以前、「エスクァイア」日本版で、タイタニック号を発見した海洋考古学者・探検家のロバート・バラード氏が、消えた女性飛行士アメリア・イアハートの行方を探し出すプロジェクト発表の記事を公開いたしました。今回、バラード氏がどのような探索方法を行う予定なのかを明らかにしました。 
 
 ロバート・バラード氏は2019年8月上旬のある日の日没直後、自らの海洋探査船であるノーチラス号の制御卓に座っていました。この全長64メートルの探査船が停泊していたのは、ニューギニア島とハワイの間に位置する南太平洋の小島、ニクマロロ島の周辺。クルーたちは探査ロボット「ROV ヘラクレス」を暗い水中に降ろしたところで、このロボットは約300メートル下の静かな海底を這(は)い進み、その映像をノーチラス号に送信するものでした。 
 
 バラード氏は椅子の背にもたれ、岩やサンゴに焦点が合うたびに、青と黒にちらつくスクリーンを見つめていました。彼が探していたのは、海底にふさわしくない、場違いで目を引くような何かで、それはほんの小さな破片であっても、我々の時代の最大の謎の1つを解決する手がかりになる可能性がありました。

 そんな彼らが彼らが見つけようとしていたのは、1937年に消息を絶った女性飛行士アメリア・イアハートが乗っていた飛行機の残骸です。 
 
 「このようにコツコツやるしかありません」と、バラード氏は暗い制御室の中でクルーたちに語りかけます。「ポップコーンをつくって映画館に行くのとはわけが違います。私たちは、この作業を数週間続けるつもりです。どう思いますか?」と問いかけています。

80908
Gabriel Scarlett
海洋探査船ノーチラス号船内でのロバート・バラード氏。

 バラード氏にとって、これは初めての海洋探索ではありません。この77歳の深海探検家はこれまで、発見不可能とされてきたものを次々に発見し、現在の名声を築いてきました。1985年に彼はタイタニック号を発見し、1989年にはドイツの戦艦ビスマルクも発見しています。また、2002年に大統領になる以前のジョン・F・ケネディが艦長を務めていた魚雷艇「PT109」を発見したのもバラード氏です。 
 
 「今回はこれまでより困難です」とバラード氏は、イアハートのミッションについて語ります。「自信があるかって? もちろんです。十分な時間がもらえれば、見つけられるでしょう。彼女の飛行機は存在します。ネス湖の怪獣やビッグフットとは違います。飛行機は確かにそこにあるのですから」と、バラード氏は続けて話しました。 
 
 「ナショナルジオグラフィック」チャンネルが、2019年10月20日に放送した特別番組『Expedition Amelia』の中では、この探索の最初のフェーズが特集されました。バラード氏らは海洋探索に集中し、考古学者や地質学者のグループがニクマロロ島を探し回りました。この島の北西側を彼らが探索することになったのは、そこに驚くほど魅力的な手がかりがあったためです。ミッションに関わった誰もが、飛行機の小さな残骸や破片といった何らかの手がかりを見つけられると確信していました。しかし、彼らの目論見は外れ、この探索はまったくの収穫なしで終わりました。とは言え、バラード氏や彼のクルーたちにとって、この物語はまだ始まりに過ぎません。


 バラード氏らのグループは2019年初め、推定1214万平方キロメートルにもおよぶ米国の領海の調査のために1億ドル近くの助成金を米海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Administration、NOAA)から与えられました。この10年がかりのミッションは、米国が保有する知られざる海中の土地を探索するためのものです。

 この助成金の取得後、バラード氏はナショナルジオグラフィック・スタジオのシニアバイスプレジデントを務めるクリス・ウェバー氏に連絡を取り、「このミッションでニクマロロ島のすぐそばを調査することになる」と伝えました。40年来の付き合いになる2人は、このミッションこそが彼らにとってこの島の適切な探索を行うチャンスであると分かっていたのです。 
 
 「歴史的航空機の発見を目指す国際グループ(TIGHAR、The International Group for Historic Aircraft Recovery)」による調査のおかげで、近年ではイアハートの飛行機がハウランド島を目指す行程の途中で、全長7キロメートルほどのニクマロロ島の近くで墜落したことを示す証拠が集まっていました。 
 

80908
Gabriel Scarlett
海中に降ろされる探査ロボット。失踪したアメリア・イアハートの飛行機の残骸を見つけるために使用されます。

 
 
 イアハートが消息を絶って3ヵ月後に、この島で撮影された1枚の粗い写真には水中から出る飛行機の前輪らしきものが写っていました。TIGHARがこの写真を受け取ったのは数十年後のことで、彼らは2012年には同じ島で20世紀初頭のそばかす用クリーム(そばかすを隠すための化粧品)の容器を発見していました。イアハートには確かにそばかすがあり、「ナショナルジオグラフィック」の文書によれば、彼女は自身のそばかすを嫌っていたと言います。

 また、失踪当日には、女性が必死に助けを求め、島の詳細を伝えているような内容の救難信号も受信されていました。この他、イアハートの飛行機の穴をふさぐために使われた可能性がある謎めいたアルミニウム板、女性のものと考えられる13個のミステリアスな人骨など、TIGHARは無視するにはあまりに多くの証拠を集めていました。ニクマロロ島は以前にも探索されていましたが、「ナショナルジオグラフィック」チームが今回の3週間で実施した大規模な探索が行われたことはありませんでした。

