記事のポイント

  • 「マンハッタン計画」とは、原子爆弾開発プロジェクトのコードネームです。
  • このプロジェクトは連邦議会すら知らないよう、完全に秘密裏に進められました。
  • 核兵器の開発は、戦争の様相を一変させました。

1942年、アメリカは一つの目標(ナチ党支配下のドイツよりも先に原子爆弾を開発し、打ち負かすこと)を念頭に、ある極秘プロジェクトを開始しました。それが「マンハッタン計画(Manhattan Project)」です。

当初の本部がニューヨーク・マンハッタンに置かれていたため、一般に軍が工区名をつける際のやり方にならって「Manhattan Project」としたこの計画では、アメリカの選び抜かれたエリート物理学者たちが起用されます。そして彼らは、第二次世界大戦終結への希望を抱き、純粋に理論のみを頼りに史上類を見ない兵器の製造に挑んだのでした。この取り組みは、わずか3年で実際に使用できる核兵器をつくり出しただけでなく、今日に続く軍産複合体(軍や政府などの軍事的組織と兵器産業が密接に結びついた軍事体制)のモデルとなりました。

そこでサイエンス・テクノロジー誌『Popular Mechanics』では、 第二次世界大戦終結の数年前に、一部の優秀な物理学者によって構想されたこのマンハッタン計画の始まりから1945年7月16日に人類初の核実験が行われるまでの歴史をたどり、「米ソ冷戦による対立がいかにアメリカの核兵器開発に拍車をかけ、その後、定着することになるアメリカの国家機密体制がどんな状況で生まれたのか?」を簡潔に説明。その案内人は、ニュージャージー州にあるスティーブンス工科大学で科学技術研究の責任者を務め、核の歴史に詳しいアレックス・ウェラースタイン(Alex Wellerstein)氏によるものです。以下は、ウェラースタイン氏の説明です。

preview for Oppenheimer and the World's Deadliest Secret

1945年7月16日午前5時30分ちょうど。アメリカのニューメキシコ州アラモゴードでは、いつもよりも早い夜明けがやってきました。人類初の核兵器実験が行われ、その爆発規模は21キロトン(TNT換算<爆発エネルギーを、同等のエネルギー量のトリニトロトルエン火薬の質量に換算したもの>で2万1000トン)。威力は、ほとんどの物理学者が予測していたよりもはるかに大きく、想定の4倍にも及びました。

5マイル(約8キロ)以上離れた場所で見ていた人々は、「暖かく、鮮やかな黄色の明るい光に包まれた」と証言しています。また、最初の閃光に続いて、オレンジ色の火球が拡大していったとも…。音速で広がった衝撃波により、125マイル(約200キロメートル)離れた場所で窓ガラスが割れたそうなほど響いたということ。

そして、「火球が見えなくなると、放射性核分裂生成物や爆弾の残留物、水滴、大きめの砂や瓦礫の粒子による柱が立ち上り、大気圏の上層に行くにつれて膨張しする現象、つまり、世界初の核爆発よるキノコ雲が発生した」と記録されています。

この核実験の威力はすさまじく、近くに住む市民でこの爆発に気がつかない人はいませんでした。連邦政府がまことしやかに行ったつじつま合わせの説明は、「弾薬や花火などが絡んだ偶発的な火薬庫の爆発であり、けが人はいない」というものでした。このように政府が意図的に偽情報を流布するという行為は、それまで国民に嘘をついてまで隠す必要のある秘密を実質的に持っていなかったアメリカにとっては、新たな出来事だったのです。

それから80年近く経った現在では、「マンハッタン計画」のような機密体制はすっかりアメリカ社会の一部として浸透していると言っていいでしょう。核兵器に加え、従来型兵器を進化させた攻撃型潜水艦やステルス戦闘機、ステルス爆撃機、極超音速ミサイルだけでなく、核兵器運搬システムも厳重な機密体制の中で日々開発されているのですから…。

こうした取り組みには、何十億ドルもの資金と何十万人もの人々が関わっています。2022年時点で、280万人が何らかの「セキュリティー・クリアランス(機密を扱うことができる適性評価)」を持ち、120万人が最高機密を扱えるクリアランスを保持しているのです。世界を見渡せば、中国、ロシア、北朝鮮、イランなど、アメリカには現在ライバル関係にある国が複数あり、その国の性質上秘密が必要な状況となっています。

とは言え、理論的には平和な国であるアメリカで日常的に扱われている機密事項の多さには驚くばかりです。こうした状況のそもそもの起源は、原爆を開発するための「マンハッタン計画」だったということです。

source / POPULAR MECHANICS
Translation / Keiko Tanaka
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です