この記事をざっくりまとめると…

  • 私たちの排泄物を原料にして、ジェット燃料を精製する技術が誕生しました。
  • 温室効果ガス全体に対する航空機の影響は約2.5%、また食料廃棄物への影響は約6%と言われています。
  • 新たな混合燃料により航空会社の温室効果ガス排出量をゼロにするだけでなく、さらにそれ以上の効果が期待されています。

 腐敗した食品や下水管を流れる汚水など、「湿った廃棄物」を活用して飛行機の動力を得ようという野心的な研究を行う科学者がいます。これは、飛行機から排出される温室効果ガスをゼロにするばかりか、航空燃料全体から排出される温室効果ガスの「165%の削減」が実現することになるというのです。これは温室効果ガス全体の約4%にも相当する量とも言われています。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

 …ということで、このたび廃棄物から発生する揮発性脂肪酸(VFA)を用いることで、ジェット燃料の原料となるパラフィンを生成する技術が開発されました。

 米国国立再生可能エネルギー研究所(NREL)は、「年間に消費されるジェット燃料は、アメリカ合衆国だけで210億ガロンを超え、2050年にはその需要が倍増することも想定されている」という調査結果を示しています。さらに以下のように語ります

航空機の電動化の見通しが当分立たないことを考慮すると、持続可能な航空燃料(SAF=ジェット機で使用される高度な航空バイオ燃料種別)の役割は、航空業界のCO2削減戦略の中で重要な位置を占めることになります。さらに、SAFの原料となる物質には芳香族化合物(編集注:ベンゼンを代表とする環状不飽和有機化合物の一群のこと)の含有量が少なく、煤(すす)や航空機由来のエアロゾルの排出を50~70%削減できることも証明されています。飛行中に排出された煤が核となって、飛行機雲が形成されるわけですが、この煤の放射強制力(編集注:地球に出入りするエネルギーが地球の気候に対して持つ放射の大きさを示す気候学における用語)は、航空機が排出するCO2の放射強制力よりも大きいのです
 
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研究者はリサイクル燃料や
再生可能燃料の開発に注力

 航空機からの排出ガス削減に役立つと見られているハイブリッド機や電動飛行機、代替燃料機などを開発しようとすれば、その難易度は地上を走る乗用車の開発とは比べものにならないほど高いのが現状です。その反対にジェット燃料については、自動車用のガソリンよりも低い純度のものを使用することが可能となります。そういったわけで、既存の飛行機に使用できるリサイクル燃料や再生可能燃料の開発分野に、研究者たちが力を注いでいるというわけです。

 水洗トイレからの排水や腐敗した生ゴミ、そして人々の排便など、「ウェットなゴミ(水分を多く含んだ生ゴミなど有機性廃棄物)」にはあらゆるものが含まれます。一般には生分解性(編集注:物質が微生物などの生物の作用により分解する性質)の廃棄物となりますが、例えば、それらを使った埋立地で発生するメタンガスのように、さらなる廃棄物を生み出す原因にもなり得ます。

 メタンは回収可能ですが、そのプロセスは非効率的と言わざるを得ません。有機性廃棄物を脱水し、そこに触媒を用いることで代替可能な炭化水素へと変換することで航空機の燃料を生み出すことができるというのが、今回の研究に関するNRELの解説です。

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 新たな抽出・混合の技術が生み出されたことで、含まれる炭化水素をより安全かつ高い割合で取り除くことができるようになり、効率的で燃焼性の高いジェット燃料の精製が可能となったというわけです。通常であれば、メタンへと変化する有機性廃棄物ですが、そのプロセスに手を加えることで、より複雑な構造を持つ炭化水素へと変換する方法が編み出されたのです。

 これはまさしく、大きな進歩と呼ぶべき功績です。コスト的にも妥当で、「VFA触媒のアップグレードに関する技術経済分析が示す通り、1kgのVFA(揮発性脂肪酸)の製造コストは約32円程度に過ぎません」と、研究者たちも胸を張ります。

温室効果ガスの削減量は
なんと165%にも達する計算に

 現在必要とされている航空燃料全体のうち、20%以上に相当する量の有機性廃棄物があるとされています。これは同時にメタン発生の原因となっている有機性廃棄物の埋立地利用からの転換も意味します。これを掛け合わせれば、温室効果ガスの削減量は100%を超え、まさに165%に達する計算となるというわけです。

 世界の空から温室効果ガスが減り、飛行機雲が減ることで、空の旅がより環境負荷の小さなものになっていきます。有機性廃棄物を効率的かつ安価に、パラフィンへと変換する革新的な技術は、フードロスによって生み出される腐敗物や生ゴミ、私たちの排泄物など、水分を多く含んだ廃棄物の処理に必要な高いエネルギーコストを抑えるのにも役立つでしょう。

Source / POPULAR MECHANICS
Translate / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です