米「タイム」誌は2019年12月11日、2019年の「今年の人」に環境活動家のグレタ・トゥーンベリさん(以下、トゥーンベリさん)を選出したことを発表。そして現在、このことに対して多くの人が憤慨しているという現状になっています…。
それはなぜでしょう。
これに関しては、「香港の抗議デモ隊こそ、『今年の人』にふさわしい」という主張もあれば、トゥーンベリさんが気候変動の専門家でないことも指摘し、彼女の意見に耳を傾けることに疑問視する声が上がっているのでした(とは言え、そもそも誰もが専門家の意見に耳を傾けなかったからこそ、彼女のような若者がこの問題に取り組むようになったわけですが...)。
また、彼女のことを「事態をさらに悪化させる運命の預言者」と呼ぶ人さえ出てきているようです。ドナルド・トランプ大統領はこのニュースを受け、トゥーンベリさんに「落ち着いてくれたまえ」とツイートし、アンガーマネジメント(怒りをコントロールすること)に取り組むよう提案しています。
人類が気候の危機に対して最小限の行動しか起こしていないことや、トランプ政権の発足以来、米国がこの問題について多くの点で後退してきたことを考えれば、トゥーンベリさんが成し遂げたことは不可能に近い偉業とも思えます。「タイム」誌の発表と同日にリリースされた2つの報告書は、まさにこのことを裏づけるものでした…。
そのひとつ、国連のIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change 、気候変動に関する政府間パネル)の報告書は数カ月前、世界の二酸化炭素排出量を劇的に削減する手を打つために残された時間がかなり短くなっていることを明らかにしていました。
私たちがこのまま決定的な行動を起こさずにいれば、世界やその未来はさらにひどい状況に陥ることになります。そして、ある程度の温暖化が取り返しのつかないシナリオの引き金となるフィードバックループの可能性は、人類にとって最大の脅威となっています。このようなフィードバックループの一例に挙げられるのが、海氷の融解(ゆうかい、物理学で固体が液体に変化すること)です。
通常は白く、太陽光を反射するのが海氷の特性であったところ、溶けることによって表面に黒っぽい水たまりができます。それによって、その水たまりがより多くの熱を吸収することによって、周囲の氷の融解を加速させてしまうというフローを加速化しているのです。
しかし、2019年12月12日付の「ワシントン・ポスト」紙が伝えたもうひとつの新たなたなフィードバックループに関する報告書では、このような海氷の融解など取るに足らない現象と思えるほど重大なものだったのです。
特に注目に値するのは、「北極圏は永久凍土の融解により、地球温暖化をもたらす二酸化炭素の純粋な排出源となった可能性があり、これは地球温暖化をさらに加速させ得る」というのが、このレポートの結論です。永久凍土とは、北半球の陸地の24%をカバーする凍結した土壌で、大量の炭素が閉じ込められています。この永久凍土はアラスカ、カナダ、シベリア、グリーンランドにおよぶ広大な地域に広がっています。
北極圏の永久凍土には、約1兆4600億〜1兆6000トン(現在の大気に含まれる温室効果ガスのほぼ2倍の量)の有機炭素が閉じ込められているとされ、科学界では、これらの炭素が永久凍土の融解とともに放出される可能性が以前から懸念されてきました。今回の報告書は、「永久凍土のエコシステムは年間11億~22億トンの二酸化炭素を放出している可能性がある」と結論づけており、これは2018年に日本やロシアが放出した二酸化炭素の量に匹敵するのです。
「これらの観測結果が示すのは、気候変動を加速させるフィードバックループが既に進行中であるという可能性です」
…と、その報告書はまとめられています。
つまり、地球のどの場所より温暖化が加速している北極圏が、将来大量の炭素を放出する可能性があるということでしょうか…。そして、大気中に放出されたこれらの炭素が、さらに多くの熱を閉じ込めるという内容。具体的な点では、永久凍土に閉じ込められている炭素が、大気中にすでに含まれる炭素の2倍以上あることも指摘されています。これは懸念すべき状況に思えます。実際、何らかの緊急対策が必要と言わなければならない事象ではないでしょうか。
しかし、「ワシントン・ポスト」紙の話はこれだけでは終わっていません。
