※本記事は、ロサンゼルス在住のフリーランスのジャーナリスト、ジェニファー・チェン氏が「The Oprah Magazine」に寄稿した記事です。

 2020年6月、家族のために食料を買いにコストコへ駆けつけた際に、水のボトルパックを持ち上げるのに苦労している年配の韓国人女性に出会いました。私は韓国語を話せませんが、パックを持ってあげました。他にも何か手伝えるか聞いたところ、彼女は指を差したので、私は残りを彼女のカートに入れました。彼女はお辞儀をし、私はマスクの後ろで微笑みました。私がしたことは特別なことではなく、これは台湾からの移民の子どもとして染みついている、「年配者を尊敬する」という姿勢の一部です。

 もちろん、アジア系アメリカ人でなくても、年配者を気にかけることはできます。しかし、新型コロナウイルスの流行が始まって以来、アジア系高齢者は残酷な暴言や身体的攻撃の標的となり、その被害数は指数関数的(値が大きくなるに連れて程度や量が飛躍的に増すような状態)に増加しています。

 米国における、アジア人差別に対する反対運動を行う非営利社会組織の「Stop AAPI Hate」によると、2020年3月から12月までの間に60歳以上のアジア系アメリカ人に対する事件が126件報告されています。残念ながら、アジア系高齢者たちは簡単に標的にされてしまうのです。それもニューヨーク市だけでも、3人に1人のアジア系高齢者が英語を話せない家庭に住んでおり、身を守ることができず、何が起きたかを報告していない可能性も高いのです。

 「『カンフル(中国武術カンフーとインフルエンザを組み合わせたフレーズ)』という言葉が人種差別的な理由」をウェブメディア「The Oprah Magazine」で初めて記事にしたとき、私はFacebookで新型コロナウイルスに対するこの呼び方は、「人種差別を意味する言葉ではない」と主張するコメントを受けました。

 しかし事態は、依然として良くなることはなく…数カ月後、私はパンデミックが続くにつれアジア人への攻撃が驚くほど増加していることを書くことになります(2021年2月現在、47州とコロンビア特別区からのアジア人に対するヘイトクライムは、2808件も報告されています)。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

 それから1年が経ち、いま私は怒っています。

 アジア系高齢者が殴られたり暴行されたりしている動画は、見るに堪えられません。「私の祖母が今生きていなくて、本当に良かった」とすら思います。もし生きていたら、ヘイトクライムとして起訴されない加害者に押し倒されたり、頭を殴られたりしていたかもしれないのですから…。

 連邦法が定める「ヘイトクライム」の定義では、旧正月に「アジア系アメリカ人を殺す」と脅した男性のように、「武器を使用した直接的な脅迫でなければならない」と定められています。

 アジア系アメリカ人と太平洋諸島民(AAPI)のコミュニティの多くは、「面目を保つ」ことに誇りを持っています。私たちは黙って耐えることを教えられてきましたが、もはや黙っていることなどできません。特に、ニューヨークの地下鉄でカッターナイフで切りつけられた61歳のノエル・キンタナさんや、2021年2月にオークランドのチャイナタウンで地面に突き飛ばされた91歳の男性の事件が起きた後では…。

 動画の拡散は、何が起こっているかを記録するために不可欠ですが、私のような多くのアジア系アメリカ人にとって、同じ見た目の人たちが攻撃されている様子を見ることはメンタルヘルス(精神的健康)にも悪影響を与えます。

 コロンビア大学バーナードカレッジの心理学教授であるリサ・ソンさんは、「この暴力に立ち向かい、精神的被害に対処するために助け合う唯一の方法は、声を上げ、周囲に悩みを打ち明けることです。アジア人が『自己の確立』を優先したり重視する姿勢を見せないことは有名ですが、このことが孤立へと導く主たる原因となっています」と話しています。

 アジア系アメリカ人の有名人も声を上げ、AAPIのコミュニティ外に意識を広めるための場所を提供しています。ダニエル・デイ・キムジェンマ・チャンクリッシー・テイゲンオリヴィア・マン、ファッションデザイナーのフィリップ・リムなど、#StopAsianHate のハッシュダグを使ってInstagramで声を上げています。

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 映画『クレイジー・リッチ!』で主役を務めたヘンリー・ゴールディングは、アジア人に対する暴力について、作家のエリック・トダと議論した様子をInstagramに投稿しました。ゴールディングにコメントを求めたところ、次のように回答してくれました。

