可能性に気づいてしまったのです。それは、『マフィア撲滅やカストロ暗殺のためのあらゆる自分の試みが、最悪な形で裏目に出て、その報復として家族全員が苦しめられている。そして、米国大統領である兄の死という結果をもたらしてしまった』ということです」とトーマスは話しています。

政府主犯説

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 こういった陰謀論のなかでも最も恐ろしいものは、ケネディ暗殺が政府内部の犯行であったというものです。

 伝記作家のフィリップ・シノンによれば、ロバート・ケネディがはじめに思い当たったのは、この可能性だったといいます。「ボビー(ロバート・ケネディ)は最初に、CIA内部の反抗的勢力の手による暗殺の可能性を疑いました」と、シノンは「NBCニュース」に語っています。しかし、当時のCIA長官であるジョン・マコーンに面会した後、ロバートはこの考えを改めています。 

 とはいえ、一般の人々はロバートのように、この疑いを簡単に晴らすことなどできませんでした。動機が十分にある(CIA幹部は、ピッグス湾事件についてケネディに明らかに憤りを感じていたといいます)謎に包まれた組織に対し、疑いがかかるのは当然のことです。とはいえ、CIAはケネディ暗殺とは全く関わりがないことを主張しました。

 「CIAの関わりがあるという陰謀論は、映画の題材としては優れていますが、いずれもフィクションに過ぎません」と、CIAの広報担当者であるエドワード・プライスはNBCに語っています。 

 内部犯によるものであるとする他の説には、大統領の乗っていた自動車のドライバーであったウィリアム・グリアが後ろを向いて、ケネディを撃ったというものもあります。これは、ザプルーダー・フィルムの質の悪いコピーを根拠にしたものでした。

テッド・クルーズの父が関係しているという説

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 この説は、比較的新しいものです。2016年の大統領選挙において共和党の候補者であったトランプ氏は、候補指名で争う同じ共和党のテッド・クルーズ氏の父が、リー・ハーヴェイ・オズワルドと親交があったことを示唆しました。

 「テッド氏の父は、リー・ハーヴェイ・オズワルドと一緒にいたんです。オズワルドが撃たれる前のことです」と、トランプは「FOXニュース」の電話インタビューで語っています。

 「何もかも馬鹿げています。『これはどういうことなんだ』と思いませんか。オズワルドが撃たれる前のことです。なのに、誰もがこの話題をもち出さないんです。誰もそのことについて話そうともしません。報道されたことなのに…。誰も話そうとしないんです」とトランプは話しています。

 トランプは候補者氏名争いでクルーズ氏を破った後にさえ、人々の目をこの主張に向けようとしました。「私はナショナル・エンクワイラー紙の表紙に掲載された事実を指摘したまでです。ラファエル・クルーズとリー・ハーヴェイ・オズワルドが一緒に朝食を食べている写真が載った表紙です」と、トランプはオハイオ州クリーブランドでの演説中に語っています。 

 トランプが、タブロイド紙「ナショナル・エンクワイラー」を信頼できるニュース源として参照した理由についてはわかりません。おそらく、トランプの友人であるデヴィッド・ペッカーの媒体であることと関係があるのかもしれません。

 「この雑誌こそ多くの点で率直で、尊敬を集めるべきものです。O.J.シンプソンやジョン・エドワーズのネタをスッパ抜いたのも彼らです。そんな彼らが報じたのです。これが『ニューヨーク・タイムズ』紙なら、彼らはこの報道でピューリッツァー賞をとってもおかしくないでしょう」と、トランプは語っています。

Source / ESQUIRE US
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。