…衛星によってグリーンランドを研究している89人の科学者によれば、この島における氷床の消失は1990年代以降急速に加速し、現在では毎年当時の7倍以上の氷が消失している、と言います。氷の消失ペースは10年ごとにほぼ2倍と膨らんでおり、1990年代の年平均330億トンから、現在は年間2540億トンまで増加しているのです。
1992年以降、グリーランドでは4兆トン近くの氷が消失しており、新たな分析によれば、これは世界の海水面をおよそ1センチ上昇させた計算になると言います。
「1センチ」と聞くと、たいした数字ではないと思えるかもしれませんが、事実この海面上昇によって、すでに数百万の人々に影響を与えているのです。
リーズ大学のアンドリュー・シェパード教授は、「世界の海面が1センチ上昇しただけで、新たに600万人が毎年のように季節的な洪水に見舞われます」と語っています。
そして、本当の問題はここにあります。
気候変動はある段階までは問題視するほではないと感じるもので、その後、その状況が急変して最悪の結果へと陥るような問題でもありません。足元まで水位が上昇した状況が日常となるわけではなく、人々は事あるごとにひどい洪水や猛烈な嵐に見舞われるという結果になります。
気候変動の危機は現在進行形で、徐々に人類を危険な状態へと導いているのです。このスローペースが、「まだ大丈夫だろう」という誤魔化しに似た安心感を抱かせると言ってもいいかもしれません。
しかし我々は今こそ、この危機の悪化にどこで、どれだけ歯止めをかけることができるかが大きな問題となるわけです。国連はすでに、少なくとも5億人が世界中で食料不足の危機に直面することを示唆しています。乾燥化によって耕作地が失われる一方で、洪水や嵐、干ばつが農家の生活を破壊し、他の地域では食料不足をもたらしています。
こうして生活が立ち行かなくなった人々は、どこへ向かうのでしょうか? 彼らが向かった場所の先住者たちは、どのように反応するでしょうか? 現在の米国が移民や難民にどんな風に対処しているのか…も考えてみてください。
また、世界には食料として海産物に頼っている人々が、およそ30億人います。
2015年のある研究では、人類が世界の海洋で大量絶滅を引き起こしている可能性が明らかになっていました。このような現象は、科学者らが「地球史上6度目の大量絶滅」と呼ぶものであり、人類にとって最大の悲劇です。
飲料水の問題はすでに表面化しており、今後は悪化するばかり…。水をめぐる紛争も起こることでしょう。そして山火事は、年を経るごとに激化しており、山火事シーズンはますます長期化しています。最近では、山火事は米国西部やオーストラリア、ヨーロッパで猛威を振るうばかりか、北極圏でさえ発生しているのです。
このような現象はすべて、地球が急速に不安定化し、現代人の生活や文明の土台として揺らぎつつあることを示すサインそのものであり、私たちが目を向けるべき差し迫った問題です。
米国には他にも、国内における権威主義の高まりや反ユダヤ主義的ヘイトと見られる事件の発生、トランプ氏による慈善団体資金の不正流用、370万人がフードスタンプを失う可能性などの問題が山積みで、人々にこれらを無視するよう説得するのは無理な話です。
しかし私たちは、自らの将来の世代に多大な影響を与えるであろう素晴らしい運動に対して、ほとんど関心を抱いていないことも否定できることはありません。それもまた悲しい事実なのです…。
「香港の抗議デモ隊のほうが『今年の人』にふさわしい」という意見も理解できます。ですが、2018年から、トゥーンベリさんより人類の存続を脅かす危機への警鐘を鳴らした人がいるでしょうか?
数百万人の子どもや若者たちが、ストリートでデモをするきっかけをつくった人がこれまでいたでしょうか? そして、このような運動を行っているのが、若者たちであることにどんな問題があるでしょうか?
彼ら彼女らから、生まれながら有しているべき尊い権利を奪ったというのに…。そんな賢者たちに「落ち着け!」と伝え、さらには黙らせようとしている者とは、一体どんな人間なのでしょうか?
しかしながら、現在騒動になっている上の画像の真相を知っているのなら、また別ですが…。
Source / Esquire US
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。