 「主な目標は団結を求めて、他のコミュニティにリーチすることです。アジア人コミュニティ内でこの話を広めても、釈迦に説法となりますから」

「アジア系アメリカ人だけでなく、すべての人がこの問題の深刻さを認識する必要があります」

 マーベルの新作映画『シャン・チー・アンド・レジェンド・オブ・テンリングス』とカナダのシットコム『Kim's Convenience』のスター、シム・リウは、ニューヨークのフラッシング地区チャイナタウンでアジア系女性を電柱に突き飛ばした加害者の写真をリツイートしました。

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Man who allegedly attacked Chinese woman on NY street arrested | GMA
Man who allegedly attacked Chinese woman on NY street arrested | GMA thumnail
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 彼女は10針も縫い、入院が必要なほど重傷を負いました。このツイートについてメールで問い合わせたところ、リウは次のようにコメントしてくれました。

 「アジア人のally(アライ=理解し支持する者)の皆さんは、私たちの言葉を聞いて、この闘いを他のマイノリティグループの闘いと比較しないようにしてください。これはアジア系アメリカ人だけに訴えているのではありません。すべての方がこの問題の深刻さを認識して、これ以上このようなことが起こらないよう積極的に行動する必要があるのです」と言います。

 アジア系高齢者を保護するための動きも見られています。オークランドでは、26歳のジェイコブ・アゼヴェドさんが84歳のタイ人男性がサンフランシスコで殺害された動画に激怒。そしてソーシャルメディアで、アジア系高齢者に危害が及ばないよう外出先でエスコートするボランティアを募りました。発表から数日のうちに、400人のボランティアが高齢者の安全を守るために「Compassion Oakland」という活動に参加しました。

 またニューヨーク市では、アジア系アメリカ人のビジネスオーナーが #EnoughIsEnoughという資金調達キャンペーンに参加し、地域のコミュニティに無料で食事を提供しました。今やコミュニティの中には、暴力を恐れて外出できない方たちもいるのです。

 ゴールディングはこうも話していました。「アジア人攻撃は全面的には報道されていないようで、ClubhouseでAAPIについて話した(俳優の)ダニエル・デイ・キムとダニエル・ウーのように、ソーシャルメディアを介してニュースを広めるのは一般の人たちに任されているような状況です」と。

 最近行われた #StopAsianHate のClubhouseトークでは、ダニエル・デイ・キム、ダニエル・ウー、リサ・リン、ヴァン・ジョーンズらが、この運動を前進させるために何ができるかを議論しました。

 Clubhouseのトークの中で、サンフランシスコのテレビレポーターであるディオン・リムは、彼女のメールボックスには動画や目撃談が殺到していると話しました。

 「これらの事件の90%は日の目を見ることがありません。人々は恐れ、文化の壁に妨げられているのです」とリンは話しています。そこにジョーンズは、次のように付け加えました。「私と同じ多くの黒人がこの状況を恥じ、憤慨しています。恐怖を抱いている高齢者に、あんなことが起きてはなりません」 

「人々は恐れ、文化の壁に妨げられているのです」

 地方政府レベルでは、アル・ムラツチ下院議員(トーランス)とデイビット・チウ下院議員(サンフランシスコ)が2月22日(月)に、カリフォルニア州司法省に法案AB 557を提出し、被害者や目撃者が匿名でヘイト事件を報告できるフリーダイヤルのホットラインとオンライン報告システムを要請しました。

 「すべての都市に、アジア系アメリカ人コミュニティの人々が使えるプログラムが必要です」と、ソンさんは言います。そして続けてこう話します。「匿名性へのニーズは非常に強いので、匿名のホットラインの設置が不可欠です。また、質問をしたり人種差別行為の正確な報告を得るためには通訳者も必要です」とのこと。

 前向きな反応として、カリフォルニア州議会はアジア系に対するヘイトクライムを追跡する組織の調査のために140万ドルの州資金の提供を承認し、あとはニューサム知事の署名を待つのみとなっています。

 2020年3月、私は「中国ウイルス」や「カンフル」といった表現が私たちのコミュニティに何をもたらすか、はっきり見ることができました。時間が経つにつれ、私は多くの見出しや虐待された顔の写真、そして故郷に帰るよう要求する看板を目にするようになりました。まるでアメリカは、私たちの居場所ではないかのように…。

  「中国に帰れ」という言葉は、私たちを黙らせ、身の程を思い知らせることを目的に発せられています。カリフォルニア州トーランスにある日本の調理器具店のドアには、誤字のある英語で「アメリカでは、やりたいことができる」と書かれていました。

 言葉には力があります。私は自分の持つすべての言葉を使っていきます。ぜひこれを読んだあなたも、そうしてください。

Source / THE OPRAH MAGAZINE
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。