 また、最も重要なことに、バラード氏らのチームの専門知識やハイテクツールが可能にした、徹底的な深海探索が行われたこともありませんでした。 
 
 「オフィスにこのアイデアを持ち帰って、『これを見つけられるのは本当にボブ・バラード1人しかいない』と言ったんです」と、ウェバー氏は語っています。「独創的な発想、深海にあるものを発見するノウハウ、そのための技術や実績においてバラードの右に出るものはいません。私は興奮してこう言いました、『我々にとって、またとない最高のチャンスである』と」。 
 
 「ナショナルジオグラフィック」の特別番組の中では、最近の探索映像だけでなく、フェミニストで時代に先んじていたパイオニアであった、イアハートの魅力的な歴史的映像が随所に使われています。1937年6月1日、39歳だった彼女は双発機「ロッキード・エレクトラ」でマイアミを出発。彼女の目標は、世界一周飛行を成し遂げた初の女性になることでした。しかしながら1937年7月2日、ニューギニア島から離陸して曇り空の中を飛んでいた彼女は、燃料が足りなくなっていることを無線通信で報告した後、消息を絶ちました。

 米海軍は約40平方キロメートルに及ぶ大規模な捜索活動を行いましたが、イアハートや彼女の飛行機の手がかりは何も見つからず、捜索は1937年7月19日に打ち切られました。当時の米当局の説明は「彼女の飛行機は水中に墜落した」というものでした。

Searching for Amelia MM9001
EMILY SHUR
アメリア・イアハートを探索しているロバート・バラード氏は、1985年にタイタニック号を発見した海洋探検家です。

 
 
 彼女の身に何が起こったのかについては、長年数々の仮説が立てられてきました。

 その中には、「日本軍の捕虜となった後死亡した」といったものもあれば、「米国に帰還をはたし、ニュージャージーの主婦としてひっそりと生きた」といったものもあります。しかし、最も証拠の多い仮説が示唆しているのは、彼女が当時の目的地であったハウランド島の近くまで到達したということです。海洋探査船ノーチラス号は2019年8月9日、52時間の移動を経て、イアハートが生涯最後の数日を過ごしたことが示唆されるリング状の島に接近しました。 
 
 オーシャン・エクスプロレーション・トラスト(バラード氏の海洋探査企業)の最高執行責任者を務めるアリソン・ファンディス氏は、「自分自身の感情的反応に驚かされました....彼女が上陸し、亡くなったと信じられているこの島を見て、こみ上げるものがありました」と語ります。「このミッションは私にとって、非常に重要なものなんです。個人的にも女性としても、アメリア・イアハートは私が大きな影響を与えられた人物でした。今でも、少女時代に彼女についての本を読んだことを覚えています。彼女は常識を覆すパイオニアでした」と、ファンディス氏は続けて話しました。 
 
 また、バラード氏が育ったカンザスは、イアハートが住んでいた土地から遠くはありませんでした。バラード氏は「彼女は、私の家族にとってのロックスターでした」とし、「いつもアメリアを慕っていました」と述べています。 
 
 彼らの探索期間は3週間でしたが、バラード氏とファンディス氏には「すぐに何らかの手がかりが見つかるだろう」という確信がありました。しかし、彼らは何も見つけられませんでした。『Expedition Amelia』の撮影は2019年8月22日に終わり、クルーたちはニクマロロ島の北西側を徹底的に調査し尽くしました。これはまるで芝生を刈るような作業だったと言い、さらに、エリア全体をカバーするまで行ったり来たりを繰り返したと言います。イアハートはそこにはいませんでした。

Blue, Outerwear, Electric blue, Sleeve, T-shirt, Photography, Smile, Portrait, Uniform,
Stewart Volland
オーシャン・エクスプロレーション・トラストの最高執行責任者を務めている、アリソン・ファンディス氏


 
 とは言え、バラード氏とファンディス氏の探索は始まったばかりです。彼らは現在、異なる2匹の犬が遺体を含んでいると判断した、ニクマロロ島の砂の分析結果を待っているところです。そして彼らは、すでに2021年にこの島に戻り、島の北東部の広範な探索を行う計画を立てています。さらに、ここでも証拠が出なければ、彼らはイアハートの目的地であったハウランド島を調査する予定です。この島はすでに何度か調査されていますが、バラード氏とファンディス氏はハウランド島周辺の海の平気的な深さである深海5000メートルを探査できる新たな技術を持ち込む予定で、すでにマッピングを開始しています。 
 
 しかし、バラード氏とファンディス氏、ウェバー氏はいずれも、ニクマロロ島北東部に何らかの手がかりがあると予感しています。 
 
 「タイタニック号の発見には、4回の探索が必要でした。戦艦ビスマルクのときには2回です。海洋探索は簡単ではありません。トントン拍子に行くと予想していたのでしょうか?」とバラード氏は話します。

 「大きな海ですが、いつかは見つかるでしょう。いつテクノロジーがこれを容易にしてくれるのか? という問題であり、それはまもなくです」と、続けて語りました。 

 

 
 

From Esquire US 
Translation / Wataru Nakamura 
※この翻訳は抄訳です